第66話 装置の完成
この様子だと、生命維持装置は完成しているみたいだな。
「お疲れ~。 何かいい魔物とれた?」
そんな確信を持ったところで、ダイさんはそう尋ねてきた。
「はい。……結構でかいので、実物は格納庫で」
「そうだね。生命維持装置もあそこに置いてるし」
などと話しながら、地下の格納庫に移動する。
到着すると……俺は自分用特殊空間から、キンキンに冷えた彗星竜の腸を取り出した。
「……寒っ! これどっから獲ってきたの? ただの雪山とか、そんな次元じゃないよねこれ!?」
「宇宙空間っすよ。流星魔獣の流れ星として落ちてないバージョンとか、宇宙にならいそうだと思ったんで……探したらいたんで倒してきました」
ダイさんの問いにそう答えると、ダイさんの表情が固まった。
「いや、なんか災厄級のを獲ってくるのはほぼ確定だろうとは思ってたけど……。そこまでやるんだ……てか、そんな発想にたどり着くんだ……」
そう言うと、ダイさんは大きく深呼吸した。
そして、こう続けた。
「四次元空間魔法、付与しといて正解だった……」
「四次元空間魔法?」
ダイさんが口にした単語が気になったので、俺はそう聞き返してみた。
「ほらあの……マジックバッグとかに付与されてるアレだよ。もちろん内部でエリクサーを生成してくれないと本末転倒だから、時間停止機能は付けてないよ」
するとダイさんは、そう解説してくれた。
マジックバッグ……要は自分用特殊空間を手に入れるまでお世話になってたアレと、同じ原理ってことか。
格納庫で腸を取り出した時点で、「入らなくね?」と懸念していたが……対策はあらかじめ用意してくれていたってことか。
杞憂で何よりだ。
「じゃ、入れますね」
「うん!」
彗星竜の腸を、生命維持装置の投入口のところに持っていくと……腸は、するりと生命維持装置の内部に入り込んだ。
これでまあ、腸に関しては一旦OKということで。
今度は……もう一つの戦利品、卵の方について話すとするか。
「ところで……さっきの彗星竜を拾った帰りに、こんなの拾ったんすけど。これ、生命維持装置の環境整備用の液体として使えたりしませんかね?」
俺はそう言って、自分用特殊空間から、卵白だけ残してある卵を取り出した。
「……何その卵?」
「彗星竜の……というか、流星魔獣の卵っすね。孵化されてもアレですし、卵黄はそもそも使い物にならないと思って、卵白だけ残して持ち帰ってますけど」
「災厄の元凶を相手に、そんな発想するの実にユカタらしいよね……」
説明すると、ダイさんは半ば呆れたようにそう口にした。
「……ま、ちょっと調べてみるね」
しかしダイさんも、使えるか検証する価値はあると見たようなので……俺は卵に小さな穴を開け、中身の卵白をビーカー一杯分だけ取り出した。
そして、ダイさんが調べるのを待つこと約20分。
「……完璧ね」
検証を終えたダイさんは、ポツリとそう呟いた。
「使えそうってことっすか?」
「使えそうも何も、これより適した液体って他にないんじゃないかな。流石は同種の魔物の卵白と言うべきか、環境的にはほぼ最適だし……向こう千数百年は腐食せず、そのまま使い続けられるし。ハッキリ言って、万能ってレベルだね」
結論としては……俺の仮説は、ダイさんの正確な検証とほぼ一致していたようだった。
「じゃあ、あとは卵白を生命維持装置に入れて、乳酸菌と吸収阻害薬を適量入れたら……エリクサーの生産、開始できますね」
「そうだね。環境維持用の溶液を変える分、乳酸菌と阻害薬の比率を計算し直さないといけないけど……それやっとくから、その間に卵白入れといて」
「了解っす」
ダイさんがそう指示を出したので、俺は混沌剣で卵の殻を裂き、卵の中身を生命維持装置の中に全部移し替えた。
生命維持装置はガラス張りになっていて、中の様子が確認できるのだが……腸は卵白に浸かりきっているので、卵白の量は足りているようだ。
ちなみに腸は投入前より一回り小さく見えるが……まあこれは、四次元魔法での拡張した空間を可視化した関係でそうなっているのだろう。
「入れました」
「こっちも計算できたよ。必要な量の乳酸菌を作るには……高等妖兵の水晶玉7つ必要だけど、持ってる?」
「……ギリ足りるっす」
俺は自分用特殊空間にちょうど7個残っていた高等妖兵の水晶玉を、全てダイさんに渡した。
そしてダイさんがラクトバチルス・エクス・マキナ株を作り終えると……俺たちはラクトバチルス・エクス・マキナ株とエリクシルインピダーゼを注入し、装置起動の準備を完了させた。
「じゃあ、スイッチ入れるね」
「お願いします」
これで……あとは状態が安定したら、エリクサーが出てきはじめるだろう。
時間当たりどれくらいの生産量になるかが、一番気になるところだな。





