第65話 討伐と分解、そして卵
【彗星竜 アマ=デトワール】
銀河を旅する非周期彗星竜。
文明の栄える星を見つけては、卵を産みつけて回る。
戦闘能力は通常の流星魔獣と同程度 ■
目当ての魔物に接近し、鑑定してみると……このような説明が表示された。
文明の栄える星を見つけては、卵を産みつけて回る、か。
やはり、こういう奴が流星魔獣の発生の元凶となっているみたいだな。
そして……肝心の強さは、通常の流星魔獣と同程度と来たか。
俺はザネットと戦う以前ですら、流星魔獣と同等の強さとされていた妖大将を、飛ぶ斬撃の連撃だけで瀕死に追いやることができた。
である以上は、今の自分なら……即死させることだって十分可能だろう。
そもそも今回の試みで、前倒した二千年モノの流星魔獣の素材が使えないのは、死闘の末敵の身体がグチャグチャになってしまったからだ。
この討伐の目的が「魔物の腸を回収すること」である以上は、同じような戦いになってしまっては意味が無い。
今回の戦いは、いかに「余計に敵を傷つけずに倒すか」がポイントなのだ。
特に、竜の場合どこからどこまでが腸なのかがハッキリ分からない以上、胴体は無傷のままにするのが望ましい。
結論としては……一回の斬撃で首を落とすことが、一番理想的な立ち回りと言えるだろう。
となれば、そのための準備だ。
俺はまだ、彗星竜には気づかれていないようだったので……一旦混沌剣飛行で地球十個分くらい距離をとり、助走をつけられるようにした。
そしてスライムの幻影を10連鎖消しし、身体強化。
その後、野球のフォームのように混沌剣を構えると……俺は彗星竜の首がストライクゾーンに入るよう進行方向を調整した混沌剣飛行で、彗星竜に肉迫した。
からの、タイミングよく混沌剣を振り抜く。
混沌剣の刀身は、竜の首の直径に比べれば遥かに短かったが……剣が直接当たってできた傷口を飛ぶ斬撃が一気に引き裂き、結果として俺は竜の首を一刀両断することができた。
流石の生命力というか、切り離された胴体はまだウネウネと動き続けているが……鑑定によるとこの竜は、竜としては既に死んでいて、個々の器官単位だとまだ生命活動を続けられる状態にあるようだ。
実に、丁度いい状態だ。
臓器を仮死状態にするには……一旦凍らせるのが良さそうだな。
俺は竜の死体を担ぎ、太陽系でいえば水星にあたる惑星の夜側の場所に移動して、死体が凍るのを待った。
……にしても、どうやって腸を取り出すかな。
死体の動きが徐々に鈍くなる中……俺はそんなことを思案し始めた。
鮮度のことを言うなら……どうせならダイさんのところへ持って帰ってからよりは、ここで解体を済ませた方がいいだろう。
しかし……果たして俺に、そんなことができるのか。
そう悩んだところで……俺は、一つの可能性に思い至った。
もともと混沌剣……いや神剣DHMOだった頃から、この剣には所持者に剣豪並みの動作をさせる剣技補助の効果がついている。
ならば……竜の外科医になりきったつもりで剣を振れば、まるで名医のように手際よく臓器の全摘出ができるんじゃないだろうか。
これは……試してみる価値がありそうだ。
死体が完全に動かなくなると、俺は早速その仮説を確かめてみることにした。
俺は竜の外科医、俺は竜の外科医……。
「メス」
そんな独り言を言って、剣を握り直してみる。
そして、竜の腹に入刀すると……その瞬間、俺の脳内に臓器全摘出のための動作が鮮明に映し出された。
剣に身を委ね、確信を持って動き続けること十数分。
無事俺は、傷一つなく臓器摘出に成功し……腸を自分用特殊空間にしまうことができた。
「ふぅ……」
これだけいい状態で持ち帰れれば、生命維持装置に入れる際の処理も少しは楽になりそうだ。
そんなことを考えつつ、俺は今いる惑星を飛び出して、混沌剣飛行でダイさんの居場所を目指した。
生命維持装置、順調にできているだろうか。
まあダイさんのことだから、心配はいらないよな。
などと考えつつ、大気圏再突入の直前で、速度を光速の100分の一くらいに落とした。
そしていざ、大気圏に再突入しようとしたのだが……その時、プヨンが俺の肩を叩いた。
「あっち、たまごー!」
振り向くと、プヨンがそんなことを言いながら一方向を指していたので、その方向に目を向けてみる。
すると……そこではちょうど、巨大な卵が地上に向かって猛烈に落下しているところだった。
「……まさか!」
あの彗星竜、既にこっちに向かって卵を発射していたのか。
すかさず俺は、卵を破壊すべく連鎖を組み始めた。
だが……途中で気が変わった。
代わりに俺は、卵に近づき……抱きかかえて減速させた。
これがさっきの竜が産み落とした卵だとすれば……その卵白は、腸を培養するのに最適な液体なんじゃないのか?
そんな考えが、脳裏に浮かんだのだ。
ダイさんは、強い魔物の腸なら生理食塩水で培養できると言っていたが……どうせなら、培養する環境は良いに越したことはないだろう。
その方が、腸を維持するのに消費されるエリクサーが減って……ひいては、エリクサーの時間当たり生産量の上昇にもつながるはず。
流星魔獣が千年だの二千年だの経って孵化することを考慮すれば、卵白は長時間にわたって、腐ることなく良い状態を保つと考えるのが妥当だろう。
何なら、他の液体を使うのに比べて水替えの手間が省けるまである。
その可能性がある以上……この卵は、一応持ち帰ってみよう。
但しこのままでは自分用特殊空間に収納できないので、卵黄だけは放り出させていただく。
俺は一旦混沌剣で卵の上の方を斬り落とすと、組みかけていた連鎖で天災の滴の時にやったテレキネシスを発動し、卵黄を殻の外へ引っ張りだした。
卵黄に卵白が引っ付いてくるので、混沌剣で一閃してからざを切断する。
無事、卵黄が卵白から引き離されたところで……俺は切り離した殻を魔法で結合し、卵白だけが残った卵を自分用特殊空間に収納した。
「ありがとうな、プヨン」
「えへへ~」
思わぬ収穫もあったもんだと思いつつ、ダイさんの小屋付近に着陸する。
呼び鈴を押すと……ダイさんは待ってましたとばかりに扉を開けた。





