第64話 エリクサー吸収阻害薬とあの魔獣
「じゃ、まず何から作りますか?」
「そうだね……例の乳酸菌は、使う腸が決まってからじゃないと用量が分からないから後回しとして。生命維持装置も、溶液の水質管理機構+αってところでアイデアは固まってるし……一番難しそうな、エリクサー吸収阻害薬から着手するといいかな?」
というわけで……俺たちはまず、エリクサー吸収阻害薬から作っていくことになった。
「そのためには、まずエリクサーについてもっとよく知らないといけないから……エリクサーを鑑定した資料とか、もらえるかな」
「分かりました」
ダイさんに頼まれたので、自分のお腹の中にあるエリクサーに意識を集中しつつ、鑑定を使う。
更に5連鎖くらいで鑑定を強化すると……鑑定ウィンドウのページ表記が、4桁を超えた。
そしてそんな様子を見て……ダイさんは、こんなことを言い出した。
「ねえ、プヨンくん。図があるページだけ、ずらずらっと順番に見せてもらうことってできるかな?」
流石にダイさんも、鑑定内容を1から順に読んでいくのは効率が悪いと思ったのか……図解から必要な情報が載ってそうなページを割り出すことに決めたようだ。
「ず? おやすいごよーだよー!」
そしてプヨンも……それくらいのことは朝飯前らしく、さっそく図解のあるページをスライドショーにして流し始めた。
眺めても訳の分からない図が、一枚また一枚と順番に表示されていく。
それが5~6回続いて……多数の球体が棒で繋がれた頭が表示された時。
ダイさんは、一旦そこでスライドショーにストップをかけた。
「あった。今何ページかな?」
「はっぴゃくきゅーじゅーにぺーじだよ!」
「その近辺、見せてもらえる?」
どうやらダイさんは、892ページ付近が目的のページと予測したようだ。
ダイさんはしばらく、その近辺の内容を、真剣な眼差しで目を通し始めた。
そして……3分くらいが経った時。
「ユカタ、885ページから896ページ……前みたいに、印刷してもらっても良いかな?」
「いいっすよ」
ダイさんの目当ての情報があるページがハッキリしたようなので……俺は前みたいにプヨンに文字を反転してもらい、インクを使ってスタンプの要領で鑑定内容を紙にプリントアウトしていった。
プリントアウトした資料を受け取ると……ダイさんは図に何やら印を入れつつ、ものすごい勢いえエリクサーを分析しだした。
「なるほど、こういう分子構造なら……ここの電気陰性度の偏りが弱点かな?」
そして……早くもダイさんは、取っ掛かりとなるヒントを発見したようだ。
それから、待つこと約10分。
ダイさんは資料から目を離し、満面の笑みをこちらに向けた。
「エリクサー、ここに分子量580以上の多環芳香族炭化水素を結合させれば、あらゆる生物が吸収できない分子になるんだよね。そして体外に排出されたエリクサーの化合物は、簡単に元の形にも戻せるんだ。だから、多環芳香族炭化水素を腸内で生成する薬を併用すれば、エリクサーの吸収効率は調整できるし……こっちはもう解決だと思う!」
ダイさんは、そう朗報を口にした。
「さっきの高等妖兵の水晶玉……その薬の試作用に使っても良いかな?」
「どうぞ。高等妖兵の水晶玉くらい、いくらでも取れますから」
そしてそのまま、ダイさんは薬の試作に入った。
またもや、待つこと5分。
「……できた!」
ダイさんはそう言って……薬包紙に山盛りに乗せた粉薬を、テーブルの上に置いた。
念のため、早速鑑定してみる。
【エリクシルインピダーゼ】
生物の腸内で触媒作用を起こす物質。この物質を体内に取り込んでしまった場合、エリクサーの体外排出が促進されてしまうので注意が必要である ■
「できましたね!」
結果……俺たちが求めていた薬が、狙い通りできたことが分かった。
「じゃ、あとは生命維持装置と――」
「――強力な魔物の腸ですね」
とりあえず、一番の難関をクリアした俺たちは……そう言って、お互いが次にやるべきことを確認し合った。
「装置のほうはウチ一人でも何とかできるだろうから……組み立ててる間に、魔物の方取ってくる?」
「そうします」
そして、俺は今から適切な魔物を探しに行くことになった。
◇
「さてと、じゃあ……」
地上に上がり、小屋を出た俺は……自分用特殊空間から混沌剣を取り出し、早速出発することにした。
行き先は……宇宙空間だ。
いつもの小惑星帯を突っ切ったあたりまで来ると、俺は14連鎖で探知魔法を発動し、できるだけ広域の――強力な反応だけを探してみた。
すると……そんな反応は、確かにあった。
位置は、太陽を挟んでちょうど向かい側くらいか。
やっぱり、いると思ったんだよな。
宇宙空間には、流星魔獣と同じくらい強力な魔物が。
そもそも言葉の定義からして、流星魔獣は地上に落ちたからこそ"流星"魔獣なのだ。
なら……宇宙空間には、その元となる同質の魔獣が彷徨っていても、おかしくはないはずなのである。
「……倒すか」
俺は太陽を迂回するように、ちょっとだけ弧を描くような軌道を取りつつ……その魔物のいる場所に接近した。





