第61話 風土病
ゾグジー国軍を迎え撃ってからも……俺はしばらくの間、空軍のみんなと一緒にそのまま国境に滞在していた。
まさか再び襲撃して来るはずは無いと思ったが……念のためだ。
だが数日が経って、ゾグジー国から使者がやってきたことをきっかけに、俺は軍を引き上げて屋敷に戻ることを決めた。
というのも……その使者が持ち掛けてきたのは、新たなる和平条約の締結だったからだ。
条約に関する交渉は、リトアさんに一任することにしたが……リトアさん曰く、条件は通常の戦争では考えられないほどこちらに有利なものとなったそう。
条約の効力もほぼ永久的に続くとのことで、俺は改めて良い戦いができたと感じたのだった。
そして、せっかく一件落着したタイミングということもあって、俺は視察も兼ねて街中をぶらぶら散策していたのだが。
お昼時、屋台で串焼きを食べている最中……緊急事態が発生した。
目の前の通りを歩いていた人の一人が……突如として、激しく吐血して地面に倒れこんだのだ。
「大丈夫か!」
「誰か……医者を呼んでくれ!」
すぐに周囲がざわつき始め、倒れた人を中心として遠巻きに人だかりができる。
そんな中……先ほど俺が串焼きを買った屋台の店主が、小声でこう呟いたのが聞こえた。
「チッ、今年も出始めたか……ネルザイア病」
どうやら店主は、倒れた人が何の病に冒されているのか知っているみたいだった。
ネルザイア病……聞いたことないな。
まあこっちの世界固有の病なんて、聞いたことなくて当然っちゃ当然だが。
それとも……呼び方が違うだけで、実は俺も地球にいた頃からよく知っている病気だったりするのだろうか?
一刻を争う事態かもしれないし……とりあえず、鑑定してみるか。
「プヨン、鑑定の画面頼んだ」
「はーい!」
俺はそう言って、プヨンに鑑定ウィンドウに変形してもらった。
すると……そこにはこう書かれてあった。
【ネルザイア病】
アイスストウム領を中心とする北部地域に発生する、季節性の風土病。
人から人への感染はごく稀だが、病原体の発生過程が特殊なため誰もが罹患する恐れがある。
適切な治療を行わない場合、病状が回復することはあっても完治することは無い。
致死率は、現在の医療水準では約15% ■
「なるほど……」
こっちの世界特有の風土病、といった感じだな。
人から人への感染がまずないというのは、とりあえず安心できる点だ。
ただ……適切な治療を行わない場合、完治することはない、か。
先ほど領民に一人が医者を呼んだが……果たしてこの世界には、鑑定が言う所の「適切な治療」の方法は存在するのだろうか?
「すみません」
俺は串焼きの屋台の店主に声をかけた。
「おう、さっきの客か。どうした?」
「さきほど誰かが医者を呼んだみたいですけど……その『ネルザイア病』とやらって、完治するもんなんですか?」
こう聞けば、この世界の医者の治療法が「適切な治療」なのかは分かるだろう。
そう思い、俺はそう聞いてみた。
「いや……完治ってのは、聞いたことねえな。医者を呼んだのも、あくまで応急処置のためだ。仮に良くなっても、一年後には再発するって聞くし……正直、アイツはもうご愁傷様よ」
だが……店主が言うには、どうやら完治させる方法は一般には知られてないみたいだった。
「てか、ネルザイア病が不治の病ってえのは割と有名な話だと思うんだが……もしかしてお前、ここに来て日が浅いのか?」
「まあ、はい」
もうちょっと調べてみた方が良さそうだ。
俺は店主との会話は一旦やめ、鑑定で気になったワードに検索をかけてみることにした。
まず俺は鑑定強化をかけ……「病原体の発生過程」を検索してみる。
だが……。
「ちょっと専門家にでも見てもらわんと分からんな、これは……」
あまりに内容が難しすぎて、俺は解釈を諦めざるをえなかった。
詳しく鑑定できても、その内容を理解できるとは限らないの、毎度のことになってきたな……。
魔道具関連なら鑑定結果そのものをダイさんに見せれば何とかなるが、これに関してはそうはいかないだろうし。
発生過程が分かれば、それを阻んで病気を根絶できるだろうと思ったが……それはとりあえず後回しだな。
じゃあ次は、「適切な治療」の方を検索っと。
すると案の定、鑑定ウィンドウにはまた小難しい長文がズラリと並んだが……読むのを諦めかけたその時、俺はウィンドウの右上に小さな逆三角のマークがあるのに気づいた。
「なんだ、これ?」
押してみると……そこに「五十音順・難易度順・手順の複雑さ順……」といったような項目が並んだ。
……なるほど、複数の治療方法をソートできるのか。
だとすれば、まず試してみるべきは……。
俺は自分にも理解できる治療方法を見つけるため、「手順の複雑さ順」でソートをかけることにした。
すると一番上には、たった一行、このような内容が出てきた。
『患者にエリクサーを飲ませる』
……なるほど、そう来たか。
ちょっと拍子抜けしたような気もするが……確かに、これが最もシンプルで最も強引な解決方法なのは、よく考えたらそうだよな。
そう思いつつ、俺は二番目の治療方法に目を通そうとしたのだが。
その時ふと俺は、とある名案を思いついた。
とりあえず目の前の病人に応急処置として回復魔法でもかけたら、俺の仮説が通用するか検証しに行くか。
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