第60話 未曾有の災害!? かと思いきや……
[side:敵将]
私の名はファイザー。
ゾグジー国軍のアイスストウム攻略部隊の隊長を務める者だ。
私はこれまで、一度として自分が担当する戦場で負け戦を喫したことは無い。
私の部隊は騎士団の中でもとくに評判が高く国王からの信頼も厚い、それが私の誇りだ。
そんな私だからこそ……今回は、アイスストウムの鉱山占拠という大役を任された。
アイスストウムの鉱山は枯渇しかけていたはずなのだが……聞くところによると、先日突如として新たな鉱山が発生したのだとか。
あちらの領民は「領主が宇宙から鉱山を持ってきた」などという突拍子もない作り話で盛り上がっているようだが、まあ原因なんてどうでもいい。
大事なのは、そこに奪う価値のある鉱山ができたということ。
私はただ、ゾグジー国の栄華のために、確実に占拠すべきものを占拠するだけである。
そしていよいよ……私たちは、国境付近までやってきた。
あと数時間もすれば敵国側の砦にたどり着き、更にその数十分後には無事砦を占拠できていることだろう。
兵士たちの士気のためにも、初戦は油断なく迅速に勝利を収めねば。
そう気を引き締めていると……隣にいる副隊長が空を指し、不思議なことを訊いてきた。
「隊長。あれ……何ですかね? 見たことも無い鳥ですが……」
副隊長が指す方向を見上げると……確かに、そこには数羽の見知らぬ見た目の鳥が隊列を成して飛んでいた。
羽が無いように見えるが……一体どうやって飛んでいるのだろうか。
飛翔型魔物の中には羽の力ではなく魔法で浮くタイプもいるので、おそらくその類だろうが……にしても、奇妙な見た目だな。
まあ、こちらを襲撃してこないなら、無視すればいいだけなのだが。
我々にとって大事なのは、邪魔されないかどうかのただ一点のみだしな。
そう思い、警戒しつつ行方を追っていたのだが。
不幸にも、我が軍は奇妙な見た目の鳥に攻撃対象と見なされてしまったようだった。
「全軍、止まれ! 何かを落としてくるぞ!」
私はそう叫んで、軍の行進を止めた。
直撃はしないようだが……全羽が一斉に落としてきたあたりただの糞とも思えないし、しばらく様子を見よう。
そして安全なようなら、再び行軍を始めればいい。
そう思ったのだが……奇妙な鳥が落としたものが着弾した時、起こったのは想像を遥かに超える現象だった。
「炎の……竜!?」
私は叫び声にもならないような掠れた声でそう口にしつつ、顔を両腕で覆った。
距離にして50メートルはあるはずなのに、なんて熱波だ。
奇妙な鳥が落とした物から現れたのは、燃え盛る炎でできた無数の竜。
一列に並んで出現した竜は、道を完全に封鎖してしまい……私たちは、完全に行く手を阻まれてしまった。
一体何なのだあの竜は。
そもそもアレは……生き物なのか?
どちらかといえば……自然災害とか怪奇現象とか、そういった類に分類した方が良さそうな気がする。
なぜ、よりにもよってこんな未曾有の自然災害に進軍を阻まれなければならないのか。
いやむしろ……こんな状況で尚「進軍が……」とか考えている事自体悠長すぎるのか?
ゾグジー国がどうとか、アイスストウムがどうとかいう以前に……私たちが直面しているのは、もしかしたら世界の終焉の前触れかなんかなんじゃないだろうか。
後ろの兵士たちもざわつく中、そんな様々な考えを逡巡させていると……上空の奇妙な鳥――いや、鳥だと思っていたモノから、こんな声が聞こえてきた。
「アイスストウム領主ハバ ユカタよりゾグジー国軍に告ぐ。今の竜を直撃させないで欲しかったら……今すぐ退却しろ」
……は? アイスストウム軍だと?
見上げると……よく目を凝らすと、奇妙な鳥だと思っていたモノには、確かに人間が乗っていた。
そしてその一人一人が……先ほど竜を発生させるのに使ったと見られる投擲物を構え、今にもこちらに投げんとしているのが確認できた。
まさか……あの飛行物体も竜の素も、全てが人工兵器だというのか。
だとしたら、あまりにも洒落にならないぞ。
「今回だけは見逃す。自分も性格は温厚なほうだと……思ってるんでね。だが、次来たら警告無しで直撃させる」
飛行物体に目が釘付けになっていると……飛行物体の上の男の一人が、そう言葉を続けた。
それを聞いて……私は生まれて初めて、心の底から恐怖を感じた。
あの領主、「温厚」などと言っているがとんでもない。
アレは「天変地異ならいつでも起こせるから、未来永劫生殺与奪を握られたと思え」というメッセージなのだ。
私たちが生かされたのも……そのことを国中に伝えるメッセンジャーの役割を、与えられたということなのだろう。
もとより、勝ち目など万に一つもない戦だったのだ。
ここで一矢報いようとして、上空に矢でも放とうものなら……私たちは人間ではなく焦土として、祖国に警鐘をならす羽目になってしまうだろう。
「全軍、撤退だ! 決して反撃しようなどと思うな!」
精一杯の精神力をふり絞り、私はそう指示を出した。
この悪夢は……一生忘れられる気がしないな。
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↓の書影のリンクを貼り直して該当活動報告に飛べるようにしたので、是非ご確認ください!





