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第59話 爆撃した

 (やぐら)で見張りをしていた兵士から、敵軍の姿が見えたとの連絡を受けた俺は……すぐに、空軍兵たちに出発を宣言した。


 30分くらい前から既に、彼らにはオープンカーに乗ったまま待機してもらっている。

 そのうちの一機、リーダー役が乗っているオープンカーに同乗すると……俺は拡声魔法で離陸の合図を出した。


 俺が同乗した理由は一つ。

 爆撃の後、上空から拡声魔法で敵軍に撤退するよう忠告するためだ。

 ただ爆撃しただけなら、もしかしたら敵は「謎の自然災害に進軍を阻まれた」と勘違いするかもしれない。

 そうなっては、せっかく文明の力で敵軍を追い返す意味がなくなってしまう。

 それを防ぐために、あえて言葉で忠告することで、爆撃がアイスストウム領の軍によるものだとアピールするのである。


 混沌剣を使わないのは、敵軍にオープンカー以外の飛翔体を目撃させないためだ。

 俺が混沌剣で飛んだせいで、「神剣使いが爆発魔法を撃ち込みつつ、空中に変な幻影を浮かべている」などと思われても癪だからな。

 今回の決着はアイスストウムの文明力によるものなので、俺が不在の時でもゾグジー軍など脅威にならない。

 そういう意識を敵に植え付けるために、余計な要素は全て排除しようというわけである。


 ダイさんに頼んだオープンカーは、「屋根がない」ということ以外は空飛ぶ馬車と変わらないので、二人乗りをして特に窮屈だとかいうことはない。

 車の助手席に座ってるような乗り心地の中、下を眺めていると……遠くに、米粒サイズくらいの人々の行列が見えだした。


 すかさず、鑑定。


【ゾグジー国 兵隊】

 アイスストウム領への侵攻を目指す一段。

 騎兵小隊を先頭に、歩兵連隊が続いている ■


「間違いないな」


 行列が敵兵だと確認できたところで……早速、攻撃に入ることにした。



 まずは威嚇攻撃。


「総員、敵騎兵隊の先頭から50メートル離れた位置を爆撃せよ!」


 俺の隣で操縦中の兵士がそう叫ぶと……全員がテルミット・ヒドラを手に取り、投擲体勢に入った。


 そして……導火線に軽い火魔法で点火し、地上に投下。

 するとまもなく、敵の軍隊の行く先に無数の炎竜が姿を現した。



 ……さあ、どうなる。

 上空でホバリングしながら、様子を窺っていると……騎兵隊の先陣を切っていた奴が、見るからに慌てだした。


 ……とりあえず、進軍の意思は完全に削げたようだ。

 そりゃそうだよな。アイスストウムに通ずる道が謎の竜の出現で通行不可能になったら、普通そうなる。

 あとは……警告でダメ押しをすれば完璧だろう。


 2連鎖で拡声魔法を発動すると、俺はこう口にした。


「アイスストウム領主八葉 浴衣(はば ゆかた)よりゾグジー国軍に告ぐ。今の竜を直撃させないで欲しかったら……今すぐ退却しろ」


 俺がそう言った直後……空軍の兵士たちは二つ目のテルミット・ヒドラを手に、投げる構えをした。

 このまま大人しく退却するなら……二発目を落とすつもりはない。

 ただ、冷静に考える暇を与えさせないために、落とす素振りを見せているだけだ。


「今回だけは見逃す。自分も性格は温厚なほうだと……思ってるんでね。だが、次来たら警告無しで直撃させる」


 そして俺は、拡声魔法での忠告をそう付け加えた。


 いくら領地を守る戦争のためとはいえ……できるなら人は殺したくないからな。

 本来はそんな甘い考えではいけないんだろうが……未来永劫敵の戦意を喪失させられるなら、その「甘い考え」もさえも通用するというものだろう。

 そうなれば、この武器を開発した甲斐があるというものだ。


 そんなことを考えていると……騎兵隊の先頭にいた奴がテキパキと指示を出し、急いで撤退に取りかかり始めた。


 抑止力による勝利。

 それが、戦争の理想の形。


 俺たちは……退却するゾグジー軍を見届けてから、自陣営に帰ることにした。

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