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第6話 最強のチートは「屁理屈」かもしれない

 こんな色のスライム……今まで一度たりとも出たことが無いのに、どうして急に現れたのだろうか。

 おそらく、今ダメージを受けたことと関係してるのは間違いないだろうが……

「なあプヨン、これ……一体どうなってんだ?」

「それはねー、おじゃますらいむのげんえいだよー!」

 能力の持ち主であるプヨンに尋ねると、そんな答えが返ってきた。

「おじゃまスライムの……幻影?」

「そうだよー。ユカタがだめーじをうけたら、みがわりとしてでてきちゃうんだよー」

「これも……四つ繋がると消えるのか?」

「ううん。でも、となりでふつうのげんえいをけしたら、いっしょにきえるよー!」

 ……なるほど、そういうことか。

 敵からの攻撃は、自身が傷を負わない代わりに連鎖の妨害として形に現れるんだな。

「四つ繋がると消えて俺にダメージが入る」とかだと嫌だと思ったけど……その心配が無いのはありがたい。

 要は……問題は、こいつが大量に降ってくるとスライムをくっつける連鎖が途切れ、高火力の魔法が撃てなくなってしまうところか。

 つくづく、俺のお気に入りのパズルゲームと似たルールになっているもんだな。

 

 ……さて、それはそうと、こいつどうやって倒そうか。

 俺に一切傷を負わせられなかったからか、次元妖は困惑した様子のまま攻撃してこないので、俺は今のうちに少し自分の今後の戦闘スタイルを考えてみることにした。

 

 攻撃されても自分自身がダメージを負わない以上、特に防御はせず、ただひたすらスライムの幻影を積み上げて連鎖を組むって手もある。

 だが、二、三個とはいえ頻繁におじゃまスライムが降ってくるとなると、鬱陶しい事この上ない。

 それに今は良くても、そんな戦い方だと強敵相手には全く通用しない。

 そう考えると……俺の戦闘スタイルは「神剣で敵の攻撃を捌きつつ連鎖をくみ上げ、魔法でトドメを刺す」ってのが最善な気がするな。

 

 先日のリヴァイアサンとの戦いの時は、敵が出現するまでに連鎖を組みあげられたおかげで何とかなった。

 だが、もしかしたら今後、リヴァイアサン級の敵と攻防を繰り広げながら大魔法を用意せねばならない時が来るかもしれない。

 それを見据えた戦法を訓練していくのも、損ではないはずだ。

 

 神剣の効果で、俺は熟練の剣士のように動ける。

 先ほどのような不意打ちでさえなければ、勝手に完全な防御ができてしまうのだ。

 そのおかげで、俺は剣で戦いながらもスライムの召喚に集中できる。

 俺にとって、これほどうってつけの戦法は他にないだろう。

 そうと決まれば、早速次元妖討伐だな。

 俺は次元妖の攻撃を剣でいなしつつ8連鎖を組み上げ、次元妖に放った。

 

 ◇

 

「よっ、よっ、よっと……。今回も、一回もおじゃまが降らずに7連鎖分積めたな。よし、いけっ!」

 次元妖狩りを初めてから七日。

 最初に考案した戦闘スタイルも、もう息をするかのようにできるまでになってきた。

 

 今までの戦いの中で、「幻影色合わせゲーム」についていくつか分かったことがある。

 まず、フィールド内のスライムを置ける数の限界。

 横6×縦14で、計84匹が最大で積み上げられる匹数だと分かった。

 もちろんこれは、「おじゃまスライム込みで84匹まで」だ。

 他には、俺がどこへ動き、どの方向を向いたとしても、「幻影色合わせゲーム」の画面は必ず俺の目の前に見えることが分かった。

 元からそういう性質のものなのか、プヨンが絶妙にプロジェクションの座標を調整しているのかは分からないが、どんな激しい動きをしても一切ブレがないのだ。

 そして、敵が「幻影色合わせゲーム」の画面に干渉して俺のこうげきを妨害するのは一切不可能だということも検証できた。

 そもそも「幻影色合わせゲーム」の画面自体、俺以外からは見えない仕様のようなのだ。

 まあ結局何が言いたいかというと、「激しい攻防の中でも、特に問題なくパズルゲームをプレイして大魔法を放てますよ」ってことだな。

 あと、戦闘終了後消えきらず余ったスライムは、一旦プヨンが画面を閉じても再開時そのままの状態で現れることが分かった。

 この特徴を活かすには、「強敵相手に開幕大連鎖を決められるよう、戦う前にあらかじめスライムを積み込んで準備しておく」ってのがよさそうだ。

 とまあこんな感じで、ユニークスキルについては結構分かってきたってのが現状だ。

 

 というわけで次は、効率的な次元妖の狩り方を極めてみようと思う。

 特に、神剣に関しては色々と検証のしがいがありそうなんだよな。

 例えば、次元妖の棲む特殊空間への入り方。

 受付の人には「何もない空間で、鍵を開けるかのように剣を動かす」と教わった。

 だが、俺はこれに関して、一つの疑問を抱いている。

「本当に、何もない空間でなければならないのか」と。

 そもそもよく考えれば、鍵を開けるかのように剣を動かしている場所だって「何もない」わけじゃなく、れっきとして「空気が存在して」いる。

「何もない場所」と言いつつ、「何か(=空気)がある場所」で解錠の動作をしていることになるのだ。

 ならば、「もっと別の何か」がある場所で同じ動作をしても、特殊空間に入れるはず。

 例えば、神剣で次元妖をぶっ刺しつつ、鍵を開けるように剣を捻ったら──特殊空間から別の特殊空間に飛んで、次元妖との連戦もできてしまうんじゃないか?

 これが、俺の仮説だ。

 今からそれを試してみようと思う。

 

 まずは、普通に人間界から特殊空間へと渡る。

「ギエェェェェ!」

 すかさず襲いかかってくる次元妖の動きを冷静に見極め、剣を突き刺す。

 この手の不意打ちは、慣れればまず効かないものだ。

 そしてここからが本番。

 次元妖に刺さったままの剣を、俺はぐるりと捻った。

 直後、次元妖の体が霧散し、代わりに水晶玉が現れる。

 いつもなら、これで宿の自分の部屋に戻るのだが──今回は、違うみたいだな。

 周囲は特殊空間の景色のまま。

 新たな次元妖が、姿を現したのだ。

 ……どうやら、仮説は正しかったようだな。

 

 ◇

 

「えーっと、これ何体目だ?」

 連戦可能という事実を知ってからというものの、俺は夢中になり、何体討伐したかさえも忘れて戦い続けていた。

 多分、九十体は倒したんじゃないか……と、思う。

 そして今回もまた、俺は突進してくる次元妖の動きに合わせてカウンターの突きを繰り出し、別の特殊空間へのゲートを開きつつ次元妖を倒した。

 するとまた例のごとく、別の次元妖が現れる。

 しかし。

「おやおや……本日二度目の獲物ですか。今日は大御馳走ですねぇ!」

 今回は様子が違った。

 ……喋る次元妖。

 おそらく、これはまた高等妖兵に出くわしたな。

 高等妖兵は、さらに続ける。

「では、二人まとめて(・・・・・・)絶望の淵へと叩きのめして差し上げましょう!」

 ……は?

 この高等妖兵、今何つった?

 一瞬頭がこんがらがりかけたが、すぐにその意味は分かった。

 俺以外にもう一人、この特殊空間に来た神剣使いがいたのだ。

 ……まじかよ。

 これって、かなり低い確率でしか起こらないんじゃなかったのか。


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書影公開されました!
『スライム召喚無双』第一巻は8/10に、カドカワBOOKSより発売です!
イラストはともぞ様にご担当頂きました!
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