第56話 準備ができた
そして……テルミット弾を量産したりと、戦争や軍事演習の準備をしながら待つこと三日。
特注品の空飛ぶ馬車を発注してから、一台完成させるのに必要な時間が経ったので……俺は完成品を取りに、ダイさんの施設に向かった。
ダイさん曰く、脳の回転強化と魔力供給があれば、一台作る時間で十台並行して完成させられるとのことだったからな。
順調に行ってれば、もう発注分は完成しているはずだ。
いつも通り、小屋の前に降り立ち、壁に擬態している呼び鈴魔道具を作動させる。
すると十秒と経たず、ダイさんが玄関のドアを開け、満面の笑みで中に迎え入れてくれた。
「順調に行きました?」
「うん! 何なら脳の回転強化のお陰かいくつか短縮できる工程を見つけたりできたから、昨日の昼にはできてたよ」
進捗を聞いてみると……まさかの当初の予定よりも順調という返事だった。
マジか。
それ知ってたら、昨日のうちに取りに来たんだけどな。
まあこの世界にはスマホとか無いんだし、そんなことを言ってもしょうがないが。
などと思っていると……ダイさんも同じようなことを考えていたようで、ポケットから一つ魔道具を取り出しながらこんなことを言ってきた。
「でさ。昼から暇になったから……こんなものを作ってみたんだ。納品可能お知らせボタン」
なんとダイさんは、空飛ぶ馬車を作り終えてから今までの間に、そんな魔道具を作ってくれていたのだ。
「この魔道具は、灯りの魔道具なんだけど……点灯・消灯を私が遠隔操作できるの。どんだけ距離が離れてても、あるいは特殊空間の中でも、関係なく瞬時に連動するんだよ。納品できるようになったら光らせる、とか決めとけば、いつ完成したかがユカタにも分かるでしょ?」
「お、便利っすね」
距離も特殊空間も関係ないってのは、俺にとっては一番重要なポイントだな。
宇宙空間にいるときでも確認できるし、自分用特殊空間で保管することも可能というわけなのだから。
俺は素直に、魔道具の性能に感心した。
「これからもユカタとは、いろんな魔道具の開発で関わることになりそうだし……今後のためにも、こういう連絡手段を持っておくのは悪くないと思ったんだ。大切にしてね」
「もちろん!」
などと話しつつ、俺は貰った魔道具を自分用特殊空間にしまったのだった。
そしてダイさんの案内のもと、地下施設のいつもと違う場所に移動すると……俺たちは、地下施設の格納庫みたいな場所に着いた。
「そしてこれが、特注品の空飛ぶ馬車だよ!」
その部屋に入ると、ダイさんは十台並ぶオープンカーを指しつつそう言った。
「ありがとうございます!」
「受け取る前に、ちょっと試運転してみて。……ああ、浮かせる程度で良いから」
お礼を言うと、ダイさんはそう言って俺に試運転を促した。
確かにそれは大事だと思い、3連鎖消しで生成した魔力を全車両に均等に注いでみる。
すると……全ての車両は、問題なくふわりと宙に浮かび上がった。
「完璧っすね。じゃあこれ、全部頂いていきます」
俺はそう言って、オープンカーを全て自分用特殊空間に収納した。
「それ……どんな感じで使うの? 乗った兵士たちに、上から魔法を撃たせるとか?」
一台一台収納していると……ダイさんは興味本位で、そんな質問をしてくる。
「あ、流石に操縦しながら魔法もってのも大変かと思ったんで……武器は用意することにしました」
「へえ、どんな?」
「ただの焼夷弾にするつもりだったのですが……なんかテルミット・ヒドラとかいうのができてしまいましたね」
「……へぁっ!?」
その質問に答えていると……ダイさんは、変に上ずったような声を上げた。
「まったとんでもないものをサラッと……。あれ、求められるミスリル粒子の細かさが極端すぎて机上の空論だと思ってたのに……」
……そこまで言うほどなのか。
ていうか、その言い方ってことは……ダイさん、過去にテルミット・ヒドラ作ろうとしたことがあるのか。
「……良かったらサンプルに一個要ります?」
「え、良いの!? ありがとう!」
力は貸したとはいえ……無理言って工期を縮めてもらったことには変わりないからな。
どうせそこまで作るのが大変な物ではないし、この程度のことで喜んでくれるならお礼に一個あげたっていいだろう。
そんな思いから、俺は提案をしてみたのだが……案の定ダイさんは、一個あげるというと喜んでくれた。
自分用特殊空間に保管してた中から一個取り出し、ダイさんにプレゼントする。
「今後もよろしくお願いします」
「うん! また面白い依頼持ってきてねー!」
そんな感じで、用事が全部済んだので……俺はダイさんの施設を後にし、屋敷に帰った。
◇
そして、その夜。
「ユカタ様。召集を頼まれていた十人の騎士ですが……何とか目処が立ちました。明日以降、いつでも呼びかけられます」
リトアさんが、俺の執務室に入ってきたかと思うと……そう言いつつ、十人の兵士のプロファイルと思われる紙の束を渡してきた。
「ちょうどいいですね。こちらも今日、必要なものが全部揃ったところっす」
その束を受け取りつつ、そう返事する。
これで、必要なものは全部揃ったな。
せっかくみんな急いでくれたんだし、ゾグジー国とやらが本格的に動きだす前に、早速明日にでも訓練に取りかかるとするか。
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