第55話 なんか変な焼夷弾ができた
オリハルコン錯体で染め、オープンカーに乗る騎士たちの魔力供給源にするための服。
俺はそれを、アイスストウムの市場で十着分購入した。
わざわざ領地に戻って買ったのは、領主として少しでも自分の領地の経済を回そうと思ってのこと。
どうせ移動なんて一瞬なので、特に事情がない限りはいつもこうしようと、自分の中で決めているのである。
今回程度金額ではほぼ意味はないだろうが、とにかくそういう習慣を持っておくのが大事だと思うのだ。
服屋を出ると、混沌剣で飛び立つために、一旦人目につかないところに移動する。
そしていい場所を見つけ、特殊空間から混沌剣を取り出したあたりで……俺はふと、一つやり忘れていたことに思い立った。
「そういやあ、まだ兵器を全然作って無かったわ」
空飛ぶ馬車のオープンカーと魔力供給服のアテはついたが……よく考えたら、オープンカーに乗った騎士たちの攻撃手段が、まだ一切準備できてない。
このまま戦争になってしまったら、ただ単にゾグジー国軍に編隊飛行を見せつけるだけになってしまう。
爆弾でもミサイルでも何でもいいから、オープンカーに搭載できる対地上攻撃手段を何かしら作っておかねば。
俺は急遽、特に予定の無かった今日の午後を専用兵器創造に費やすことに決めた。
「何にすっかなあ……」
とりあえず俺は高度を上げ、実験場にしてよさそうな何もないだだっ広い場所を適当に探し、そこに移動した。
そして特殊空間に入り、中にあるものを適当に見回すと……俺は、そういえば以前作ろうと思ってた武器があったことを思い出した。
テルミット弾だ。
アルミニウム粉末と酸化金属の粉末を混ぜ合わせたものに導火線としてマグネシウムリボンをつければ、即席の焼夷弾が完成する。
特殊空間内に以前製錬して置きっぱになっていたマグネシウムがあるのを見て、俺はそれを作ろうとしていたのを思い出したのだ。
これなら、オープンカーからならただ導火線に火を付けて投げおろすだけで攻撃できるので、かなり扱いやすい武器となるはずだ。
「ちょっと一旦宇宙行くぞ。プヨン、アルミニウム探すから鑑定になっててくれ」
「はーい!」
手持ちの製錬した金属にはアルミニウムがなかったので、俺はプヨンと一緒にまた小惑星帯に赴き、アルミニウムを含む小惑星を探した。
そして、その場でアルミニウムだけ抽出して帰ってくると……俺は早速、テルミット弾の製作に入ることにした。
「プヨン、今度は幻影色合わせゲームのほう頼む」
「おっけーい」
まずは4連鎖くらいで魔法を使ってアルミニウムを粉末状にし、次に3連鎖でミスリルの塊を酸化させる。
ミスリルを選んだのは、なんとなくせっかく異世界んだからこっちに固有の金属でできるかまず試してみたかったからだ。
そして、酸化ミスリルも同じく粉末状にし、二種類の粉末を混ぜ合わせてその上にマグネシウムリボンをセットした。
実用化する時は、何か容器に詰めて使うことになるだろうが……まずはそもそも燃焼するかの実験をということで、そのまま火を点ける。
危険なので、すぐさま数歩下がり……更に念のため、2連鎖で結界も張って様子を見守ることにした。
すると、数秒後。
金属粉末の山からは……猛烈な勢いで、炎が噴きあがった。
目が眩むような輝きを発し、周囲の地面を溶岩に変えながら燃え盛る炎。
しかし……次第にそれは、若干様子が変になってきた。
「……あれ、竜? いや、見間違いかな……」
なんというか……一瞬、炎の中からドラゴンのようなものが姿を現したように見えたのだ。
流石にそんなはずは無いだろうと思い、目をこする。
だがその数秒後……それは決して幻覚などではなかったことが分かった。
「やっぱ……竜だ」
どう見ても、三つほどのドラゴンの首が炎から出現し、周囲に睨みを利かせだしたのである。
「わぁー、かっこいい!」
プヨンにもやはりそれが竜に見えているのか、そんなことを口にしだした。
「プヨン。ちょっと……鑑定したいんだが、いいか?」
原因は……やはりどう考えても、ミスリルというこの世界固有の金属を使ったことだろう。
兵器として利用する以上、俺はその正体を詳しく知っておきたかったので……プヨンに鑑定のウィンドウになってもらうことにした。
結果はこう出てきた。
【テルミット・ヒドラ】
テルミット反応の酸化剤に魔法金属を使用した際出現するドラゴン。
周囲の生物に自身の高熱を活かした猛烈なタックルをかます。
このヒドラは、テルミット反応が終了するまで決して消滅しない。
強さは使用する酸化剤の種類及び粉末のきめ細かさに依存する■
「なるほどな……」
説明文を見て……俺は若干、なんだか恐ろしいものを開発してしまったような気がした。
こうしている間にも、テルミット・ヒドラは俺が2連鎖で張った結界に何度もタックルを繰り返している。
試しに俺は、その結界の外側に1連鎖で新たな結界を張り、テルミット・ヒドラにそちらを攻撃させてみた。
するとテルミット・ヒドラは……タックルで結界にヒビを入れた。
……うん、攻撃力も申し分ない、というかあり過ぎだな。
流石の高威力にそう心の中でツッコみつつ、俺は火が消えるのを待つことにした。
「でも……アリだな」
引き続きテルミット・ヒドラの様子を見つつ、俺はこの武器の採用を決めた。
というのも……たった今、頭上を鳥が通過したのだが、テルミット・ヒドラはその鳥を攻撃しなかったのだ。
このことから……ある程度高くに逃げていれば、自分たちが巻き添えをくらうリスクは無いということが窺える。
それはつまり、空中戦ができる自軍にとって、この武器は圧倒的に有利に働くということだ。
良い武器が完成したな。
実験の成果は上々ということで、俺は屋敷に戻ることに決めた。
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