第54話 騎士団に特殊部隊を作ろう
試運転の次の日、俺は早速ダイさんの元に赴き、ソーラーパネル用の永続結界を作成してもらった。
そしてその足で、俺はその結界を精錬の現場に持っていき、必要な設置を全て完了させた。
その更に翌日、また精錬の現場に視察に言ってみると……俺はタナギフさんから「アダマンタイトの精錬は順調です」との報告を受けることができた。
そのことに満足しつつ、俺は一週間ほどやり切った感の余韻に浸って過ごしていたのだが。
そんな最中……俺はリトアさんから、良からぬ報告を耳にすることとなった。
「実は……つい先ほど、ゾグジー国に派遣していた偵察兵から報告が上がりまして。どうやらゾグジー国は、ここアイスストウムとの国境付近に兵力を集中させだしているようなのです」
「ゾグジー国?」
聞いたことない国名だなと思いつつ、俺はそう聞き返した。
「はい。この国です」
するとリトアさんは、持ってきた地図を開き、その国の領域を指で示した。
ゾグジー国はアイスストウムの北西に位置する、俺が鉱山を置いたあたりに面している国だった。
……そういえばここに来る前、国王が「隣国がちょいちょいちょっかいをかけてくる」とか言っていたな。
さては領主交代の情報がそのゾグジー国とやらに流れ、「こっちがごたごたしている内にアイスストウムを乗っ取ってしまおう」とか思われているのだろうか?
「おそらくゾグジー国は、我が領地を侵攻するつもりでしょう。ゾグジー国との戦争は、鉱山資源が枯渇が目に見えだした頃からめっきり減っていたのですが……新しい鉱山の出現を受け、再び注目されたのかと」
「なるほど」
……あ、そっちか。
「これ……何とか上手く制圧する案ありませんかね?」
せっかく運んできた資源を横取りしようとはこすい奴らだ、などと考えていると、リトアさんはそう聞いてきた。
「制圧する案っすか……」
俺はそう相槌を打ち、プヨンと顔を見合わせた。
ぶっちゃけ、この事態を収束させるだけなら簡単だ。
「そんなに鉱山が欲しけりゃお前らの領土に作ってやる」とか言いつつ、小惑星を投げつけてやれば……流石に向こうも黙ることだろう。
だが……正直、それはあまりスマートなやり方とは言えない。
小惑星を投げるとなると隕石を落とすようなものなので、たとえ敵軍だけを壊滅させるべく狙い定めて投げつけたとしても、周囲に計り知れない被害が出かねないからだ。
それにそもそも、脅しのためとはいえ余所の資源を横取りしようとするような奴らに資源を与えるなんて癪というものだ。
もっと不要な被害を出さず、ゾグジー国の軍の敵対心を削ぐ方法が望ましい。
「ちょっと考えますわ。昼には結論出すんで」
というわけで、俺は一旦そう答えることにした。
強硬手段なら、何通りかはすぐ思いつけるからな。
最悪はそのどれかに出ることとして、それよりマシな案を思いつけたら、かわりにそちらを提案するとしよう。
◇
そして……昼過ぎ。
俺は意気揚々とした足取りで、リトアさんの執務室に向かっていった。
ゾグジー軍の侵攻に対抗する手段として……アイスストウムの既存の兵力にちょっと手を加えることでできる、妙案を思いついたのだ。
「リトアさん、良い方法思いつきましたよ」
執務室に入ると、俺はリトアさんにそう告げた。
「それは良かったです! 一体どんな方法なんですか?」
するとリトアさんは、待ってましたと言わんばかりの表情でそう聞いてきた。
「アイスストウムの騎士団に、空軍を設立しましょう」
「……空……軍……?」
それに対し、俺は自分の案の説明を始めたのだが。
リトアさんは、ポカンとした表情になって固まってしまった。
「ほら、王都に来る際、俺たち空飛ぶ馬車に乗って来たじゃないっすか。あれを何台か用意して、操縦できる兵士を育てて航空部隊を作るんですよ。空対地上の勝負に持ち込めば、こちらは圧倒的に有利になるじゃないっすか。だから、少数精鋭で大軍でも撃破できる名案だと思ったんすけど……どうですかね?」
とりあえず、説明の続きを話してみる。
するとリトアさんは、期待と不安の混じったような表情でこう聞いてきた。
「確かに、それが上手くいけば敵なしだとは思いますが……あの馬車って、ユカタ様の膨大な魔力ありきで動くんじゃありませんでしたっけ? とても騎士などにアレの操縦が務まるとは思えませんが……」
リトアさんの懸念は、空飛ぶ馬車の消費魔力のことみたいだった。
それならもちろん、心配には及ばない。なんたって、あの服があるんだからな。
「その対策はばっちりですよ。なので……とりあえず近いうちに、騎士団の中で信頼が置けて且つ船酔いしにくい人を十人ほど、集めてもらえないっすかね?」
「……わかりました。ユカタ様がそこまで言うなら、その作戦の為に兵力招集を行っておきます」
というわけで、一応リトアさんにも納得してもらうことができたので……俺は執務室を後にした。
もし今回の襲撃を、ただ単に俺が力任せに敵を蹴散らせて決着をつけたりしたら。
しばらくは安泰になるだろうが……俺を暗殺しようと悪あがきをされたり、俺が寿命を迎えてから襲撃を受けたりといったことになってしまうだろう。
だが……この案のように、文明力で差を見せつければ、敵軍も永久に諦めがつくはず。
少なくともこのやり方は、最初に適当に思いついた「ゾグジー領内に小惑星を投げつける」なんかよりはよっぽど賢いやり方と言えるだろう。
「じゃ……こっちはこっちで、準備を進めるか」
俺はまず、空飛ぶ馬車とオリハルコン触媒で染めた服を、必要な数揃えるところから始めることにした。





