第53話 試運転
次の日。
早速俺は、昨日ダイさんに作ってもらった魔道具とオリハルコン錯体を手に鉱山へと向かった。
「お久しぶりっす、タナギフさん。アダマンタイトを融かせるかもしれない加熱装置ができたんっすけど……ちょっと実験させてもらえないっすか?」
現場責任者のタナギフさんを見つけると、俺は開口一番そう聞いてみた。
「これはこれは、ユカタ様……ようこそお越しくださいました。……って、アダマンタイトを融かせる加熱装置ですと!?」
タナギフさんは最初、恭しく挨拶をしていたが……一瞬遅れてOK俺の言葉が頭に入ってきたのか、その直後に驚きの声を発した。
「そのようなものが……まあ、ユカタ様が作るなら驚くことでもなかったかもしれませんな。アダマンタイトを不純物として廃棄するのは勿体無いと思っておりましたので、ありがたいことです」
タナギフさんはそう続け、一礼した。
「いえいえ、そんな。それで……ちょっと炉を実験用に一つ貸してもらいたいんっすけど、それ可能ですかね? あ、ちなみに耐熱結界を同時展開する魔道具なんで、炉壁が融けたりって心配はないっす」
「ええ、それなら大丈夫です。今日まだ稼働させてない炉が一つありますので、そちらをお貸ししましょう」
そんな会話の後……俺は、今日の実験に使わせてもらう炉の近くに案内してもらった。
タナギフさんが「アダマンタイトを含む不純物を運んできます」と言って去っていくと。
待ち時間の間、俺はソーラーパネルの方を準備することにした。
まずは特殊空間から浴槽を取り出して地面に置いてから、板状の対物理結界を二枚用意する。
「プヨン、どっちかの結界の上にオリハルコン錯体をぶちまけてくれ」
「りょーかい!」
そしてプヨンにそう頼むと……プヨンは自身をホースみたいな形状に変形させ、蠕動運動でオリハルコン錯体を結界の上まで運んで流した。
それから、二枚の結界をオリハルコン錯体を挟み込むように重ね合わせると……オリハルコン錯体は、表面張力で結界の面全体に行き渡った。
一応、これでソーラーパネルは完成である。
これは昨日の晩、オリハルコン錯体を何に塗布するか考えていた際、ふと思いついた方法だ。
魔道具の性質上、火力はソーラーパネルの面積に依存するので……今日の試運転の段階では柔軟に面積を変更できるようにと思い、こうやって作成したのだ。
まあ、この結界には永続性は無いので、実用段階ではこうするわけにはいかないがな。
この方法での試運転に成功したら、後日同じ火力を再現できる面積の永続結界の魔道具を、ダイさんに作ってもらうとでもしよう。
加熱魔道具から出ている魔力供給用ケーブルの先端を結界に繋ぎ、魔道具を炉の中に運び込む。
「えーと……こっちのスイッチが、耐熱結界起動用のだよな」
などと呟きつつ、加熱魔道具についている二つのスイッチのうち青い方を押すと……炉壁全体に耐熱結界が張り巡らされた。
これであとは、アダマンタイトを含む不純物を炉の中にセットして、赤い方のスイッチを押すだけだな。
そう思っていると……ちょうどタナギフさんを先頭に数人の従業員が、不純物を積んだ猫車を押しながらこちらへやってきた。
「アダマンタイトを含む不純物、持って参りました。こちら、普通に炉の中に入れればよろしいですかね?」
「ええ。その後そちらの赤いスイッチを押すと、加熱が始まります」
タナギフさんの問いにそう返すと、彼らは炉の中に不純物をセットした後、炉の蓋を閉じて赤いスイッチを押した。
「炉の中の様子は……」
俺はスライムを2連鎖消しして透視魔法を発動し、炉の中を覗いた。
今の面積だと……まだ不純物が融ける様子はないな。
「……変形」
更に1連鎖消しをし、結界が変形するように念じると……結界の面積が増え、それに伴って炉内の火力も上がった。
そんな調整を繰り返すこと数回。
ついに……炉の中の不純物が、完全に液体になった。
「……あっ、出てきました!」
それから十数秒して。
アダマンタイトの出口である、水を張った取り鍋の前で待機していた作業員が……興奮した様子でそう口にした。
「「「おおおっ!!」」」
そしてそれを聞いて……タナギフさん含め他の従業員たちも、様子を確認しにそこへ集合した。
これは、まず成功と見て間違いないだろうな。
初の試みなので、出来たアダマンタイトの純度が市販できるレベルかは分からないが……まあそれは、後で鑑定してみることにしよう。
◇
炉の稼働を止め、結界で挟んでいたオリハルコン錯体を浴槽に回収した後……俺たちは、できたアダマンタイトの品質の確認に入った。
「じゃあ、鑑定してみますね」
「ええ、お願いいたします」
確か、純度を見るだけなら鑑定の強化は必要ないよな。
「プヨン、鑑定の画面になってくれ」
「はーい!」
【アダマンタイト】
希少な魔法金属。他の魔法金属との合金にすると、その性能を大幅に上昇させる。純度99.6%■
「99.6%っす」
「「「な、そんなにも……!」」」
鑑定画面と化しているプヨンを見せつつそう言うと、従業員たちは目を白黒させだした。
俺には高いのか低いのか良く分からなかったが……みんなの反応を見る限り、純度はかなり良い方みたいだな。
「諦めていたアダマンタイトの精錬が、こんなにも完璧に……。重ね重ね、ありがとうございます」
「「「ありがとうございます」」」
タナギフさんは、改めて俺に頭を下げ……そして他の作業員たちも、それに続いた。
「いえいえ。最終調整が済んだら、後日改めてそちらに納品しますね」
もちろん最終調整とは、ソーラーパネル展開用の永続結界の用意のことである。
にしても……この方針、大成功だったな。
これでアダマンタイトの市販も始まれば、アイスストウムの産業基盤はより強固なものとなってくれるだろう。
試運転の結果に満足しつつ。
俺は製鋼所を後にしたのだった。





