第50話 小惑星を提供した
前回小惑星帯に来た時と同じように、移動速度を光速の百倍程度の調節して十秒ほど飛ぶ。
小惑星帯が近づいて来ると、徐々に速度を落とし……無数の小惑星に囲まれる中で、俺は飛行をやめて静止した。
……厳密に言えば、公転する小惑星との相対速度がゼロに近くなるよう飛んでいるので、絶対速度はゼロにはしていないのだが。
スライムを1連鎖消しして軽めの望遠魔法をかけ、ある程度遠くの小惑星も見えやすいようにする。
その状態で……俺はプヨンに鑑定の画面になってもらい、各小惑星における金属の含有比率を調べていった。
こんな行動に出ているのも、元ある鉱山が枯渇しかけているのが原因なんだしな。
持って帰った小惑星に、ろくに金属が含まれていなかったりしたら本末転倒だし……できるだけ金属含有比率の高い小惑星を持って帰った方が良いと思ったのだ。
それもただ金属含有比率の高さだけを基準に選ぶのではなく、元あった鉱山で多く取れた金属が主成分となっている小惑星を選ぶ。
そうすれば、タナギフさんたちも従来の設備でそのまま作業できて助かるのではないか……と思う。
「あっちのは……銅ばっかりか。ダメだな。向こうのは……金とオリハルコンを含んでるけど、含有率0.01%じゃなぁ……」
タナギフさん曰く、鉱山で主に採れていた金属は鉄と銀、それにミスリルが少々らしい。
なので俺は、そんな組成の小惑星が上手い事見つからないかと探していった。
「あれは……おっ、割と良さそうだな」
そして……しばらくして、俺は金属含有比率、組成共に理想に近そうな小惑星にありつくことができた。
組成は鉄含有率38%、銀24%、ミスリル12%、アダマンタイト7%。
含有比率の高い順に三つの金属が、元の鉱山で採れていたものとなっているし……持ち帰るのは、これに決定して構わないだろう。
目当ての小惑星に近づくと、俺は自分用特殊空間の入り口を開き、そこに小惑星を丸ごと収納した。
そして超光速神剣飛行で、俺は来た方向へと帰っていった。
◇
「置き場所は……あの辺でいいか」
某鉱山上空にて。
俺は鉱山から少し北東に進んだ位置にある平野を、持ち帰った小惑星の置き場にしようと決めた。
タナギフさんたちの作業場は、全て鉱山の東側に集中している。
そちら側にしか鉱床が無かったため、鉱床に近い側に集約的に施設が作られていった結果そうなったらしいのだ。
その作業施設から近く、かつ何も無い土地が小惑星の設置場所としては最適に決まっている。
そう思って、上空から眺めていたところ……鉱山の北東のあたりの平野が、ちょうど人も住んでいなくて条件に合うと気づいたのである。
「よいしょ、と」
俺は自分用特殊空間から小惑星を取り出すと、その平野のど真ん中に小惑星を置いた。
そして……一旦タナギフさんの元へ戻ることにした。
「えっと……あんな感じの、鉱物資源がたくさん含まれる岩を持ってきたんですが、いかがですか?」
現場に戻ると、タナギフさんは外に出ていたので……俺は置いてきた小惑星を指差し、そう聞いてみた。
「あ……あんなところに、無かったはずの山が……いったい何が!?」
「だから言ったじゃないですか。鉱山取ってくるって」
「た、確かにそんな幻聴が聞こえた気はしましたが、本当に山が増えるなんて……今度は幻覚でしょうか?」
いや、幻聴でも幻覚でもなく、どっちも実物なのだが……。
内心そう思ったが、タナギフさんは小惑星に目が釘付けになったまま固まってしまったので、仕方なく彼が我に帰るまでしばらく待つことにした。
その間にも……今まで坑道の周りでたむろしていた作業員たちが、続々と小惑星に気づいて騒ぎだしていく。
「なんだあの山? あんなのあったか!?」
「いや、あそこはただの平野だったはず……なんで!?」
「て、天変地異か……」
などと作業員たちが興奮しだす中……タナギフさんはようやく我に帰り、また話ができるようになった。
「ま、まさかとは思いましたが……皆さんの反応を見るに、あれは私にだけ見えているわけではなさそうですね」
「だからそう言ってるじゃないですか」
「あれを一瞬で出現させてしまうなんて……。新領主様は英雄だとは噂されておりましたが、あれはもうそんな次元の話ではありませんな」
タナギフさんはそう言って、ハハハと乾いた笑い声をあげた。
「ところで……あれ、あそこに置くので大丈夫っすかね? 作業しやすいように別の場所に動かしたいとかあれば、今ならまだ移動させられますが」
俺はタナギフさんに、そう質問した。
あの小惑星、そのままだと馬鹿でかい岩の塊なので、扱いづらいだろうからな。
後で砕いて、いい感じのサイズの石の山にしておこうとおもっているのだ。
ただ、それをした後だともう移動させるのは難しくなるので、その前に置き場所について確認を取っておこうと思ったのである。
「移動、可能なのですか……。まあ、その必要はありませんな。あそこなら、今ある精錬所とかとも近いですし……場所は据え置きでお願いします」
すると、タナギフさんはそう言って一礼した。
「分かりました。じゃあちょっと、あの山砕いてきます」
そう言い残し、俺は再び小惑星の近くに赴いた。
そしてスライムを9連鎖消しして小惑星をすっぽり覆う六面の防音結界を張り、その中でスライム9連鎖分の高周波数の超音波を発し、小惑星を粉々にした。
砕けた個々の石が、重力にしたがってバラバラと崩れ落ちる。
すると……それまでは歪な球体が地面に突き刺さった感じだったのが、ちゃんと三角錐の「山」って感じの形状に変わった。
作業を終えると、俺は再度タナギフさんのもとに戻った。
「あれで新しい鉱山の設置は終わりました。ちゃんと鉄や銀、ミスリルの含有率が高いのを置いてきたので、精錬頑張ってください」
「がんばってねー」
「ありがとうございます……。こんな仕事を与えてくださるなんて、このご恩は一生忘れません」
タナギフさんは涙を流し、俺にお礼を言った。
……うん。
何というか……まあやった事は大きいのかもしれないが、個人的には大した労力ではなかったので、ここまで感謝されるとちょっと気恥ずかしいものだな。





