第5話 偉大なる暇つぶしの始まり
「え……Sランク? どんな実力者でも、登録当初は最低ランクか、あるいは真ん中くらいからスタートになるもんじゃないんすか? いきなりトップのランクって、そんな無茶なこと許されるもんなんすかね……」
「お主は何を言っておるんじゃ? Sランクは最上位のランクではないわい」
俺の問いに、そう返す支部長。
……そうか。
確かに、俺の早とちりだったかもしれない。
ゲームとかではSランク=最上級ってのがよくあるパターンだから、ついここでもそうかと思ったが……このギルドでは、Sランクは下位層あるいは中位層なんだろうな。
服のサイズみたいに、S、M、L、LLみたいに昇格してくのかもしれん。知らんけど。
「SランクのSは神剣のS、すなわちお主は『神剣級』じゃ」
……前言撤回。
やっぱり、頭のおかしい分け方だった。
「神剣を持ってる……ただそれだけの理由で、無条件にSランクになるって事っすか?」
確認のため、受付の人にもそう聞いてみる。
すると、
「はい。通常、冒険者は実力や実績に応じて、GランクからAランクに階級分けされます。ですが、神剣持ちは別です。神剣持ちはこの階級分けから完全に独立した扱いで、実績実力とは無関係にSランクに位置づけられるのです」
そう丁寧に解説してくれた。
「なるほど。つまり、俺がSランクになるのにいきなりも何もないってことっすね」
「まあ、そう言えますね。ただハバユカタさんなら、既にAランク以上の実力をお持ちだと思いますが」
「はあ……」
ともかく、俺はこれで晴れてギルド登録完了となるわけだ。
いよいよ戦利品を売れるんだな。
「それでは、これがギルド証となります。万が一紛失したら、最低ランクからの再スタ……あ、これはハバユカタさんには関係ないですね。でも無くさないよう大切にしてください」
そう言われ、俺は金色に光るカードを受け取った。
その後、支部長と受付の人は再び奥に入っていく。
そして待つこと数分。
受付の人と支部長は、山のような金貨をお盆に載せ、ドサリとカウンターの上に置いた。
おいおいまさかまさか……
「こちらが今回の買取り金額となります」
やっぱそのまさかだーっ!
「わあーっ、ぴかぴかだー!」
俺が面食らっている中、プヨンだけは無邪気な感じで目を輝かせていた。
「何だよあのどえらい金貨の量。高等妖兵の水晶玉は貴重だって聞くけどよ、あそこまでなんのかよ!」
「あれ、三年は遊んで暮らせるよな」
「バカ。神剣使い様がそんな生き方選ぶわけねえだろ、失礼な」
山積みの金貨はやはり、俺を取り囲んでいた冒険者たちから見ても巨額なようで、次々と思っていることを口にしだした。
三年は遊んで暮らせる量って何だよ。バグか?
ってか、こんな額持ち歩きたくねえよ。
銀行とかもなさそうだし……参ったな。
「これ……持ち帰るんすか? いくらかギルドで預かってもらえたりとかは……」
「残念ながら、そういう制度はございません」
……ダメだった。
しかし、受付の人はこう続けた。
「ただ、一つ提案はございます。この額の三分の一と引き換えに、大量の物を亜空間に収納できるマジックバッグを提供することもできますが……どうしますか?」
「あ、そんな便利なものがあるんっすか。じゃあ是非」
こうして俺は、高等妖兵の戦利品である水晶を売り払い、二年遊んで暮らせる量の金貨とマジックバッグを手に入れたのだった。
このマジックバッグは思ったより優秀で、中身の重さを全く感じないようになっている。
ちょっと高い買い物だった気もしなくはないが……金にありつく労力を思えば、そんなに痛い出費だったとも思えないし、まあいいかと思う。
今度こそ、食うものと寝る場所を探すとしようか。
◇
次の日。
宿で朝食を取り終えた俺は自室に戻り、神剣を手に取った。
この宿は昨日、ギルドを出てから探した宿で、食事つきかつ治安や住み心地がよさそうってことで決めた宿だ。
俺は今日、とにかくたくさん次元妖と戦ってみようと思っている。
正直、一か月分宿代を前払いしても金貨はまだまだ余っているので、特に何もせずだらだらと過ごしたって問題は無い。
だが、それだと暇すぎるのだ。
なんせ、この世界にはゲームが無いからな。
唯一ゲームっぽいものと言えば、ルールが十八番のパズルゲームそっくりな「幻影色合わせゲーム」はあるが……暇つぶしにそんなものを放っていては、街が壊滅してしまう。
まあ要は、「幻影色合わせゲーム」を気兼ねなくぶっ放せる場所が欲しいのだ。
そう考えると、次元妖が棲む特殊空間はもってこいの場所ってことになる。
どんなに強力な魔法を放っても、人間界に悪影響を及ぼさないからな。
それに特殊空間なら、神剣さえあれば部屋から一歩も出ずに行けるし。
「どこいくのー? なにかとたたかうのー?」
神剣を手に立ち上がると……プヨンは興味津々な様子でそう聞いてきた。
「ああ。戦いにいくぞ」
「やったーっ! ふわふわだー」
そして俺が答えると……プヨンは嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねた。
……ふわふわ?
「プヨン、ふわふわってなんの事だ?」
「ユカタがてきをたおすとねー、なんかふわふわしたかんじがするの! ふわふわしながら、つよくなっていくきがするんだー」
「へえー、そうなのか」
要は……「ふわふわ」って、経験値が入るみたいな感じのことか。
そう予測していると、プヨンはこう続けた。
「でっかいあおいりゅうをたおしたときが、いちばんふわふわしたんだよー」
……ならやはり、経験値で間違い無さそうだな。
「じゃあ……出発するか」
「おー!」
なんにせよ、プヨンが乗り気なのは嬉しいことだな。
そう思いつつ、俺はプヨンに肩に乗ってもらった。
プヨンに「幻影色合わせゲーム」の画面を投影してもらってから、前日に受付の人から習った要領で、神剣を特殊空間へとつなぐゲートにする。
すると昨日と同じように、景色がガラリと変わり、俺は特殊空間に入れたことを確認できた。
しかし。そこまでは、良かったのだが……。
「キェェェェェッッ!」
……やばい、と思った時には既に、次元妖が目の前に迫っていた。
完全なる不意打ちだ。もはや防御も反撃も間に合わない。
次元妖は、その長い鉤爪で俺を引っ掻いてくる。
しかし。
「痛……くない?」
そう。
俺には、一切のダメージが入らなかった。
一体、何がどうなっているんだ?
そう思った時。
俺の視界に入ったのは、二匹の見慣れない色のスライムだった。





