第48話 リトアさんの手腕の片鱗を見た
屋敷の中は……とにかく、めちゃくちゃ広かった。
こんなデカい部屋何のためにあるんだよって言いたくなるような部屋はたくさんあったし、庭だって日本に住んでた頃じゃ考えられない広さだった。
使用人の部屋だけでも十数個あるって知った時は、「あ、俺本当に貴族になったんだな」と実感が沸いたもんだ。
そして屋敷の構造は……何となく、中国とか韓国の時代劇で見る宮殿っぽいように感じた。
建物は西洋風なのだが、敷地内に臣下と会議をする部屋があったりしたところから、何となくそう感じたのかもしれない。
屋敷を見て回ったあとは特にすることは無かったので、俺はただただ庭先でくつろいでいた。
そんな中、一度リトアさんがスケジュールを伝えに来たのだが……直近のスケジュールは明後日に臣下との顔合わせが控えてるだけで、他には特にないとのことだった。
ザネットとの戦いで結構疲れてるのもあるし……今日は早めに寝るか。
そう決めた俺は腰を上げ、紹介されたばかりのだだっ広い寝室に向かったのだった。
◇
次の日は、俺は「空飛ぶ馬車」をダイさんに発注しに行っただけで、それ以外はのんびりと過ごしていた。
そして更に、もう一日が経過して。
とうとう、臣下との顔合わせの日がやってきた。
顔合わせの一時間前。
俺が執務室でハードドロップを活かした積み方を考えていると……部屋のドアをコンコンとノックする音が聞こえてきた。
開けてみると、そこにいたのはリトアさんだった。
「ユカタ様。一つ頼み事があるのですが……高等妖兵に水晶玉、3つほど貰う事ってできますか?」
リトアさんの目的は、俺にそんな頼みをすることだった。
「いいっすけど……何に使うんっすか?」
「ちょっと、顔合わせをスムーズに進行するのにあればいいなと思いまして」
「なるほ……ど?」
よく分からないが……まあ高等妖兵の水晶玉3つくらいどうということはないな。
「ぼく、いってくるー!」
などと思っていると、プヨンが意気揚々とそう志願しだしたので、俺はプヨンに任せることにした。
プヨンは【次元の地図】で高等妖兵の特殊空間に入り、3体を狩り終えるまで約数十秒。
「はい、どーぞ!」
プヨンは満面の笑みで、リトアさんに水晶玉を三つ渡した。
「……まさかの即席ですか!?」
「昨日ちょっととある事に使って、在庫切らしてたんで」
「相変わらずやる事が人間離れしてますね……。私も早くユカタ様の行動のスケールに慣れないと、心臓が持ちそうにありません」
などと言いつつも、リトアさんはマジックバッグに水晶玉3つを入れて去っていった。
……あと一時間、か。
初対面の印象って大事だろうし、なんかいい感じの挨拶でも考えておくか。
俺はそう決めて、部屋にあった紙とペンを取り出して案を考え出した。
◇
そして、一時間後。
屋敷内の会議室的な場所で、俺はこれから臣下となる人々と対面した。
色々考えたが、俺は結局新領主としての挨拶は簡潔に、無難な感じにまとめた。
プヨンも同様だ。プヨンにまで挨拶させる必要があったかは疑問だが……まあ部屋に何の説明もなくスライムがいると、臣下たちも不思議に思うだろうからな。
その後は、集まってもらった役人一同に自己紹介をしてもらった。
そして、それが終わると。
リトアさんが話す番が回ってきた。
まずリトアさんは、アチャアでの実績等を交えつつ、自分が当主代理としてどのように政治を進めていくつもりかについて語った。
ここまでは、普通の自己紹介って感じだな。
俺はそう思い、リトアさんの方を見ていたのだが……リトアさんは「最後になりますが」と前置きしたかと思うと、想像の斜め上を行く発言をしたのだった。
「新領主のユカタ様は、英雄としての実績からここアイスストウムの領主に抜擢されたわけですが……具体的にどのくらいの戦力かと言いますと、UFO48の使者を撃退できる程度の力をもってらっしゃいます。くれぐれも、妙な真似はなさらぬようお願いします」
リトアさんはそう言って、マジックバッグからザネットの死体を取り出しゴロンと床に置いたのだ。
それを見て……集まっていた役人たちは、目をまん丸にして口をアングリと開けたまま固まってしまった。
……あ、そう言えば俺、ザネットの死体王宮に置きっぱにするところだったな。
リトアさんが回収してくれてたのか。
……じゃなくてだ。
一体なんつーことを言うんだこの人は?
抑止力としてはまあ、効果は抜群なのかもしれないが……。
などと思っていると、リトアさんは今度は高等妖兵の水晶玉を取り出しこう続けた。
「このように、ユカタ様は戦闘能力こそ規格外ですが、普段は普通に優しい方です。むしろあなた方が善政を敷けば、ユカタ様はその武力でありがたい褒賞を与えてくださることでしょう。そうですね、例えば……まあ無いとは思いますが、もし横領とかが発生してるなら、摘発してくれた方にはこの高等妖兵の水晶玉を授けます」
リトアさんはそう言って、水晶玉を高く掲げた。
それを見て、部屋の中の8割くらいの役人の顔に笑顔が戻った。
……そういえばリトアさん、昨日一緒に夕食を食べたんだが、「使途不明金がちょくちょくあってですね……」とか言ってたな。
それで、こんな流れで話を進めたってわけだ。
何というか……ものすごく鮮やかな飴と鞭って感じだったな。
流石は悪政を正してきた経験の持ち主ってことか。
俺はこの一件に、ただただ感心するのだった。





