第45話 マージンに突入していた
……そうか、そうだった。
「ラクトバチルス・エクス・マキナ株」のお陰で、俺の体内では絶えずエリクサーが作られているんだもんな。
もとより、回復魔法など使う必要はなかったというわけだ。
つまり今積み上げた10連鎖分のスライムは、更に5連鎖分を上乗せすれば攻撃に使える。
それなら、ザネットに結界を壊されるより前に、発火も間に合う。
結界を壊された瞬間、攻撃用の大魔法をぶつけることができるのだ。
結界が割れた瞬間……ちょうど15連鎖を終えた俺は、まずはザネットの動きを封じられるようにと念じた。
するとザネットの周囲には、無数のプラズマが生じ……ザネットは、ちょうどスタンガンを撃たれたかのように身動きが取れなくなった。
「あばばばばばばばっ!」
今のうちに……すかさず追撃だ。
俺は治った右手で剣を持ち直し、再び飛ぶ斬撃を浴びせるべく剣を振った。
ガス惑星の内部で戦っているせいで、俺もザネットもあり得ない風速の気流に翻弄されている。
だが混沌剣は……その乱気流をも利用する最適な動きを、俺に教えてくれた。
「アガガガ、ガッ! な……なぜ右手が、アガガッ! 復活して……いる!?」
ザネットは困惑しているが、答えてやる義務はない。
飛ぶ斬撃を浴びせ続け、ガス惑星の外部までザネットを吹っ飛ばし続けたところで……今度は並行して組んでいた15連鎖がまた完成したので、俺はそれを使って最後の一撃を決めることにした。
攻撃魔法は、例の闇を纏った雷だ。
身動きの取れないザネットに、それは難なく命中し……ザネットの残り体力を、容赦なく削っていった。
攻撃の通り具合を確認する程度の余裕が生まれたこの状況で、俺は鑑定を発動した。
そして、闇の雷が消えるまで鑑定内容を眺めていると……鑑定の最後の文に「過剰衰弱につき戦闘不能。推定死亡時刻:一分後」と現れた。
「……クソが。なぜ俺が、こんな目に……」
よく耳を済ますと……ザネットは最後の力を振り絞り、そんなことを呟いていた。
それに関しては、俺としてもちょっと言いたいことがあるぞ。
「ザネット。お前……普通の流星魔獣を倒した奴くらいなら、簡単に倒せると思っていたんだろ?」[#「普通の流星魔獣」に傍点]
俺はザネットに聞こえるよう、そう言った。
「ああ。流星魔獣を倒した程度で粋がってるような奴に、俺が負けるなど……」
「そうか。言ってなかったけどな……俺が倒したのは、孵化に二千年かかった流星魔獣だったんだ」
言うと……ザネットは若干驚いた表情で、こちらを見つめた。
俺は一息ついて、こう続けた。
「もしお前が、俺たちの惑星が流星魔獣に襲われている時助けに来てたら……その事を知り損ねることも無かっただろうな。そうすれば、お前が俺の実力を見誤ることも無かった。お前の今の状況は、完全に自業自得なんだよ」
「貢ぎ物にすら価値がない」なんて言われたら……これくらい言い返さないと気が済まなかったからな。
コイツが若干しぶとくて、むしろありがたかったというものだ。
「……ふ、そうか。だが……あまり思い上がるなよ。貴様はこれで……正式に、ユーエフ王様に楯突いたことになるのだからな。UFO48にだって、俺より強いヤツはゴマンといる。お前の死は……そう遠く……な……」
そこで……ザネットは、完全に事切れた。
そしてそれを裏付けるかのように、俺の脳内には例の声が鳴り響いた。
<ハバ ユカタはレベルアップしました>
「やったー! たおせたね」
「そうだな」
「すてーたす、みるー?」
「……ああ、見させてくれ」
見てみると……俺のステータスは、このようになっていた。
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名前:ハバ ユカタ
Lv.538
スキル:鑑定(―検索) 神剣飛行
状態:能力上昇(身体能力・魔法能力共に2割増加)
時間経過マージン(【スライム召喚】の戦闘中副次効果により、身体能力が1割増加。この状態はあと3秒で切れる)
適性:混沌剣所有
ユニークスキル:スライム召喚
(相方となるスライムを召喚できる。召喚したスライムは、特殊な能力を持つ)
プヨンのスキル:
①ステータス表示
②幻影色合わせゲーム
(同色のスライムの幻影を4つ繋げて消すことで、大魔法を放てる。連鎖消しすると、魔法も火力も爆発的に増加する)
※ハードドロップを実装
③次元の地図
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レベルはまた、80くらい上がってるな。
激しい戦闘をすると、それくらいは上がるもんなのだろう。
あと特筆すべきは……状態のとこに「時間経過マージン」なんてのが追加されてることか。
マージン、な。
そんなルール、俺が転移前にやってたパズルゲームにも確かにあった。
今まではこんなもの無かったし……おそらく、これは混沌剣の効果の一つ「ユニークスキル強化」によるものなんだろう。
そんな事を思いつつ、ステータスをボーッと眺めていると……三秒が経ち、時間経過マージンは消えてしまった。
……そろそろ、元いた惑星に帰らないとな。
国王もリトアさんも、心配しながら待ってるだろうからな。
だが……その前に、ザネットの死体回収だ。
UFO48の団員がたまたまここを通りかかって、思ったより早く今回のことがユーエフ王側に知られては損だからな。
俺は自分用特殊空間にザネットの死体を入れると……「次元の地図」を用い、現在次元妖と交戦中のSランク冒険者を探した。
激しい戦闘の末、帰る方向を見失ってしまったからな。
この方法しか、帰る方法が無いのである。
しばらくして、ある特殊空間にSランク冒険者が入ってきたのを確認すると……俺は混沌剣を用い、同じ空間に乱入させてもらった。





