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第44話 リアルファイト

「この辺でいいか」

 数十秒が経ち、太陽が点にしか見えないくらいになって……俺はようやく、飛行速度を緩めた。

 近くには一つ、木星っぽいガス惑星が浮いているが……光速の千倍くらいのスピードで飛んできたので、これはおそらく系外惑星だろう。

 ザネットの野郎、「惑星もろとも」とか言ってたからな。

 先に惑星の方を破壊されては困る(そもそもそこまでの力をコイツが持ってるかは不明だが、念のため)と思い、場所を変えて戦うことに決めたのだ。

 結界には若干ヒビが入っているが……コイツが出てくるまでには、もう少し時間がかかりそうか。

 せっかくなので、俺は今のうちに次の連鎖を組み始めることにした。

 そうしてしばらくすると……結界はバラバラになり、中からザネットが姿を現した。

 

「お前……俺に逆らうつもりか。ちょっと災厄に対処したからと言って、つけ上がりおって」

 ザネットは服を軽くはたくと、こう続けた。

「どうやってここまで移動したのかは知らんが……それくらいいでいい気になるなよ。俺だって、流星魔獣程度一捻りで倒せるのだ。お前はこれから、自分の選択を後悔することになるぞ」

 ザネットはそう言うと、近くの木星っぽい惑星にエネルギー弾を撃ち込んだ。

 その惑星にも、ちょうど木星の大赤斑みたいな渦巻があったのだが……その渦巻は、エネルギー弾を受けると霧散してしまった。

 ……軽めに撃ったっぽい感じでアレかよ。

 あれが王宮で炸裂してたら、確かに大陸が更地になってしまってたかもな。

 やはり、俺の選択は正解だったらしい。

 負ける気はさらさら無いが……惑星を守りながらコレと戦うのは、ちょっと無謀だっただろうからな。

 ともあれ、俺は2連鎖ダブル二回分のスライムを積み終えてある。

 まずはこれを発火して、身体強化と脳の回転強化をかけ……様子見を始めるとしようか。

 混沌剣に身を委ね、無駄のない動きで次々と飛ぶ斬撃を浴びせてゆく。

 妖大将と戦った時みたいに、敵に体勢を立て直す暇を与えずに衰弱しきらせることができれば、それに越したことは無い。

 仮にそこまでは行かなくとも、せめて攻勢のまま余裕を持ってスライムを組むことさえできればいい。

「流星魔獣を倒せる程度」の敵相手に、今の俺のステータスと強化された神剣があれば、最低限そのくらいは達成できるはず。

 そう思い、俺は剣を振り続けたが……なんとザネットは、飛んできた斬撃を全て躱し続けてきた。

 残念ながらこの敵は、俺が思った以上には敏捷性(びんしょうせい)があるみたいだな。

「遅いな、その程度か」

 ザネットはそう言いながら、徐々に徐々に距離を詰めてきた。

 攻守をひっくり返されそうかといえば、そこまでではないが……落ち着いて12連鎖以上を組める状況かというと、それはちょっと厳しそうに思えた。

 何か打つ手はないか。

 そう悩んでいるタイミングで……動きをみせたのは、プヨンだった。

「おまえ、さっきからうるさいぞー!」

プヨンはザネットに対し、怒りを露にしたかと思うと……その場で高速回転を始め、次第にプラズマを纏い始めたのだ。

……え、そんなことできたの。

「くらえーっ!」

「がはっ……は……? スライムに、なぜそんな力が……!?」

 だがザネットは俺以上に面食らったらしく。

 プヨンの突進でよろめいたのもあって、僅かな隙ができた。

「今だ!」

 そこを突いて、俺はザネットに数発の斬撃を浴びせることができた。

「かはっ……」

 ザネットはのけ反りつつ、鼻から血を出した。


「ふ……ふざけるな貴様らァァァ!」

 そこまでは良かったのだが。

 ザネットは本格的に怒り狂ったのか……両手をあげ、禍々しいエネルギーの球を作り始めた。

 その威力は……明らかに、先程木星っぽい星の渦を消した時のものより大きそうだった。


 アレを受けるとマズい。

 一瞬、俺の中に焦りが生じたが……俺はここへきて、咄嗟に名案を思いつくことができた。

 神剣が混沌剣になって、一番大きく変わったこと。

 それは間違いなく、飛行の最高速度だ。

 今まで俺は、その性能を移動にしか活かしてこなかったが……この速度を攻撃に活かすことができれば、コイツにだってかなりのダメージを負わせられるはずだ。

 今の俺の身体能力では、光速で通り過ぎるものを斬り伏せるなどという器用なマネはできないが……一直線に向かっていって体当たりするくらいなら、もちろん可能だ。

 進行方向にザネットがいるようにして、今までの要領で宇宙を飛べばいいんだからな。

 それもさっきまでなら、予知して回避されたりしたかもしれないが……今ザネットは大技を放つ体勢に入っているため、ほぼ無防備だ。

 これから回避動作になど、入れはしないだろう。

 今が絶好のチャンス。

 俺の肩が奴の鳩尾に入るよう角度を調整して、光速タックルを決めてやる。

 もっとも、この至近距離でどこまで加速できるかは、正直分かりかねるが……迷ってる時間は無い。

 

「は!」

 俺は斬撃を中断し、間髪入れず飛行を開始した。

 すると……次の瞬間、肩に激痛が走った。

「……てっ!」

 すかさず速度を落とし、後ろを振り返ると……ザネットは腹を押さえつつ、思いっきり吐いていた。

 それはもう、今のザネットをモザイク無しで動画配信すれば確実に垢BANされるってくらいには、盛大に吐いていた。

 どうやら今の激痛は、ザネットにぶつかった反動だったみたいだな。

 思惑通り攻撃が通ったことは何よりだ。

 だが……俺は俺で、骨が折れてしまっているのか全く右手が動かない。

 鳩尾にジャストで入ったはずなのに、酷い怪我のしようである。

 今のうちに連鎖を組んでいきたいところだが……痛みに集中力が持っていかれ、いつものようなスピード感で積んでいくのは難しい。

 これはザネット側のダメージが相当なものでない限り、ここからの戦いは厳しくなりそうだな。

 

 そんな中でも、なんとか5連鎖分くらいは組めた頃……ザネットは口を拭い、俺の方を向いた。

「よ……よくも俺の(あばら)を。さっきのは……ゲホッ、かなり効いたぞ。だが……ウプッ、お前ももう、その腕では先程のようには剣を振れまい」

「いや、振れなくはねえよ」

 ザネットの言葉に、俺はそう言い返したが……正直、最初の斬撃拮抗状態に戻りたくないというのは、俺も思うところではあった。

 左手で剣を振ればいいので、今の言葉に嘘は無いが……そんな無理に身体を動かしたら、右肩がもっと悲惨なことになりそうである。

 今最優先すべきは、安全な場所で負傷を回復させ、次の攻撃用のスライムを積み上げることだろう。

 というわけで……俺はスライムの幻影を7連鎖消し(本当は10連鎖いくつもりだったが、痛みから段位計算をミスってしまった)して自分を覆う球場の結界を発動し、混沌剣飛行で結界ごとガス惑星の内部に移動した。

 こうすればザネットから姿を眩ませるし、ガス惑星内部の嵐に揉まれることもない。

 この状況でまずは一度10連鎖消しをし、肩に回復魔法をかける。

 そしてもう一度15連鎖を組んで……連鎖が消え終わる頃のタイミングを見計らってこの結界から出て、不意打ちでザネットに攻撃をお見舞いするのだ。

 そうと決まれば、今度こそ細心の注意を払ってスライムを積むのみ。

 

 そう思ったのだが……ザネットは、そこまで甘い相手ではなかった。

 なんと、ガス惑星の内部にいる俺を一瞬で探し当て、結界のすぐそばに姿を現したのだ。

 ザネットは何度も何度も、結界を殴りつけてくる。

 このままでは……あと十秒もすれば、結界は壊れてしまいそうだ。

 

 だが……俺の方にも、嬉しい誤算はあった。

 俺が10連鎖分のスライムを積み上げ終わった頃。

 なんと右肩が全治し、痛みも完全に引いたのだ。


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書影公開されました!
『スライム召喚無双』第一巻は8/10に、カドカワBOOKSより発売です!
イラストはともぞ様にご担当頂きました!
(↓の書影をタップすると活動報告の口絵紹介にとべます!)

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― 新着の感想 ―
[一言] 思い・・・出した!!
[一言] そういや腸内細菌なんてあったっけな忘れてたわ
[一言] 忘れた頃にひっそりと仕事する腸内細菌GJ
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