第4話 いきなりトップランカーにしろとは言ってないぞ
「ちょ……ああもう! なんであなたが持ち込むものは、何もかもそんなんばっかりなんですか!」
受付の人は、そう言って奥へと引っ込んでしまった。
……今度は何だっていうんだ? また「売れません」なんて言われなければ良いのだが。
そう思っていると、近くにいた冒険者たちもざわめきだした。
「なあ、あれってさ……」
「ああ、間違いねえな。あれは高等妖兵を倒した際に手に入る水晶玉だ」
「まじか。初めて見たぜ」
そんなことを口にする冒険者たちだった。
高等妖兵、か。高等って付くくらいだから、普通の次元妖より価値が高かったりするんだろうか?
売れないクラスでさえなければ、高いに越したことは無いけどな。
この話題はしかし、話に割って入った冒険者によってさらに膨らんでいった。
「おいお前ら。一つ忘れてねえか?」
「忘れるって、何……あっ! そう言えばあの神剣使い、仕留める速さも異常だったような……」
「おい、それってつまり……」
そして、冒険者のうち一人が、こう尋ねてきた。
「神剣使いさんよ。あんた、一体何者なんだ?」
……そう聞かれましても。
「ぼくをよんだひとだよー!」
「うおっ、スライムが……喋った!?」
「すげえ、こんなの初めて見た!」
プヨンよ、冒険者たちが聞きたいのはおそらくそういうことじゃないぞ。
そうこうしているうちに、受付の人は一人の男を連れて戻ってきた。
そしてその男に水晶玉を見せ、こう言った。
「支部長。これが例の、高等妖兵の水晶玉です」
受付の人がそう言うと、支部長と呼ばれた男は目を丸くする。
「これは……確かに、高等妖兵を討伐した時にしか手に入らぬものじゃな。じゃが……ここ最近、この街に高等妖兵が出現したことがあったじゃろうか?」
「いえ、それは……」
「あの、ちょっと待ってください」
俺は支部長の発言に違和感を覚えたので、話に割って入ることにした。
「『高等妖兵が街に出現』って、一体どういう意味っすか? 次元妖は特殊空間にしか存在しないって聞いたんっすけど……」
そう聞くと、受付の人がこう説明してくれた。
「確かに、次元妖は原則として、特殊空間に棲んでいます。ですがたまに、次元妖は人間界を襲いにくるのです」
「そうなんっすか」
「はい。そして人間界に降りてきた次元妖は、自身の特殊空間に籠っているときに比べ、遥かに弱体化するんです」
「へえ……でもそれが何で、この街に高等妖兵が襲いに来たかどうかって議論に繋がるんすか?」
「簡単な話です。高等妖兵は、いくら神剣使いといえど一対一で倒せるような強さじゃないからですよ」
何故かあなたは当然のように高等妖兵を屠ってきましたけど、と受付の人は話した。
……高等妖兵、強いのか。
あっさり勝ってしまったので、大したことなかったのかと思っていたが。
そう考えていると、支部長がこう言い足した。
「自然界に出現した高等妖兵なら、熟練した冒険者なら狩れるんじゃがのう。弱体化しておらん高等妖兵は、かの海の災厄・クラーケンをも超えるほどの強さじゃ。とても人間が単独で倒せる相手ではない。じゃが……お主、それを成し遂げてしまっておるようじゃのう」
支部長は、困惑したような素振りをみせるのであった。
……なるほどな。
同じ特殊空間に、二人以上の神剣使いが同時に入る確率は極めて低い。
である以上、特殊空間で狩った次元妖は、単独で討伐したということを意味する。
だから、人間界に高等妖兵が出現していたかどうかを問題にしたのか。
けどクラーケンって確か、俺がレベル1の時に倒した奴だったよな。
今の俺は、レベル200をとうに超えている。
だからあっさり倒してしまったのは不思議でも何でもないはずなのだが……一般にはそうじゃ無いのか?
まあいいか。
俺にとって大事なのは、「結局これは売れるのかどうか」の一点だけだからな。
「で……この水晶玉って、売れるんっすよね? そこが一番大事なんっすけど」
祈るような気持ちで、そう聞いてみる。
「そう言えばそうでしたよね。どうします、支部長?」
「うーむ、予算はちと厳しいのじゃが……この神剣使いは、明らかに異質の強さを持っておるからのう。仕方ない、友好のためにも、今回だけ買取りに応じるとしよう」
「分かりました。……という事で、今回だけは、この水晶玉を買い取らせていただきます。ただ、当ギルドの買取り能力ですと、このクラスの戦利品は年に一回までしか買い取れないってことは覚えておいてくださいね」
念押しはされたものの、今回の買取自体はしてもらえるみたいだった。
ありがたい。
何とか、人間らしい生活にありつけそうだ。
「では、ギルド証を呈示してください」
……そう思ったのも束の間。
俺の前に、新たな試練が立ちはだかった。
「ギルド証……? すんません、それ必要なんっすか?」
「まさかとは思いましたが、持ってないんですね? 本部規定より、指定のかかった戦利品は身元の確認が取れる人からしか買い取れないようになっているんですが……どうします? 今、冒険者登録なさいますか?」
「じゃあ、はい」
そう言われると、しないって選択肢は消えるよな。
答えると、一枚の紙とペンが渡された。
これに記入すればいいんだな。
項目は名前、年齢、スキル、主要武器、神剣適性の有無の五つと、幾つかの項目への同意か。
八葉 浴衣二十八歳、スキルは鑑定と神剣飛行。
ユニークスキルは……書かなくていいか。
主要武器は神剣で、適性はもちろん有だ。
そして同意項目。
ふむふむ……マジか。実技試験あんのかよ、めんどくさいな。
雰囲気で流して、免除してもらえたりは……しないよな。
「すんません。この『実技試験』って、絶対受けないといけないんっすかね?」
「んなわけがなかろう。お主は即刻、Sランクに登録されるわい」
……おい、支部長。
それはちょっと、回答が斜め上すぎないか?





