第39話 服の性能──後編
今の魔法、見るからに普通の魔法ではなかったし……かなりの実力者でなければ扱えない高威力の魔法であったことは、間違いないだろう。
普段なら一発で魔力を使い切ってしまうような魔法であったとしても、おかしくはないくらいだ。
だが……だからこそ、あの魔法を撃って尚ムゲジュさんが元気なら、この服による魔力回復が使い物になる証明だというもの。
である以上、ムゲジュさんが今も元気はつらつとしていてくれればいいのだが……
……しかし。
ムゲジュさんは俺の思いとは裏腹に、その場にへたり込んでしまった。
……流石にこの服の性能、今の魔法の魔力消費を相殺できるほどではなかったか。
そう思いかけたが、次にムゲジュさんが発した言葉は、なんと更に思いがけないものだった。
「なんだ今の魔法……あんな威力、見たことねえ……!」
「……え、自分で撃った魔法っすよね?」
「そ、そうだけど……そうじゃないんですよ。俺の黒龍撃は……あんな威力が出るはずのものじゃないんだ……すよ」
動揺のあまり、ムゲジュさんは口調も不安定になっていた。
要は……あの服を着たことで、ムゲジュさんは普段以上の規模の魔法を撃ててしまったということか。
おそらく……服が日光を浴びて生成した魔力のうち、ムゲジュさんの体内に取り込まれず溢れていた分が、魔法の肥大化に原因となったって感じだろうな。
そう考察しつつ、俺は一度的の様子を見に行ってみることにした。
俺はこの的には、三重の結界──表面から順に1連鎖、3連鎖、8連鎖のスライムを消して作った結界──を張っていたのだが……。
「……一重目の結界にだけ、ヒビが入ってるな」
なんと、そのうちの1連鎖で作った結界は、ほぼほぼ壊れかけの状態になってしまっていた。
1連鎖というとショボく感じられるが……今の俺の1連鎖は、この世界に来たての俺の15連鎖より威力が上。
ムゲジュさんの今の魔法は、クラーケンを余裕で倒せる程度の威力があった計算になるのだ。
「ちなみにムゲジュさん、疲れとかはどんな感じっすか?」
「いや、そっちは全然問題ないです。普段なら一発放ったらヘトヘトになるんですけど……寝起きくらい魔力は有り余ってる感じですね」
そして……肝心の魔力回復の方は、バッチリ追いついていたということも分かった。
「あと……その服を着た状態で、威力を抑えて魔法を使うことってできますか?」
全力で魔法を放ったら、想定以上の威力が出たとのことだったが……もしそれが「この服を着ている限り、魔法が生成魔力を吸収して勝手に膨れ上がる」とかだったら扱いがかなり難しくなってしまう。
想定外の現象に、俺はそんな懸念を抱いていたのだが……
「大丈夫です、それは!」
ムゲジュさんが指先で蝋燭程度の火魔法を発動したのを見て、ちゃんとコントロールすれば威力調節は可能だという事も確認できた。
これで……検証したいことは、ほぼバッチリ調べ尽くせたな。
結論としては、この服、性能も使い勝手もバツグンってところだ。
「ムゲジュさん、ご協力ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ、貴重な経験ができて良かったです。これは一生の思い出にします!」
実験も終わったということで……俺は訓練場を後にする前に、かけた結界を解除していった。
「ちなみにユカタさん、その服、どう使うつもりなんですか……」
そこで……今までじっと様子を見守っていた受付嬢が、そんな質問をしてきた。
「そうっすね。うーん、俺もうちょっとで領地貰うみたいなんで……とりあえず、騎士の軍服にでもしてみますかね」
「え゛……。なんかそれ、もう騎士団だけで世界征服できちゃう感じになってしまいそうですね……」
そして……何となく思いつきの用途を口にしてみたら、若干引かれてしまった。
うん、世界征服なんて面倒だし絶対しないけど。
まあ政治的な意味では、そういうレベルの抑止力を持つってのは悪くないのかもしれないな。
服の実験が終わってからは、オリハルコンをどう使ったのかについて色々と聞かれることとなった。
きちんと話の内容を記録したいとのことから、わざわざ専用の部屋まで用意された上で、記録係とギルドマスター同伴で話を聞かれたのだ。
ある程度は自分でも説明できたものの……半分近くの質問に関しては、「詳しくはダイ=アキュートさんに聞いてください」で済ませてしまった。
まあ、これに関してはしょうがない。
特にイオンホールド酸の製法やその原理に関しては、俺自身理解できてない部分が結構あるのだからな。
ダイさんの研究施設に帰ってから一部始終を話すと、「うわー、面倒くさくなりそー」と嫌そうな表情をされてしまったが……高等妖兵の水晶玉をプレゼントすると、ダイさんの機嫌はすっかり元どおりになった。
なのでまあ一応、これに関しては一件落着ってことでいいだろう。
「プヨン、そろそろ帰るぞー。……ってあれ、プヨンどこだ?」
ダイさんと話し終わり、いよいよ施設を後にしようとした時。
俺は部屋を散策していたプヨンを呼ぼうとして……その姿が見当たらないことに気づいた。
どこに行ったのだろうか? そう不思議に思っていると。
「ぷはーっ!」
なんとプヨンは……テトラアンミンオリハルコン(Ⅱ)イオンが入っているバケツから飛び出してきた。
「お、おい……そんな液体の中に入ってて、大丈夫か?」
「だいじょぶだよー!」
心配していると……プヨンはひとりでに鑑定のウィンドウに変身した。
そしてその文面を、俺に見せてきた。
「よんでみてー!」
「どれどれ……『表面がオリハルコン触媒でコーティングされているため、差す光の量に応じて自力で魔法が使える』、だって?」
言われるがままに、鑑定に目を通すと……発覚したのは、そんな事実。
「え、ユカタのスライム……自分の表面をこの液でコーティングしちゃったの?」
ダイさんも、これには絶句するしかない様子だった。
そんな事して、健康に問題とか無いんだろうな?
一瞬不安がよぎったが……すぐに俺は、まあ深刻な事態にはならないだろうと思い直した。
プヨン、一応「ラクトバチルス・エクス・マキナ株」食べてるからな。
万が一健康被害があったとしても、常時生成されるエリクサーがそれを相殺してくれることだろう。
何より本人が、俺らの心配をよそにケロッとしてるんだ。
「行くぞ、プヨン。ダイさん……今回はいろいろありがとうございました」
挨拶をしているうちに、プヨンはぴょこんと俺の肩の上に飛び乗った。
「またねー!」
ダイさんに見送られつつ……俺は地上への階段を上っていった。





