第35話 検索とコピペ
「え、ちょっと待って。まず聞くけどさ……『オリハルコンを溶かせる』ってのは、どこから得た情報?」
「俺の鑑定っす」
「な……なる、ほど。まあ、じゃあ溶かせるんだろうね、オリハルコン」
ダイさんは、必死で自分を落ち着かせるかのようにそう言った。
「まあユカタがそう言う以上は、そこは疑わんようにしとくね。ただ、肝心なのはここからなんだけど……その『実験』てのは、溶かし方の実験なのか、溶かしたものの使い道を調べる実験なのか、どっち?」
「両方っすね」
「てことは、溶かし方から模索しなきゃいけないんだね……」
ダイさんはそう言うと、大きめのため息をついた。
「で……何からやってみたらいい? ウチ一人でできることならとっくにやってるし、何かヒントがないと始まらないんだけど……」
……それもそうか。
いくらダイさんでも、「オリハルコンは溶かせる」ということを伝えただけですぐその方法を思いつくとはいかないよな。
何からやるか、か。そうだな……。
「ちょっと一瞬いいですか。さっき覚えた『検索』のスキルで、何か分かるか試してみます」
せっかく、新しいサブスキルを手に入れたんだからな。
呼び鈴魔道具を探すのに使って終わり、というのはちと寂しいというものだろう。
やり方は……とりあえず、「『オリハルコン 溶かし方』 検索」とでも念じてみるか。
そう思い、俺はその方法で『検索』のスキルを発動してみようとしてみた。
だが……。
「……ダメだなあ……」
この方法では、『検索』スキルは発動しなかった。
オリハルコンの溶かし方、ググれたら話は早いと思ったのだが……流石に、検索エンジン的な使い方をできるものではなかったか。
……さて、じゃあどうやってオリハルコンの溶かし方を検索しようか。
呼び鈴魔道具を見つけるときは、「呼び鈴魔道具を検索」で上手くいったのだが、その時と今回では何が違ったのか……あっ。
そういえばあの時は、一度鑑定したものに対して検索スキルを発動したんだったな。
よく考えたら検索は鑑定のサブスキルなんだし、である以上、検索ってのは鑑定したものに対して発動できるスキルなのかもしれない。
それを踏まえてじゃあ、今回の場合は……。
「……全文検索するか」
こうして俺は、検索スキルの使用方針を固めた。
まずはオリハルコンを、10連鎖分くらいの魔力で強化した鑑定にかける。
プヨンが「これぜんぶはひょーじできないよー」と限界を伝えてきたので。俺は、ページに区切って表示してもらうよう頼んだ。
今までにないくらい強力な鑑定強化をかけた分、今の鑑定には全ての百科事典を足して一億倍したんじゃないかというほどの圧倒的な情報量が現れている。
これを全部読んでいようもんなら日が暮れ……いや、人生が終わってしまうだろう。
だが俺は、そんなことをする気はない。
俺はその文字列に対し……「溶かし方」という項目を検索するよう、検索スキルを発動してみた。
その結果……その試みは成功した。
鑑定のウィンドウに表示されているものが、「オリハルコンを電離させる方法」という見出しのついた箇所に切り替わったのだ。
「オリハルコンを溶かす方法、検索できました」
「……マジ? どこまで分かったの?」
「恐らく……溶かし方について、一通りの説明はできるかと」
「そ、そこまで……」
俺がダイさんに検索の成功を報告すると、ダイさんは目を白黒させつつも楽しそうな表情を浮かべた。
「わ……分かった。じゃあその方法、聞かせて」
そう言われ、俺はダイさんに手順を説明することとなったのだが……俺はそこで、とある案を思いついた。
どうせなら……このオリハルコンの溶かし方の手順、印刷することはできないだろうか。
「プヨン。鑑定の文字をさ……左右反転させることって、できるか?」
「できるよー」
俺が聞くと……プヨンは、事もなげに鑑定の文字を左右反転させた。
おお、できるのか。
これなら、あとは転写先を用意すれば良さそうだな。
「ダイさん、ちょっと聞きたいんすけど、ここに紙とインクありませんか?」
「紙とインク? ああ……あるけど……」
俺がそう質問すると、ダイさんは戸惑いながらも紙とインクを持ってきてくれた。
じゃあ、始めるか。
俺は調理用のトレーみたいな形状の対物理結界を展開すると、その中にインクを流し込んだ。
「プヨン、この中に、文字の方を下にして横たわってくれないか?」
「はーい!」
そして俺がそんな指示を出すと、プヨンはひょこひょこと移動してインクの中に身を浸した。
「そしたらじゃあ……文字以外のところについたインクは、振り落としてくれ。できるか?」
「おやすいごよーだよ!」
プヨンがバサッと全身を波打たせると――どういう原理かは知らないが、インクは文字の上にだけ残り、それ以外の部分は完璧に綺麗になっていた。
「よーし、いいぞ。じゃあ今度は、この紙の上に横たわってくれ」
「こうだねー!」
そして……転写のため、プヨンには紙の上にうつ伏せに寝てもらった。
プヨンに紙から離れてもらうと……紙にはちゃんと、鑑定の表示内容が印刷されていた。
いい感じにできたな。何でも試してみるものだ。
この調子で、残りの該当ページも印刷していこう。
そう思い、その作業を続けていると。
「スライムで印刷て……。ちょっと、便利さの度を越してない?」
ダイさんさんに、ちょっと引かれてしまった。
「まあ、とりあえず読んでみてください」
そうこうしているうちに必要ページ全ての印刷が終わったので、俺はダイさんにその資料を渡した。
再度、プヨンには文字の反転を元に戻してもらう。
それから俺たち二人は、オリハルコンの溶かし方の説明を熟読することとなった。





