第30話 (⌒,_ゝ⌒)
【混沌剣への進化】
この魔道具で刀身に刻印がなされた剣は、宇宙の秩序を逸脱した機能を得る◼️
「……だそうです」
「なんか……凄そうだけど、よくわかんないね」
俺が鑑定の内容を読み上げると、ダイさんは肩をすくめた。
……うん、同感だ。
「宇宙の秩序を逸脱した機能」では抽象的過ぎて、何を言っているのかさっぱり分からない。
ていうかそもそも、魔道具の名前からして違うんだな。
使い方も、刃先に光を当てるのではなく、刀身に刻印をするってことになってるし。
まあ、いいか。
何にせよ、「神剣強化の虫眼鏡」よりは効果が強力なのは確かだろうからな。
「宇宙の秩序を逸脱した機能」が具体的に何なのかは、これで強化した神剣を鑑定する事で、改めて調べることとしよう。
……あ、その前に。ここらで、お代を払っておくとするか。
「いやしかし本当にありがとうございます、これ作ってくださって。あのー、代金どうしたらいいっすかね?」
「そうだねー。最初は普通にお金払ってもらおうと思ってたんだけど……君、金を積んでも簡単には手に入らない素材をポンポン出したりするじゃん? だからさ、どうせなら貴重な素材で払ってもらうのもアリかなって考えたんだけど。どうかな?」
俺が代金について質問すると、彼女はそんな交渉を持ちかけてきた。
「貴重な素材っすか……。高等妖兵の水晶玉とかでもいいっすか?」
「全然構わないよ! むしろ大歓迎」
「分かりました。じゃあこれで」
「……今すぐ払えるんだ……。一体、何個その水晶玉の在庫があるの……」
なんか彼女には呆れたような表情をされてしまったが、借りを作りっぱなしにはしたくないんだからしょうがない。
それにどうせ、手持ちが無かったとしたら「次元の地図」で今すぐ獲ってくるだけの話だしな。
「で……その魔道具、早速使うの?」
「はい、もちろん」
ダイさんの問いに、俺は間髪入れずそう返した。
神剣がどうなるのか純粋に楽しみだし、効果の検証もやってみたいからな。
楽しみを後にとっておく理由は無い。
「せっかくだから、ウチも見ておきたいな。ウチが作った魔道具、国の宝物庫行きになるばっかりで、実際に活躍するとこあんまり見ないからさ……」
そう言うダイさんは、どこか悲しそうな表情を浮かべていた。
……天才錬金術師にも、思わぬところに悩みがあったりするんだな。
「じゃあ、やりましょうか」
そう言って……俺たちはこの魔道具を使うため、太陽光を求めて地上に移動した。
神剣を地面に起き、「混沌剣への進化」の持ち手の部分を握る。
そして、ちょうど子供が虫眼鏡で枯れ草に火をつけるかのような要領で、俺は神剣の刀身が焦点となるよう距離や角度を調整した。
すると……刀身全体がほんのり青白く光ると共に、集約された太陽光が当たった部分は藍色に変色しだした。
おそらく……これで、正しく刻印を進めて行けているのだろう。
どんな文字を刻印するかは決めてなかったが……まあよく使う顔文字とかでいいかと思い、俺は「(⌒,_ゝ⌒)」と描くようよう魔道具を動かし、刻印を進めていった。
何分が経過しただろうか。
出てきた時には既に夕暮れだったがまだ日が落ちていないことから察するに、実時間はそこまで経過していないのだろうが……永遠にも感じられるような刻印作業の末、俺は満足いく感じに彫り終えることができた。
「ふう……」
息をついて、「混沌剣への進化」から手を離す。
その瞬間……「混沌剣への進化」は、パリンと音を立てて盛大に砕け散った。
と同時に……刻印中青白く輝いていた神剣が、更に輝きを増しだした。
「うわっ、眩しっ!」
「これ見てたら失明しちゃいそうね!」
俺もダイさんも、思わず腕で目を覆う。
そして何十秒か経ち、恐る恐る目を開けると……そこには一見いつもと変わらない、今までと違うところは顔文字の刻印が入っていることだけの神剣があった。
だが……この世界でステータスがかなり上がっているからだろうか。
今の俺には、鑑定を使わずとも「見た目には分からない、剣の格の違い」を直感的に感じることができた。
「凄かったね……ねえ、この剣どうなった?」
とはいえ……具体的な効能を知っておきたいし、ダイさんもこうして剣の変化に興味津々なので、結局は鑑定するんだけどな。
今回は、ちゃんと忘れずに2連鎖ダブルを組み……それから鑑定を発動して、鑑定を強化した。





