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第27話 錬金老師

「そうじゃな……それは可能じゃと思うぞ。このアーティファクトを作ったのは、錬金老師ダイ=アキュートという者なのじゃが……最近、彼女はあまり仕事が無いと嘆いておるからのう。大英雄たるユカタ殿の頼みなら、すぐにでもアポは取れるはずじゃ」

 俺の質問に、国王はそう答えた。

「なるほど……。でしたら、ここのお宝を頂く代わりに、その方とのアポを取り付けていただけませんかね?」

「すぐにでも手配しよう。それに、代わりなどとは言わず好きなものも一個持っていって構わんぞ」

 こうして俺は、神剣強化の虫眼鏡の製作者・錬金老師ダイ=アキュートと会う予定ができた。

「まあ、それに関してはもう少し考えさせてください」

「ああ。いつでもよいぞ。ただ……錬金老師ダイ=アキュートが、お望みのものを作ってくれるとは限らんがな。いくら彼女が天才とは言え、妖大将の水晶玉ほどの素材を扱った経験は無いじゃろうから」

「分かりました」

 俺は国王に向かって一礼した後、王宮を去ることにした。

 ……錬金老師ダイ=アキュートか。

 どんな人か、楽しみだな。

 

 ◇

 

 それから三日後。

 ついに、錬金老師ダイ=アキュートと会う約束の日が来た。

 国王の使者が送り届けてくれた地図を元に、彼女の工房を探す。

 神剣飛行で見る上空からの景色と地図を照らし合わせ、彼女の工房がある区画に降り立つと……そこにあったのは、古びた小屋のような建物だった。

 こんなところに、そんな凄い職人が住んでるとは思えないが……使者の話によると、この建物はフェイクで、この地下に凄い施設があるんだよな。

 とりあえず、入ってみるか。

 小屋に入り、地下に向かう階段を降りると……頑丈そうな扉の目の前に、一人の華奢な女の子が立っていた。

「君が今日会うって約束の、ハバ=ユカタ君か?」

 俺と目が合うと、その女の子はそう聞いてきた。

「そうだけど……君は?」

「ウチ? 君が会いたいって言ってた、ダイ=アキュートだよ」

 それを聞いて……俺は一瞬、耳を疑った。

 錬金老師(・・)って言ってたよな。

 この子、どう見ても二十歳超えるか超えないかくらいでしかないのだが。

「き……君が?」

「そうだよ。……さては君、ウチが若すぎるって思ってるんでしょ。考えてもみなよ。錬金術極めといて、これくらいのことができる美容液、作らないわけないじゃん」

 ……なるほど、そういうことだったか。

 一理あるような無いような、よく分からない感じだな。

「では……実際には、おいくつなのでしょうか?」

 目の前の子が錬金老師ダイ=アキュート本人だと分かったので、俺は口調を敬語に直した。

「ヒ・ミ・ツ。ユカタ君って、すんごい英雄なんでしょ? ウチの口から直接言うより、鑑定スキルとかで調べた方が面白いんじゃないかな〜?」

 すると、彼女はそう言ってチッチッと指を左右に振ったので……俺は彼女を鑑定してみることにした。

「えっ……え? スライムが……ユカタの鑑定って、そういう仕組みなの?」

「ええ、まあ。プヨンと言ってですね、他にもいろいろ能力があるんですよ」

「ぷよんだよー! よろしくね!」

「しかもウィンドウ形態のまま喋るんだ……」

 やはりつっこまれそうだと思っていたところでつっこまれたが、適当に返事しながら表示結果を読む。そこにはこう書かれてあった。

 

 【錬金老師ダイ=アキュート】

 世界最高の腕を持つ錬金術師。

 年齢不詳◼️

 

 ……年齢不詳って何だよ。

 そう思っていると……彼女はニヤリと笑顔を浮かべた。

「はい、残念でしたー!」

 だが……。

「八十四歳っすか」

「……え? 何で分かっちゃったの!? ウチの鑑定妨害ファンデーションは絶対のはずなのに……」

 その笑みは、一瞬で崩れ去ることとなった。

 ごめんごめん。

 ちょっとイラッときて、つい鑑定を強化してしまった。

 にしても鑑定妨害ファンデーションって、才能の無駄遣いも良いとこだな。

 などと考えていると……彼女はコホンと咳をして、こう続けた。

「ま、まあそれはそれとして……今日は何か、頼みがあって来てるんでしょ? どんな用件なのかな?」

「そうですね……」

 本題に入る雰囲気になったので……俺はマジックバッグから例の水晶玉を取り出した。

「これを加工して、『神剣強化の虫眼鏡』を作って欲しいんっすけど……」

 すると……彼女は目を白黒させながら、こう聞き返してきた。

「え……な、何なのこの水晶玉!」

「妖大将倒したら手に入ったっす」

「よ、妖大将!? そんなのどこから……っていうか、どうやって倒してきたの……」

 彼女は、自分を落ち着かせるので精一杯といったような様子だった。

「あの……これ、加工できそうっすか?」

 国王が、錬金老師ダイ=アキュートでもこの水晶玉は加工できないかもみたいなことを言っていたのを思い出し、俺はそう質問してみた。

「うーん、これは……ちょっと、ウチでも難しいんじゃないかな……」

 あらゆる角度から水晶玉を眺めつつ、彼女はそう答えた。

 ……うーん、難しいか。

 希少な素材も、ここまで来ると一周回って使えなくなってしまうものなのか。

 俺はそう、諦めかけた気分になったが……最後の希望をと思い、こんなことを尋ねてみた。

「具体的に、何が難しそうなんっすか?」

「そうだね……まず、これほどの物を加工するには、ウチでは魔力が足りないね。それに……これを扱うだけの錬金術式を組み上げる自信も、ウチにはないかなぁ……」

 ……なるほど、問題はその二点か。

 それなら、俺が協力すれば、どうにかなるかもしれないな。


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