第2話 沈むのは水竜のほうだ。大陸じゃない。
【リヴァイアサン(現在残り体力88%)】
本気になれば大陸を沈められる、神話級の水竜。
高火力攻撃で眠りを妨げられ、激怒中 ◼️
……待て待て待て、待てよおい。
どうして俺は、魔法の試し撃ちでこんなのと遭遇しなくちゃいけないんだ?
そりゃ急にあんな規模の炎魔法を放った俺に非があるんだろうけどさ。
俺、ここに飛ばされてまだ十分も経ってないんだぞ?
右も左も分からない奴にこの仕打ち、理不尽すぎないか?
しかし、そんなことを言っている場合じゃないな。
今の俺に残された手段は、とにかくスライムを連鎖消しすることだ。
何で大陸を滅亡させられる奴と張り合おうなどと突拍子もない考えに至っているのかは、自分でも分からない。
それでも、確かにさっきの一撃で、俺はリヴァイアサンの体力を12%削れたんだ。
レベル30の今の俺なら、あるいは──という希望はあるな。
どうせ逃げたところで、鑑定の言う通り大陸ごと沈められたら、結局死ぬし。
覚悟を決めて、ミスしないようにGTRで積み上げよう。
「ヤバい敵がいる! 急いでさっきのゲームを再開してくれ!」
「はーい!」
スライムはそう返事をすると、ほぼ一瞬で本来の形の戻り、ゲーム画面をホログラム投影させた。
心臓がバクバクする中、13連鎖が出せるとこまで積み上げる。
ちゃんと段位計算して……途中で連鎖が暴発する危険も無いな。バッチリだ。
こうして、あとは連鎖開始点にスライムを置くだけとなったその時。
奴は姿を現した。
その姿は、ただただ「巨大」の一言に尽きた。
水面から積乱雲を突き抜けるくらいはありそうな体長の水竜の全貌は、それだけで見る者に威圧感を与えにきていた。
勝てるビジョンが全然浮かばないが、もう俺は「さっきの攻撃で12%の大ダメージを与えた」という実績を信じるしかない。
頼むぞ、13連鎖。そして、30に上がった俺のレベルよ。
そう祈りつつ、俺は13連鎖を発動した。
そして──今度は運が良いことに、それは「全消し」となった。
今回現れたのは、時折稲光りを走らせる闇の球。
それが、リヴァイアサンの頭部目掛けて飛んでいった。
リヴァイアサンはそれを迎撃すべく、水のブレスを闇の球に吐きかける。
だが。闇の球はそのブレスを物ともせず、ブレスを消滅させながらリヴァイアサンに近づいていった。
これは、希望が持てるのでは?
闇の球がリヴァイアサンにぶつかると、リヴァイアサンの全身に数えきれないほどの稲妻が走る。
「ガ……グアアアアァァァァァァ!」
リヴァイアサンは必死に電撃から逃れようとするが、リヴァイアサンに纏わりつく闇がそれを許さなかった。
劈くような咆哮に、俺は思わず耳を塞ぐ。
その状態で俺は、身動きの取れない巨体をただただ見守った。
数分後。
断末魔の叫び声をあげつつ何とか耐えていたリヴァイアサンだったが、とうとう力尽きたのか、消滅してしまった。
……勝ったのか。
一気に緊張が解けたからか、かつてないレベルで空気が美味しく感じられるな。
胸を撫で下ろし、ペタンと地面に座り込んだその時。
俺の目の前に一本の剣が現れた。
こういう不思議な物は、すかさず鑑定だ。
【神剣DHMO】
リヴァイアサンは討伐された場合、神剣DHMOへと姿を変え、討伐者の所有物となる。
世界最強の剣であることに間違いは無いが、一振りしただけで山が吹き飛ぶ規模の強さなので使い道は限られる。
※所有者となることでスキル「神剣飛行」が得られる唯一の神剣 ◼️
……なんかどえらい剣が手に入ってしまったな。
まあ、これがリヴァイアサンを倒したって証拠なので、やっと完全に安心できるってわけではあるが。
そんなことを考えていると、更に脳内に声が鳴り響く。
<ハバ ユカタはレベルアップしました>
再びスライムに頼んで、ステータスウィンドウになってもらうと……俺のステータスは、今度はこうなっていた。
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名前:ハバ ユカタ
Lv.224
スキル:鑑定 神剣飛行
適性:神剣所有
ユニークスキル:スライム召喚
(相方となるスライムを召喚できる。召喚したスライムは、特殊な能力を持つ)
相方スライムのスキル:
①ステータス表示
②幻影色合わせゲーム
(同色のスライムの幻影を4つ繋げて消すことで、大魔法を放てる。連鎖消しすると、魔法も火力も爆発的に増加する)
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……もうレベルには突っ込むまい。
スキルも、「神剣飛行」ってのが増えている。
鑑定に書いてあった通りだが……剣で空を飛べるってことか?
あと、なんか適性が付いてるな。
神剣所有、か。
おおかた、この神剣DHMOの所有者となってしまったばっかりに、辻褄合わせにそんな適性が付いてしまったんだろう。
まあ何にせよ、これで一件落着だな。
とりあえず……色々あって後回しにしてた、このスライムの名前を聞こうか。
「お前……名前、なんて言うんだ?」
「ボクの名前は……『プヨン』だよー」
「そうか。……これからよろしくな、プヨン」
俺はそう言って、肩に乗っているプヨンを撫でた。
さてと……そしたら、人のいる場所に行きたいもんだな。
せっかく「神剣飛行」なんてスキルを授かったわけだし……空から見下ろして街を探すか?
俺は神剣DHMOを握り、スキル・神剣飛行を意識した。
すると、それに応じて身体がフワッと浮き上がる。
「ちょっとスピード出すかもしれないから、しっかり掴まってろよ」
「りょーかーい!」
プヨンは身体を少し変形させ、俺の服の裾をキュッと掴んだ。
そして、さっきリヴァイアサンの頭があったくらいの高度まで来ると……あった。
遠くの方に、街が見えたぞ。
俺はその街を、一直線に目指した。
◇
街に入って、俺はあることに気づいた。
俺、今一文無しだ。
これでは、街に着いたところで衣食住に必要なものを手に入れられない。
俺は途方に暮れ、街を見渡した。
すると……俺が今、入るべき建物が目についた。
それは、「冒険者ギルド」という看板が立てられてある建物。
それだけならなんのこっちゃ分からないところだが……その下に、「戦利品高価買取!」などという旗が立っていたのだ。
焼きイカの方は置いてきてしまったが、とりあえずこの神剣DHMOはある。
飛行に便利なので売るのは惜しい気もするが、背に腹はかえられないな。売ろう。
◇
そして、ギルドのカウンターにて。
「すみません。これ売りたいんですが」
俺は受付嬢にそう言い、神剣DHMOを渡そうとした。が──。
「な、な、な、な、何ですかこの恐ろしい代物は!」
受付嬢に、そう大声で叫ばれてしまった。
そのせいで、ギルド内の冒険者の注目が一気に集まる。
そのうち一人が、こんなことを言い出した。
「あれ……神剣……じゃないか?」
即席の静寂に、その男の声はよく響いた。
当然、受付嬢もそれを聞き逃してはいない。
「神剣なんて、そんな大それたものギルドで売れるわけないじゃないですかぁぁぁ!」
……俺、やっぱり晩飯食えないのかな。





