第1話 スライムを、4つ繋げて消す。すると・・・
「しばくぞぉゴルァ!」
思わずそう叫び、俺は机を思いきり殴った。
まただ。まーたこうなった。
俺がレースゲームをプレイしていると、お約束のように妨害を受けまくるのだ。
有名ゲーム実況者の宿命といえばそれまでだが、それでも無性にイライラするのは変わらない。
もうこのゲーム引退して、自分が本領発揮できるパズルゲームだけやっていようか。
「同じ色のスライムを縦横四つ以上くにくっつけて消す」というルールの落ち物パズルゲームなら、プロライセンスを所持するくらいには得意だからな。
……こんな事を言いつつ、日を跨いだら懲りずにレースゲームのモチベが復活してくるんだけども。
何にせよ、今日はここまででおしまいだ。
そう思い、机を殴った右手をコントローラーに戻そうとした時だった。
俺は、右手に違和感を抱いた。
なぜか、右手が机から離れないのだ。
「……は? どうなってん……!」
不思議に思って手元に視線を落とした俺は、言葉を失った。
今殴ったことにより机に入ったヒビが、RPGで見る魔法陣かのように光り輝いているのだ。
「……は、は、はぁ!?」
俺がパニックに陥っている間に、魔法陣は更に変化した。
魔法陣は机から浮き上がり、俺の全身を包んだのだ。
それに気づいた直後のこと。
俺の視界は、暗転した。
◇
「……ここは?」
再び目を覚ました時。俺がいたのは、潮の香りがする美しい浜辺だった。
……あのヒビ製魔法陣で、俺はこんなところに連れてこられたのか?
信じ難い話だが、それくらいしか考え得る原因は無い。
見渡す限りの青い海に、凹凸一つない水平線。
後ろを振り返ると、南国を思わせるようなヤシの木が数本立っていて、そして手元あたりには半透明のステータスウィンドウが──ちょっと待て。なんで、こんなナチュラルにステータスウィンドウが存在するんだ?
ヒビ魔法陣の野郎、俺をどんな世界線に連れていきやがった。
まあそこは考えてもどうにもならなさそうなので、とりあえずステータスの内容でも見てみるか。
書いてあるのは、こんな内容だった。
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名前:ハバ ユカタ
Lv.1
スキル:なし
ユニークスキル:スライム召喚
(相方となるスライムを召喚できる。召喚したスライムは、特殊な能力を持つ)
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俺の名前は八葉 浴衣なので、これは俺のステータスなんだろうな。
レベルが1でスキルなしというのは何だか心許ない気がするが、まあそこはあまり言うことは無い。
それより、だ。
このふざけたユニークスキルは、一体なんなんだ?
説明だけ読んでみた感じだと、どうやら俺は変わった能力を持つスライムを呼び出せるみたいだが──それができたところで、何になるというんだ?
というかそもそもこのスキル、どうやって発動すればいいんだ。
よく分からないが、俺は一旦、このスキルの発動方法を確かめてみようと思った。
もしかしたら……スライムを呼び出すことで、今の状況をどうにかする手口が見つかるかもしれないからな。
「スライム召喚」
まず俺は、スキル名を詠唱することから試してみた。
しかしこのやり方は正しいスキルの発動方法ではなかったらしく、特に何の現象も起こらなかった。
……これじゃダメか。
今ので発動できれば話は早かったのだが、これが違うとなると発動方法の模索だけで一苦労しそうだな。
とりあえず今は生活の確保が最優先なんだし、このスキルのことは一旦忘れ、近くに人がいないが探す方針にでも切り替えるか……。
そう思いかけた時だった。
「ぼくなら、ここにいるよー!」
どこからか、そんな声が聞こえてきた。
……なんだ? 近くに人がいるのか?
そう思い、三六〇度辺りを見渡してみる。
だが、人らしき影は全く見当たらなかった。
声のした方を注視してみても、そこにあるのはステータスウィンドウのみ。
「ここって……どこだ?」
声が聞こえてきた方向に注意を向けていれば、何か分かるかもしれない。
俺は声の主に返事をしてもらおうと思い、そう質問してみた。
「ここだよ、ここここ!」
すると思った通り、先ほどの声の主は返事をしてくれた。
だがやはり、声が聞こえてきた方向に人がいる様子は無かった。
どう見てもそこには、ステータスウィンドウしか無いのだ。
「ここって……ん? 待てよ?」
もう一度聞き返そうとした時。
俺の脳裏に、とある仮説が思い浮かんだ。
もしかして……今までの声って、ステータスウィンドウが発した音声なんじゃないのか?
そう考え、より注意深くステータスウィンドウを観察してみると。
俺はこのステータスウィンドウに関して、ある事に気がついた。
このステータスウィンドウ……実体があるぞ。
あまりにもゲームっぽい表示だったので、ただの画面かと思っていたが……横から見ると、数ミリの厚さがあるのだ。
これは、声の主がこのステータスウィンドウだって説が濃厚になってきたな。
それに、俺にはもう一つ、頭に引っかかっていたことがあった。
それは……声の主の、「ぼくならここにいる」という発言内容だ。
タイミング的にも、あれはまるで俺の「スライム召喚」という詠唱に返事したかのようだった。
全く覚えは無いのだが、あれは「俺が召喚したスライムがした発言」と考えると、自然な気さえしてしまう。
声のした方向、実体のあるステータスウィンドウ、そして俺が既にスライムを召喚してるかもしれないという状況。
これは、まさか……。
「もとのかたちに、もどるよー!」
そう考えを巡らせていると……ステータスウィンドウはみるみる形を変え、青みがかった透明の生き物になってしまった。
そう、そのまさかだった。
なんと、ステータスウィンドウは……(恐らくいつのまにか条件を満たして発動されてしまっていた)俺のスライム召喚で、召喚されたスライムだったのだ。
「お前……俺に召喚されたのか?」
スライムを手のひらに乗せ、そう聞いてみる。
「そだよー!」
するとスライムはポンポン飛び跳ねながらそう言って、俺の肩の上に移動した。
そういえば……ユニークスキルの説明に、「召喚されたスライムは、特殊な能力を持つ」なんて書かれてたな。
このスライムの場合は、「俺のステータスを表示する」という特殊能力を持っていたということなのだろう。
……と、ここまで考えて。
俺は急に、現状について大きな不安を覚えた。
召喚したスライムの特殊能力って、これだけなのか?
だとしたら……このスライムの能力、今の状況の打開にほとんど役に立たないぞ。
「なあ、お前……能力って、俺のステータスを表示するだけなのか?」
お前って呼び続けるのも何だし、後で名前聞いときたいな。
そんなことを考えつつ、質問してみると……。
「ちがうよー!」
スライムは、他にも特殊能力を持っていると言いたげな返事をしてくれた。
「じゃあ他に、どんな能力があるんだ?」
「えっとね〜」
スライムは返事しかけたかと思うと……空中にホログラムのような画面を投影しだした。
最初はぼんやりしていたが、次第にその画面の描画ははっきりしていき……そこには、真ん中に大きな長方形と、その左右に小さな長方形が二つ表示された。
「『げんえいいろあわせげーむ』っての、つくってみたよー! ちょっと、あそんでみて!」
スライムは、画面の描画を終えるや否や、俺にそう告げてきた。
「幻影……色合わせゲーム? どうやって遊ぶんだ、それ?」
「うーん、ちょっとまってね」
ルールがさっぱり分からないので、遊び方を聞いてみると……スライムは画面に「チュートリアル中」との表示を追加し、プレイ画面と思われるものを実演しだした。
……どれどれ、まずは左に小さな四角の中に二つくっついた色違いのスライムが二組現れたな。
そしてその内一組が、真ん中の大きな長方形のフィールドに移って、フィールドの底まで落ちる、と。
真ん中のフィールドで落下中のスライムは、回転させたり高速落下させたりもできるんだな。
そして……おっ、真ん中のフィールド内で同じ色のスライムが四つ繋がったら、そのスライムが消えたぞ。
そんな風に、実演画面を眺めていると。
俺は「げんえいいろあわせげーむ」について、一個確信を持つことができた。
このゲーム……俺がプロプレイヤーとしてプレイしている落ちものパズルゲームと、ルールがそっくりだ。
「遊び方は分かった。ちょっと、俺にもやらせてくれ」
「はーい!」
俺がお願いすると、画面の「チュートリアル中」という表示およびフィールド内のスライムは姿を消した。
そして……再び左の小さな枠には二組のスライムのペアが表示され、そのうち一組が、真ん中のフィールド内で落下を始めた。
操作は……念じると、直感的に動いてくれるんだな。
ならば、と俺は最初のスライムのペアを高速落下させ、さらに次のペアを積み上げていった。
そして──三組のスライムを積んだところで、俺は四匹の同じ色のスライムをつなげることができた。
四匹の同じ色のスライムが繋がると、そのスライムたちは姿を消し──画面からは、海に向かって高速で炎の球が射出された。
「な……何だ、今のは?」
いきなりの現象に、俺は若干たじろいだ。
「このげーむでボクのげんえいをけすと、だいまほーをはなてるんだよー」
そんな俺をよそに……スライムは、そう自分の特殊能力を解説した。
……「げんえいいろあわせげーむ」、そんなぶっ飛んだ能力だったのか。
大魔法という割にはなんかショボかった気はするが、まあそれは俺がレベル1だからかもしれないな。
まあ何にせよ、今のでこのゲームの特性はある程度分かったぞ。
今度は、俺の十八番のパズルゲームの醍醐味である「連鎖消し」でも試してみるとするか。
ゲームのプレイを再開した俺は、「GTR」と呼ばれる大量連鎖を生み出すスライムの積み方でスライムを積み上げていった。
「……そろそろ13連鎖くらいにはなるか」
ある程度組んだところで、俺は連鎖開始ポイントとなるスライムを四匹繋げ、連鎖消しを開始した。
するとスライムたちは連鎖を起こして次々と消えていき、俺の目論見通り、13連鎖が繋がった。
そして今度は──先ほどの比ではない、太陽が至近距離にあるかのようなド迫力の炎の球が、海に向かって飛んでいった。
……これ、まずくないか?
海は目にも止まらぬ速さで大沸騰しているし、気温も上昇してきている。
このままだと、火球の猛威がコチラにまで影響してきそうである。
何か対策しないと、命が無さそうだ。
「……このユニークスキル、防御もできんのかな」
「できるよー!」
スライムもそう言ってくれるし、やってみるしかない。
時間もなさそうなので、とりあえず4連鎖でスライムを消してみる。
……「防御になれ」とひたすら念じながら。
すると、俺の周囲に結界らしきものが張られた。
成功したみたいだな。
その直後。
予想通り水蒸気の突風が巻き起こったのか、浜辺に比較的近かったヤシの木が根こそぎ吹き飛んでいってしまった。
……おいおい、ありゃねーだろ。
1連鎖だとしょぼい火力だったからと思って、いつもの調子で連鎖を組んだ結果がこれか。
間一髪結界が間に合いはしたが、それがなければ俺も大気圏外まで吹き飛ばされてたかもな。
そんなことを考えつつ結界中から様子を見ていると、四分くらい経ったところで漸く火球は海の底へと沈んでいった。
尚、それが鎮火したのかは不明だ。
……あーあ。浜辺が完全に溶岩地帯になってしまったな。
なんかその即席溶岩地帯のど真ん中に巨大焼きイカみたいな奴もいるが、あいつよく原型を保っていられたなって思う。
とりあえず突風は収まったみたいなので、結界は消そう。
そう思って結界を解除したのとほぼ同時に、どこからか俺の脳内に声が鳴り響いた。
<ハバ ユカタはレベルアップしました>
「レベル……アップ? なあ、ちょっともう一回ステータス見してくれるか?」
「いーよ!」
俺が頼むとスライムは俺の肩から降り、ステータスウィンドウに形を変えて浮かび上がった。
そこには、こう書かれていた。
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名前:ハバ ユカタ
Lv.30
スキル:鑑定
ユニークスキル:スライム召喚
(相方となるスライムを召喚できる。召喚したスライムは、特殊な能力を持つ)
相方スライムのスキル:
①ステータス表示
②幻影色合わせゲーム
(同色のスライムの幻影を4つ繋げて消すことで、大魔法を放てる。連鎖消しすると、魔法も火力も爆発的に増加する)
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……レベル上がりすぎだろ。万とか簡単に行く感じか、これ?
あと「鑑定」ってスキルが増えてるな。
ものは試しに、あの焼きイカでも鑑定してみるか。
やり方は分からないが、なんとなく「鑑定」と念じてみる。
「かんてーだね、りょーかい!」
すると……スライムは俺の思考を読み取ったのか、ウィンドウの表示内容をこう変化させた。
【クラーケン(死体)】
海に潜む伝説の怪物。
その触腕は非常に強力で、過去には島を一撃で叩き潰した事もある ◼️
……なんかエゲツない事が判明したぞ。
島を一撃って、もうどう考えても天災の部類だろ。
そんな奴がこんな近くにいたのも驚きだが、確かにそれならあの炎を食らって原型を留めているのも納得か。
大量レベルアップの原因も、あのイカで決まりっぽい。
……そうだ。
もしかしてこの「鑑定」、魔法を鑑定することもできるんじゃないだろうか?
さっきの巨大火球の行方も気になるところだ。
もう見えなくなってしまっているが、海の彼方に向かって「鑑定」と念じてみよう。
そう思い、再び鑑定を発動する。
だが……そこに映ったのは、俺の予想を遥かに上回る代物だった。
【リヴァイアサン(現在残り体力88%)】
本気になれば大陸を沈められる、神話級の水竜。
高火力攻撃で眠りを妨げられ、激怒中 ◼️
……待て待て待て、待てよおい。





