冒険者の国、ミドガル
中央にギルド本部が有り、そこから放射状に広がっている国。外周は壁で覆われており、その外は草原だ。そこで冒険者がクエストをこなし、その利益で経済が回っているのだ。
ミドガル国の正面門にて、二人は入国審査の列に並んでいる。
二列あり、僕は左側、サオリは右側の審査室に通された。
相変わらずこの部屋は湿気が多い。入国時は毎回ここに通されるのだ。
僕は顔見知りだから直ぐに終わるだろうが、サオリは長くなるかも知れないな。
連れだと言えば短くなるだろうか。
今思ってももう遅いのだが。
しかしミドガル国に来るのも久しぶりだな。
ナナセさんやクリスさんは元気にしているだろうか。
「次の方。」
僕の順番が来たようだ。
ギルドの冒険者証をポケットから出し、差し出す。
それを老亀種の爺さんが受け取る。
「君か、久しぶり。今日もギルドにかね?」
長い髭と老亀種特有の甲羅が特徴の方だ。皮膚は皺だらけ。一度審査した人は全員覚えていると噂だ。もう片方の審査室にも同じ見た目の方がいるのだが、どうやら双子らしい。
「ええ、学院に入る前に小遣いでも稼ごうと思って。」
爺さんは水魔法で光を曲げ、冒険者証を拡大してみる。
「本物のようですな。入国許可証を出しましょう。」
「どうも。」
冒険者証と入国許可証を受け取り、通路を目指す。
入国許可証があれば一ヶ月以内は自由な出入りが可能だ。
期限を超えると直ぐにゴーレムが飛んでくるからルールは守ったほうがいい。
綺麗に磨かれた通路を抜けると街に出られる。
多くの種族が共生する多民族国家だ。
貴族が覇権を握っている今の時代では珍しい。
冒険者ギルドが中央に置かれているのが大きな要因だろう。
「あ、ハルカさん、遅かったですね。」
サオリが出口で待っていた。
「あれ?お前は時間かかると思ってた。」
「なんか名前言ったら直ぐ通してくれましたよ。」
ふーん。僕が初めての時は長かったけどな。
「それじゃあ行こうか。まだ冒険者登録しないといけないからな。」
「はい!」
二人並んで大通りを進む。
道の左右には屋台が並んでいる。
冒険者向けの回復薬を売っている店や野菜を売っている店。
クエストに向かう冒険者が物資を調達するのだ。
「今日は人が少ないな。」
「そうです?十分多いと思うのですが。あ、美味しそう!」
サオリはお店に駆け寄っていった。
確かに食材目当ての主婦はいるが、冒険者が見当たらない。
「ハルカくん!これ!これ買いましょう!」
サオリが差し出しているのは赤い果実だ。
「仕方ないな、一個だけな。おっちゃん、これで足りるかい?」
毛むくじゃらの店主に200ベン硬貨を手渡す。
「30ベンのお釣りだな。毎度あり。」
「やったー!」
果実を受け取ったサオリは子供のようにはしゃいでいた。
やはり冒険者がいないのが気になるな。
この時間はクエストに向かう冒険者が多いはずなのだが。
「うーん、リンゴなのにブドウの味。」
売れ行きが悪そうな薬屋を横目に見ながら進む。
「あ!あれじゃないですか?ギルド!」
「そうそう、よくわかったな。」
一際目立つ木造建築。周りのどの建物よりも大きく、年季が入っている。扉は両開きで胸の部分しか隠せていない。
「なんというか、ボロいですね。」
「そりゃ、この国で一番古いものがこの建物だから。」
中からおっさんどもの笑い声が聞こえてくる。
昼間から宴?なぜクエストに言ってないんだ?
「旧世界の崩壊によって生まれた混沌に秩序をもたらしたわけだからな。」
「何ですか?神話?」
「あれ?言ってなかったか?四つに割れた大陸の話。」
「何それ?面白そう!聞きたい!」
「それなら後で話してやるよ。」
僕は前に向き直って歩き出す。
ギルドの異変を確かめる方が先だ。
「え?今じゃないの?ねえ、話してくださいよ!」
「冒険者登録の方が先だ。クエストの移動時間にでも話してやるよ。」
「そんなぁ、」
僕は両手で扉を開く。
酒で膨れたおっさんどもは一瞬僕らを見たが、直ぐにテーブルに向き直った。
「おかしい。」
「何がですか?」
サオリを無視して歩き出す。
「ねえ、何がですか?」
向かう先にいるのは森精種の女性、クリスさんだ。
「ねえ、何が…」
「あら?ハルカ君じゃない、久しぶり。」
爪をいじっている。とても暇そうだ。
「クリスさん、何かあったんですか?今日はクエストに出ている人が少ないみたいですけど。」
「ううーん、私が受け付けを代わった時にはもうこんな感じだったけど、今日はなぜかクエストが全部攻略済みになってるんだよ。」
「全部!?何で?」
「不思議だよねー。」
クリスさんは相当退屈なのだろう、ネイルを初めてしまった。
「おいハルカ!久しぶりだな!」
近づいて来た右目に傷を負った男は名前をナナセと言う。
「お久しぶりです!ナナセさんも今日は出ていないんですね。」
「ああ、流石にクエストがないんじゃ外に出る気にもならん。昨日の夜中の話はもう聞いたか?」
「いえ、聞いてないです。」
「そうかそうか、凄かったんだぞ!俺は昨日の夜もギルドにいたわけさ。突然だよ!フードを深くかぶった女が同時に5つのクエストを発注したかと思ったら、5分もしないうちに攻略して帰ってきたんだよ。それの繰り返しであっと言う間に全てのクエストを攻略知っちゃったんだ。まるで風だよ!その場にいた奴ら全員興奮しちゃって、」
またフードの怪しいやつかよ。
どう考えても碧眼のアイツと関係あるじゃないか。
「クエストは一つも残ってないんですか?」
「うーん、残ってないねー、高難易度クエストも綺麗にクリアしてったからねー。」
「そうかー、困ったなぁ。」
学院での生活費を少し稼ぐつもりだったんだが、計画が少し狂ってしまうな。
「どうしても今クエストをこなしたいってんなら、西の開拓地へ行くって手もあるぞ。」
「開拓地?」
「そうですねぇ、流石に全ての支部を回ったとは考えにくいですし。本部から開拓地行きの馬車が出てますから、半日あれば行けますよ。手配しますー?」
「お願いします。でもその前に、おい、サオリ、ん?サオリ?」
サオリは本部の一角でおっさんどもと飲んでいる。
「ぷっはー!うまい!」
「いい飲みっぷりだねー、嬢ちゃん。」
「えらい別嬪さんやねぇ、もっと飲もうや!」
「お代わり!」
僕はサオリの首根っこを掴み、強引に引きずる。
「らめ!ハルカ君!まだ飲む!」
「めちゃくちゃ酔ってんじゃないか!」
「ハルカ君のイジワルー!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ゔゔぁ。」
「大丈夫か?」
「大丈夫です。ちょっとクラクラするけど。」
椅子に座ったサオリに水を渡す。
「さあ、そろそろ冒険者登録しないと時間的にまずいけど、立てるか?」
「はい、行けます。」
サオリの肩を支え、登録カウンターへ連れて行く。
正面に水晶玉があり、その下に小さな鉄板が置かれている。
「少しちくっとするぞ。」
サオリの指を備え付けの針で刺す。
「いたっ、」
一滴の血が水晶に染み込む。
直後、水晶が光を放ち、滲み出た一滴の血が鉄板の上に落ちる。
血に含まれている神気をもとに、文字が刻まれて行く。
==============
冒険者ランク・銅
マミヤサオリ 17才 女
森精種
天職・魔導師
体力・25
筋力・12
気量・132
敏捷・9
〜〜
魔法適性(全属性)・打撃耐性・
剣術
==============
「天職持ちか、しかも当たり天職。」
「何ですか?これ。」
「冒険者証。今のサオリのステータスが載ってるから、通称ステータスプレート。これをもっていれば自由にクエストを発注できるんだ。あとは入国審査が楽になったり。」
冒険者登録も済んだことだし、そろそろ開拓地へ向かいたいのだが、馬車はいつ着くのだろうか。
「ハルカ君もステータスプレート持ってるんですか?」
「持ってるよ。」
==============
冒険者ランク・銀
ユーザハルカ 15才 男
獣人種
天職・暗殺者
体力・100
筋力・250
気量・175
敏捷・13200
〜〜
影潜り・気配遮断・気配感知・
暗視・身体強化・空間認知
==============
「敏捷高!」
「猫科舐めんな。」
ここら辺の冒険者の中では一番速い自信がある。そのせいでフード男に負けた時は戸惑ったわけだ。
「私も頑張ればそんなステータスになれますか?」
「どうだろうな、お前は気量の数値が高いみたいだから、それを伸ばした方がいいんじゃないか?天職魔導師だし。」
正直最初でこの数値は異常だぞ。人類種は最弱種族だったんじゃねえのかよ。
「さてと、時間だから馬車乗り場に行くぞ。」
「はい!」




