出発
二人がいるのはゲートがある階の少し下、錆びついた扉の前だ。
スライドするだけでも一苦労、使い勝手の悪い扉だ。
「おーもーいー!」
流石に二人いれば大丈夫だと思ったのだが、扉は全く動かない。
仕方ない。神気を使うか。
左手の指先だけ強化し、力を込める。すると、扉はギギギギと音を立ててスライドした。
「やっと開きました。」
中は相変わらず真っ暗だ。
「まっくろくろすけ出ておいでー!」
サオリが隣で叫んでいるが、ここはスルーしよう。
壁に掘られている古代文字を指でなぞり、明かりをつける。
ここは前に見つけた武器庫だ。
見たことない物も多いが、駄作も多い。
「ふむふむ、日本刀ですか。言語が日本語だから別にあってもおかしくないですよね。」
サオリが今見ている剣も、見たことない物の一つだ。
刃が片方にしか付いていない。
剣と剣のぶつかり合いには弱いが、その分軽い。
僕はそういった戦い方をしないから、こっちの方が合っていたりする。
実は僕の愛剣もこれを参考にして親友に作ってもらったのだ。
「銃!銃ですよ!」
そして、これも見たことない物だ。
筒の中で小爆発を起こして球を飛ばすという物。
連射できる物から、遠距離向きの物まで、様々な物がある。
「それはやめた方が良いよ。」
「どうして?銃ですよ?」
「威力が足りない。魔物の皮膚は貫けないし、神気で強化されていたら皮膚が柔らかい種族でも無力だ。筒と球を神気で強化しても、素材が弱いから耐えられない。使い物にならないよ。」
この間フォルテが一つ持って行ったが、何に使うのだろうか。
サオリは悩んだ結果、片刃の剣に決めた。
ヤルタ鉱石で作られているから丈夫だ。
その後、僕は用事のために大陸へ行き、サオリは魔法の練習をして、日が沈んだ。
ーーーーーーーーーー
サオリは今シャワーを浴びている。
魔法の練習で汗をかいたらしい。
僕も疲れたし、浴びてくるかな。
シャワー室は寝室から少し降りたところにある。
部屋の前のリフトに乗り、少し下る。
入り口には明かりがついていて、ほのかに湯気が登っている。
タオルと着替えを棚から取り、中へ進む。
「へ!?誰ですか!?誰かいるんですか!?」
「安心しろ、俺だ。」
「いやいやいやいや、安心出来るわけないでしょ。」
取り乱した様子のサオリの声が聞こえる。
「ここシャワールームですよ!?裸なんですよ!?覗きで訴えますよ!?」
「仕切りがあるから問題ないだろ?」
サオリがブツブツ言っているが、気にせず一番手前の個室に入る。
シャワー1つでなぜこんなに焦る事が出来るのだろうか。
人間種は謎だ。
「…あの、ハルカ君、とても申し上げにくいのですが、私の服、汗でびちゃびちゃで、着替えを貸して欲しいのですが…」
「出口の所に棚があるから、勝手に出して使っていいよ。」
「すみません…」
「脱いだ服は洗濯するからそこに置いといてくれ。僕が来なかったらどうするつもりだったんだ?」
「テンション上がってて、すっかり忘れてました…」
サオリが通り過ぎるのを横目で見る。
タオルで前は隠しているが、後ろはガラ空きだ。
湯気を纏っていてはっきり見えなかったのだが。
湯気には意思があるのだろうか、不自然すぎるほど綺麗に隠していた。
でも、
「大きかったなぁ。」
取り残された僕は、一人でシルエットを思い出すのであった。
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「見ました?」
部屋に戻った僕をサオリが待っていた。
大きめのTシャツを着ている。
「いいや、湯気が仕事してた。」
「見ようとはしたのですね。不覚です…」
サオリがイスの上で足を抱え込みながら言う。
「だいたいどうして私が使っているのに入ってくるのですか?そんなに見たいのですか?」
「だって、男女兼用だろ?あそこ。」
「だからって、あんまりですよ…」
サオリが段々涙目になってくる。
これは話題を変えた方が良いだろうか。
「お前の寝る部屋なんだが、ここから近ければどの部屋使ってくれて構わない。どうせ僕ら以外には誰もいないし。」
「分かりました。明日も早いですし、そろそろ寝るとします。」
サオリはイスから立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
「綺麗なシーツはそこから持って行けよ。」
「了解です!寝坊したら許しませんからね!」
サオリは出て行った。
どうやら向かいの建物の同じ階に決めたらしい。
さてと、僕も寝るか。
部屋の明かりを消し、深い眠りについた。
―――――――――
「ハルカくーん、起きてくださーい。」
サオリが僕を起こしにやってきた。
「朝ですよー。」
「あと10分。」
もう少し寝ていてもいいだろう。
10分くらい遅れたところでそこまで影響は…
「ひゃ!?」
自分の尻尾に違和感を覚え、体が反射的に跳ねる。
「尻尾を握られてびっくりするシーンをよく見かけますが、あれは本当だったようですね。」
「お前のせいか…」
「起きない方が悪いんです。さっきからずっとあと10分って言っているんですよ?あと10分は一回までです。」
僕は渋々ベットからおりる。
「メシ作るから少し待っていてくれ。」
「もう出来てますよ。」
「へ?」
「ハルカ君が寝ている間に作っちゃいました。」
僕が寝ている間に…
「後は着替えれば準備は完了なのですが、私の服はどこにありますか?」
「この屋上だよ。昨夜は風が強かったから多分乾いてる。安心しろ、砂はここまで上がってこないから。」
「了解です!」
意識が覚醒しきらないハルカを残し、サオリは出て行った。
何故だろうか、昨日会ったばかりなのに安心しきっている。
あと、サオリのご飯は美味しかった。
――――――――――――
「その服って、あまり見ないよな。それも地球の物なのか?」
「そうです。制服というんですけど、高校生の時だけ着ることを許されている特別な服なんです。」
ゲートを抜け、ペイン村に向かいながらそんなことを話している。
「他に地球の物は何も持って来れなかったですし、これだけは大切にしなきゃですね。スマホとか持ってたら私は神になれたかも。」
「よく分からん。」
ペイン村が見えてきた。
「ちょっとここで待っててくれ。」
「あ、はい。」
「すぐ戻る。」
サオリをその場に残し、僕は一人で村に走っていった。
目的地はあの蒸気が上がっている場所だ。
そこにいるのは上裸の男。
「よう、リュータ。」
「おう、ハルカじゃねぇか。早かったな。」
彼は今、鍛冶場で魔石を叩いている。
朝から仕事熱心だ。
「フォルテはまだ来ていないのか?」
「あいつは来られないらしい。例の物は昨日の夜中に持ってきたよ。」
リュータから小包みを受け取る。
「それで、人間種の生き残りがいるってのは本当なのか?」
「お前、絶対誰にも言うんじゃねぇぞ。」
「なあ!俺にも見せてくれよ!」
「ダメ。警戒されて俺の元から離れられたら困る。」
「ちぇっ」
リュータは再び魔石を叩き始めた。
僕はサオリの所へ戻る。
「おまたせ。」
サオリの前で小包みを開ける。
中からは指輪が出てくる。
「これ付けてくれ。」
「わー、綺麗!これ貰って良いんですか?」
「あぁ。」
サオリはそれを左の人差し指につけた。
「そしたらそこに付いている魔石をタップしてくれ。」
「こうですか?」
すると、魔石が輝きだし、文字が浮かび上がる。
「獣人種、森精種、土妖種…何ですか?これ。」
「他種族に姿を変える道具だ。大急ぎで作ってもらったから三種族しか対応していないけど、それでも国宝級に複雑な魔法陣を使っているよ。」
「い、いいんですか!?そんな物私が貰っちゃって。」
「友達に魔法陣の研究している奴が居てな、すごく複雑な物を作れるんだが、くだらない物しか作らないんだよ。それも他の人から見たら需要ないから大丈夫。」
「それなら、遠慮なくいただきます。」
サオリは獣人種の文字をタップする。
すると、猫人族、犬人族、兎人族…と、さらに多くの文字が浮かび上がる。
サオリは猫人族の文字をタップする。
「これで良いんですか?」
指輪の魔法陣が輝きだし、サオリの体が変形する。
頭から耳が生え、尻からは尻尾が生える。
「すご!本当に変わった!三毛猫だ!」
サオリは白、黒、茶の猫人族に変身した。
「私猫になって草原を走り回るのが夢だったんですよ!」
「そんなに良いものじゃ無いぞ。」
「そんなこと言わないでください。」
サオリは相当テンションが上がっているようだ。
「でも、どうしてこれを私に?」
「言ってなかったけど、この世界の人間種は旧世界の崩壊日に絶滅しているんだ。」
「それは驚きです。人間の格好で出歩くと騒ぎになるって事ですね?」
「そゆこと。」
サオリは再び指輪を操作する。
どの姿にするか悩んだ結果、森精種に決めた。
森精種にしては珍しい黒髪だ。
「さあ、行くぞ。目的地は山の麓、ミドガル国だ。」




