運命の出会い
あたりがいつもより冷たい。
「…もし…」
まぶたの奥にチラチラと光る物が見える。
ここは外なのか?
「もし…」
たしか昨日の夜中にペイン村を出て…
「もーーしもーーーし!!」
「!?」
「あ、やっと起きましたね。異世界に来て早々道端に倒れるネコ耳の少年、面白そうなイベントの匂いがプンプンします。」
そう言って彼女は僕の顔を覗き込んでいた。
森精種のような耳も無く、頭髪以外の毛は生えていない。目立った特徴がなく、
「って、あんた人間種!?」
「いかにも!私は地球からやってきた地球人!あなた方から見たら異世界人ってことになりますね!」
異世界?何を言ってるんだお前、と言いたいところだが、絶滅したはずの人間種を前にすると、本当な気もしてくる。
「ところで、少年はなぜこんな所で寝ていたんですか?」
そうだ、昨夜、ゲートに向かう途中で白ローブの男に襲われて、手に穴を開けられて、
右手の甲を見ると、そこには魔法陣が刻まれていた。簡単なものではなく、国宝級に複雑な。
今は作動していないようだ。
それを人間種の彼女が覗き込む。
「これって魔法陣ですよね?なるほど、ここは魔法が存在する世界ですか。日本語も通じるし、良条件な異世界ですね。」
「地球という世界から来たと言ったな。ここ以外に世界がある事は驚きだが、君は世界間の壁を自分で破ってここへ来たのか?」
彼女はひらりと後ろを向き、ゆっくりと歩き出した。
「いえ、あの時私はいつものようにPCゲームをしていました。その日は調子が悪く、負け続けてイライラしていたのですよ。そして対戦相手に煽られ、カーッとなった私は思いっきり画面に頭突きをしたわけです。そしたら視界が白い光で埋め尽くされました。おそらく頭へのダメージによる気絶です。そして気付いたらこの森にいたわけです。」
遊戯中に気絶し、目が覚めたらここにいたと。つまり知らないうちに元の世界からいなくなっていたと。それってアラムの神隠しに似ていないか?
少女はくるりとこちらを向く。
「ところで、少年に聞きたいことがあります。この世界に魔王はいますか?」
「魔人種族長サタン様のことか?」
実際に会ったことは無いが、大変優しい方だと聞いている。タイゼン大陸とワールニッツ大陸の平和条約の話もサタン様が持ち出したんだとか。
「ふふふ、私が魔王サタンを討伐して差し上げましょう!そして私は英雄に!」
「バカじゃねぇの?」
目を輝かせて何を言うのかと思ったら。
「あの方が大陸間の平和を守ってるんだ。そんなことしたら死罪じゃすまないぞ。」
「えええぇーーーー!」
なぜ膝をついて絶望する必要があるのだろう。
「じゃあじゃあ、今戦争は起こってないですか?それを収めて私は!」
「この世界は平和そのものだ。」
「ガーン。」
完全に地に倒れ込んでしまった。
「せっかく強そうな人を見つけたから、ここで勇者パーティを結成しようと思ったのに。もう丸一日何も食べてないです。これじゃ飢え死にしてしまいますよ…」
この女の話とアラムの神隠しはやはり同じ現象なのだろうか。だとしたらリリィ達は地球という世界にいるのか?いや、世界間の壁に穴あけることがまず出来ない。ワープ魔法が使えれば話は別だろうが、それは神話上の魔法で、現在は存在していない。仮に出来たとしても相当な量の神気を使うはずだ。大陸中の王族を全て転送するとなると、やはり現実的ではない。それともゲートを作り出したとでも言うのか。旧時代の崩壊日を生き延びた王族たちが一年かけてやっと三大陸間を繋いだんだぞ。この女一人でできるわけない。
「ともあれ、まだ死なせるわけにはいかないな。おいお前、俺と一緒に来るか?地球とやらについて詳しく話してくれるなら、メシくらい食わせてやらなくもない。」
「行きます!あんなつまらない世界の話なんて惜しまず全部話してやりますよ!」
彼女は凄まじい速さで起き上がり、駆け寄ってくる。
「決まりだな。さて、行くか。」
二人並んで歩き出す。
「おっと、まだ名前言ってなかったな。僕の名前はハルカ。よろしく。」
「私はサオリといいます。マミヤサオリ。よろしくです!」
ーーーーーーーーーーーーーー
僕らがいるのは山奥の巨大樹の前。
「うわー、大きな木ですねー。」
この木の根元にゲートが隠されているのだが、見つけられたのは奇跡だ。
「ハルカはこの木に住んでいるのですか?」
「いや、少し違う。ついてきて。」
巨根をよじ登り、その付け根を目指す。
そこに道を開く魔法陣がある。
「木に登ったのなんて久しぶりですよ。案外楽しいですね!」
「ここだ。」
根に石版が埋め込まれている。
石版には魔法陣と、その隣に古代文字が刻まれている。
その古代文字を指でなぞると順に文字が光り出し、魔法陣が作動した。
石版を中心に根が奥へ沈んでいく。
「すごい!隠し扉だ!」
石版の部分が通路になり、階段が現れる。
足元に魔石が埋め込まれており、それが照明となっている。
「なんか、わくわくしますね。」
階段は短く、すぐに開けた空間に出る。
階段と違い、魔石が無いから薄暗いが、二人が足を踏み入れることで魔法陣が作動し、トーチに火がつく。
「何ですか?これ」
「ゲートだ。これに入れば僕の拠点がある。」
「なるほど、ワープゲートですね。」
白い霧の渦があるこの部屋は、石レンガで囲んだだけの物だ。
木の根が入り込んでることから、この部屋の古さが想像できる。
「それじゃあ、入るぞ。」
「はい!」
僕らは二人並んでゲートに足を踏み入れた。
身体が渦の中へ沈んで行く。
「あわわわわっ。」
サオリが狼狽えているが、僕も最初はそうだった。
頭まで沈んだら白い霧が視界を埋め尽くし、それがはけていくと遺跡の風景が目に入る。
相変わらず埃っぽい所だ。
ここら辺は日光も届かないから空気が悪い。
「おい、何やってんだ?行くぞ。」
「あ、はい!」
キョロキョロしているサオリを催促し、僕らはリフトに乗る。
二人を乗せたリフトは上へ登っていく。
「すごいです!浮いてますよ!」
「重力魔法使っているんだよ。」
その後もサオリは忙しく目を動かしていた。
僕も一緒に遺跡を観察することにした。
建物は主に砂岩で造られていて、所々ヒビが入っているが、ヤルタ鉱石を軸に使っているため、崩れることはない。
ビルをビルの上に積んであったようなツギハギである。
日陰を抜け、明るくなってくる。
「さあ、着いたぞ。」
僕はリフトから飛ぶ。
「こっちに飛んで。」
サオリは下が怖いのか、リフトの上であたふたしている。
僕はもう一度リフトに乗り、サオリの肩を支える。
「一緒に行くよ。」
サオリは頷く。
相当怖いのか、顔を真っ赤に染めている。
「せーのっ!」
サオリはリフトから降りることができた。
「あ、ありがとうございます。」
僕らは部屋に入る。
「腹減ってるだろ?何か作るから待っていてくれ。」
「あ、はい。」
魔法陣を起動させ、鉄板を1700度まで温める。
そこにスライスしたマッシュポークの肉をのせる。
背中にキノコが生えている豚なのだが、中にキノコの味がしみていて美味しいのだ。
「ハルカハルカ!この写真に写っている子供って、エルフとドワーフですよね!」
サオリは机の上の写真立てを見ていた。
昔、リュータ、フォルテ、リリアーナと撮った写真だ。
たしか、あの日はフォルテとリリアーナを屋敷から連れ出してペイン村に遊びに行ったんだっけ。
「あぁ、俺が小さい頃の写真だ。」
肉の上に卵をのせ、少し焼いたら完成だ。
「出来たぞ。」
「美味しそうですねぇ。料理ができる男の子はモテますよ。」
サオリを席に着かせ、山で採れた果実を手渡す。
「お前が住んでいた世界について教えてくれ。」
肉を口に含み、サオリに言う。
「そうでしたそうでした。それじゃあ話しますね。まずは地球の構造から。この世界はどうか分かりませんが、あっちの世界の地面は巨大な球体なんです。それで、私達はその球体の表面を歩いているわけですね。そして、この世界でも夜になったら星が見えますよね?その星々と同じように、地球は宇宙をさまよっているわけです。地球は太陽との距離がちょうどいいから、生き物が生活できるわけですよ。で、今生き物の中で覇権を握っているのが、私達人類なんです。地球全体で70億人くらいいるらしいですよ。国も沢山あって、土地が足りなくなって窮屈なわけです。まぁ、なんて言うか、人が増えすぎたせいで社会社会うるさくなって、決まられた日常をただ過ごすだけのクソつまらない世界です。魔法も無いですし、エルフもケモ耳もドワーフもいないですし。多分もうじき核で自滅しますけど。まぁ、こんな感じですかね。」
地球に獣人種や森精種がいないとなると、やはり地球へ行った可能性は低いか?
70億人も人類種がいるなら、隠れていたっていずれ見つかりそうだ。
騒ぎにもなるだろう。
絶滅したはずの人類種が70億人もいることがまず驚きだが。
「そんなことより!私に魔法を教えて下さい!せっかく魔法がある世界に来たのだから、魔法を使えるようにならないと何も始まりません。」
「そうだな、これ食い終わったら教えてやるよ。」
「やったー!」
サオリは皿を傾け、勢いよくかきこんだ。




