今夜は宴
今夜のペイン村は祭騒ぎだ。リュータ達の無事を祝ってのことらしい。
致命傷をおった二人もフォルテが上級回復魔法をかけることで意識を戻した。
しかし改めて村民を見渡してみると、この村がいかに危ない状況かが分かる。
土妖種は年寄りばかりで、まともに働けそうな者は片手で数えても足りてしまう。
森精種は下級魔法もまともに使えない。フォルテが教えている事もあり、最近は簡単な魔法だったら使える者もちらほら出てきたが、上級ともなるとからっきしだ。
そんなことを考えながら僕はリュータの話を聞いていた。
話の内容はこうだ。
リュータ達三人は二日前の朝に村を出て山に入った。あてもなく山を登り、川にぶつかってからは川に沿って登った。どこにも魔物が見当たらず一時間ほど歩いていると、目の前に白いローブを着た男が現れた。彼は雷魔法の使い手だったらしい。三人を見るなり、小声で『君じゃない。』と意味不明なことを言い、三人に向けて魔法を放った。初発で二人はやられたが、リュータはとっさに錬成で地面を隆起させて攻撃を防いだ。その後もリュータは錬成で攻撃を防ぎ、二人を担いで山を一気に降った。攻撃が止んだ後、風もないのに急に雨が降り出したという。雨宿りと二人の治療の為に駆け込んだジュラの洞窟で魔物の大群を見つけた。
「嵐の後直ぐに戻っても良かったんだがな、またあいつに出くわしても厄介だから。二人を抱えたままだと部が悪い。」
「一人だったら勝てたか?」
「たぶんな。あいつ弱ってたみたいだから。」
その後リュータと村長は陸王獣の話をし、宴は終わりを迎えた。
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村の皆は酒に酔いつぶれている。
心地よい風の吹く夜だ。日付はとっくに変わっている。
「こんな時間になっちゃったけど、大丈夫なのか?おまえ、一応お嬢様なんだろ?」
「一応じゃない、貴族出身よ。高貴な存在なんだから。」
夜空を見上げて言う。
「でも大丈夫。皆が心配するのは姉様だけだから。朝までに寝室に戻れば誰も気付かないわ。」
実はフォルテと僕は境遇が似ている。僕にも良くできた姉がいる。僕が学院に入るのと同時に、姉は三回生になる。実は姉が後継になることまで決まっている。できる姉をもつと辛いよ。そのお陰でこの家出が許されているわけでもあるのだが。
「あんたはいつ帰るの?学院へは行くんでしょう?」
「来月あたりには帰る予定だよ。」
早く帰っても暇なだけだからな。
「家まで送ろうか?」
「ありがとう。でも大丈夫よ。護身術くらい使えるわ。リリィが消えた理由が気になるのは私も同じだけど、やらなきゃいけない事はしっかりやりなさいよ。」
フォルテは手をひらひらと振って帰っていった。
「さてと、僕も帰るか。」
踵を返したところで突風が吹いた。
山の気候はおかしなものだ。帰ったら遺跡の書物を読みあさろう。猫は夜行性なのだ。まだまだ眠くない。
山道を進み、ゲートを目指す。
魔物達はまだ戻っていないらしく、フクロウの声すら聞こえない。夜の山と言ったらフクロウだろう。これでは全く雰囲気が…
「!?」
咄嗟に気配を消して茂みへ溶け込む。
さっきまで歩いていた道の先には、奴がいた。白いローブを着たあいつだ。ボロボロで血に染まっているが。
フードから覗く碧い瞳はまっすぐ茂みの奥、すなわち僕を見ていた。
気付かれているな、これは。待ち伏せでもされていたか?
観念して茂みを出て戦闘態勢をとる。
男はじっと僕を見つめている。
「やっと見つけた。」
「は?」
直後、男が消える。
首筋に強い衝撃も感じる。
「あが!!?」
後ろへ回り込まれた!この一瞬で!?この俺が速さで負けた!?
飛びそうな意識をなんとか保つ。
「呪縛。」
地面から木の根が生え、四肢を固定される。
「大丈夫だ。すぐに終わる。」
そう言って男は僕の右手を握って、
「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
右手の甲に穴を開けた。
焼けるように痛い。
実際焼けている。
ナイフで穴を開けたあと、溶接されるように穴を塞いでいく。
右手に激痛が走る中、ハルカは自分の意識を手放した。
「全てを…お前に託す…」




