ユーザ家
サオリと出会ってから一ヶ月がたった。その間開拓地で魔物を狩り続け、どうにかサオリの入学金は用意できた。あいつは別行動で一足先に王都へ向かい、入学試験を受けている。一ヶ月魔物と戦い続けたおかげで魔法の扱いが上手くなった。余裕で合格できるだろう。
僕は馬車に揺られ、実家に向かっているところだ。5年ぶりに家族に会う。みんなどんな顔をするだろうか、おおよそ想像は付く。帰りたくないな。
「お客さん、そろそろ着きますよ。」
中継国家ユーザ、北東の海洋国家と王都の中間に位置している国だ。海洋国家で獲れた魚類を王都へ持っていく商人がお金を使うことで儲けている。広さはそこそこだ。住人のほとんどは猫人族。
窓からはもう国は見えている。低めの建物が南北に続いている。王都と海洋国家をつなぐ道路に沿って広がっているのだ。
「着きましたよ。」
「ありがとう。料金はここに置いておくよ。」
馬車から降り、大きく伸びをする。相変わらずここはどす黒い匂いがする。僕の嫌いな匂いだ。
通路を進み、大通りへ出る。小さな店が立ち並んでいる。海洋国家と王都の産物が売られているのだ。人が多く、通りにくい。
ユーザ家の屋敷は大通りから外れたところにある。人混みをかき分け、向かいの通路へ入る。この先に屋敷がある。
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「おかえりなさいませ。」
正面玄関でポインテッド柄の猫人族のメイドに声をかけられる。年は同じくらい。
「ただいま。久しぶり。」
「お久しぶりです。頭首様は食堂にいらっしゃいますよ。」
「わかった。すぐに向かうよ。」
上着をメイドに預け、長い廊下を進む。金だけは持っているから無駄に広くしているのだ。機能性の方が重要なのに。
扉横の兵士に一礼して身長の倍はありそうな扉の前に立ち、一呼吸おく。この奥に父親がいる。
大きく深呼吸し、細長い取っ手に手をかける。
「お久しぶりです。父上。」
勢いよく扉を押し開けた。
「我が息子よ!帰ったか!」
トラ柄で横に大きい父はティーカップをテーブルに置く。食後のティータイムだろうか。側近を連れていた。
「どうだ、家出は楽しかったか?」
「ええ、とても有意義な時間を過ごせました。」
「学院行きの馬車は明日の昼前に出る。準備しておけよ。」
「はい。失礼します。」
軽く一礼し、後ろを向いて部屋を出る。次は母親だ。
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また大きな扉の前に立つ。
「お久しぶりです。母上。」
「あら、帰ったのね。見ないうちに大きくなって。」
5年前と比べると身長はかなり伸びている。容姿はかなり変わっているだろう。対象に母親は何も変わっていなかった。三毛柄低身長。
「明日の準備がありますので、失礼します。」
「せっかく帰ってきたのに、もう行ってしまうのですね。」
母親に背を向け、すぐに部屋を出る。これで挨拶は終了。あとは部屋で適当に時間を潰そう。
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部屋で寝ていたが、突然の来客に起こされてしまった。
「あんた、久しぶりに会ったのに話にもきてくれないの?」
ポインテッド柄の猫人族、玄関で合ったメイドだ。定時で仕事を終えているから今はメイドではなく、友達だ。名前はケイトという。
「ごめん、三ヶ月くらい前に会っているから別にいいかなと思って。」
両親には内緒だが、僕は定期的にここへ帰ってきているのだ。ケイトに会いに。
「あれから何か面白い事あった?」
「ああ、人類種と仲良くなった。」
「何それ、冗談?」
「冗談。」
ケイトは僕が座っているベッドに並んで座る。
「その手はどうしたの?怪我?」
魔法陣を隠すように包帯を巻いているのだ。
「まあそんなもんだ。」
「うそでしょ。あんたがそう言う時は大体何か隠している。」
鋭いやつだ。
包帯をほどき、魔法陣を見せる。
「何これ?」
「魔法陣。」
「見れば分かる。」
この魔法陣のことについて、全て話した。碧目の男のことも、雷魔法を使えるようになったことも。
「なんか、大変だね。」
「大変だよ、疲れた。疲れたから風呂入ってくる。」
「背中流そうか?」
「大丈夫。今日は1人で入りたい。」
「分かった。じゃあまた後で。」
着替えを持ち、部屋を出た。
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脱衣所で服を脱ぎ、洗い場で体を洗い、湯船に浸かる。
「ふあぁ。」
湯船は気持ちがいい。遺跡にもギルドにもシャワーしかないから、ここを出てからほとんど湯船に浸かっていない。
小さい頃はよくケイトと一緒に入っていた。ケイトは湯が嫌いで、シャワーだけで済ませてしまうのだ。懐かしいな。
湯船に浸かるという文化は最近になって広まってきた。この都市は流行りに乗らないと気が収まらないらしい。マイナーなのに、もう取り入れている。
この湯船は地下にあり、地中から湯を吸い上げている。神気を大量に消費して。なのに屋敷の者が湯船に浸かっているところを見たことがない。
「マスター、この暖かい水溜りはなんですか?」
「水溜りって…これは風呂って言うんだ。疲れをとる効果があるらしいぞ。」
「疲れを…治癒魔法の反応はありませんが?」
「魔法じゃないよ。湯に含まれている成分が体に良いらしい。」
「なるほど、しかしマスターは不思議ですね。猫人族は本来水が嫌いなはずなのに。」
「僕はキチガイだからね。そろそろ出ようか。」
部屋に戻ったら、ケイトが僕を待っていた。2人で朝まで話し、出発の日を迎えた。
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「おはようございます。」
「おはよう。」
メイド姿のケイトに迎えられ、食堂で朝食を食べる。魚類、柑橘類を中心とした豪華な食事だ。朝から少々重い。魚をつついていると、父親がやってきた。
「どうだ?久しぶりの実家は。よく眠れたか?」
「ええ、ぐっすりと眠れましたよ。」
「馬車の準備はできているから、支度は早めに終わらせろよ。」
「わかりました。」
「王都の方々に迷惑かけないようにな。」
「はい。」
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食事をとり、今はケイトに着付けされている。
「サイズ合っているし、これでいいんじゃない?」
「適当だな。勤務中だろ?あいつらにバレたら何をされるかわからないぞ。」
「大丈夫よ。この仕事、今日でやめるから。」
「お前の家系はずっとこの家に仕えていたんだろう?そんなことできるのか?」
「今日のあんたの護衛、誰か分かる?」
「ケイト。」
「そうよ。帰りに馬車が山賊に襲われ、御者とメイドは行方不明になる。ちなみに御者は私の共犯。」
「お前もこの国には愛想尽きたんだな。」
「そうよ。こんな仕事辞めてやるわ。」
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出発の時。馬車を取り囲むように、屋敷の者たちが見送りに来ていた。こういう時は毎回、こんな人数住みついているのかと驚く。僕とケイトが乗った馬車は多くの人に見送られ、王都への旅路についた。




