召使いノール
クエストを終え、換金を済ませた僕らは酒場で食事をとっていた。初クエストクリア記念とサオリの杖の完成待ちも兼ねている。
「美味しいです!この魚!」
サオリが食べているのはユニフィッシュのアクアパッツァだ。森の中で採れたものをそのまま出しているらしい。
「ところでハルカ君、さっきの戦闘は本気ですか?それともまだ力を残していますか?」
「手は抜いていたよ。でも最後の一撃は本気。いや、それ以上。」
「手を抜いてあのスピードですか。先はまだまだ遠いですね。」
サオリは僕と同じくらいまで俊敏を上げるつもりなのか。
「お前は全属性に適性があるんだから、気量とか伸ばせよ。魔導師が俊敏高くてもそんなに意味ないと思うぞ。」
「気量は伸ばしますよ。俊敏が必要かどうかはやってみないと分からないじゃないですか。」
「それもそうだけど。」
「前例が無いだけで、実は相性が良かったりするかも知れないですよ。」
サオリは面白い事考えるな。魔導師といえば後衛というイメージだが、前衛では弱いという確証は確かに無い。体術を使えればもしかしたら強いかも知れない。
「ご馳走さまでした!」
サオリはお行儀よく両手を合わせた。
「鍛冶屋さんの作業を見てみたいので、私は行きますね!」
「あぁ、また明日。」
「はい!また明日です!」
サオリと僕は別々の部屋をとっている。同じ部屋は嫌だとサオリが言うのだ。
クエストカウンター横の通路を進み、宿場へ行く。部屋の広さは6畳くらい。一人なら十分な広さだ。
部屋に入るなり直ぐにベットへ倒れ込み、右手を見つめた。
さっきの力が嘘だと思えるくらいに静かだ。右手に神気を送り込むと作動する仕組みなのだろうか?
右手に微量の神気を送り込む。
「そんな事しても作動しませんよ。」
「!?誰だ?」
「初めまして!マスター、私は召使いのノールです。」
そいつは窓の縁に座っていた。身長約30センチ、横に突き出た耳と細長い指を持った、タキシード姿の奇妙な生物。
「マスター?僕のこと?」
「はい、そうでございます。これからハルカ様のお手伝いをさせて頂きます。」
ノールは深々とお辞儀をする。
なぜ僕がマスターなのだろうか。
「君と契約した覚えはないけど、人違いじゃない?」
「いいえ、私のマスターはハルカ様でございます。我が創造主様から命令を受けました。誠に勝手ながら、使えさせて頂きます。」
「創造主様?それは誰だ?」
「それはお教えできません。創造主様とのお約束です。」
「その創造主の目的は何だ?何で僕に使えさせる?」
「存じ上げません。私は命令された事をこなすだけでございます。何やら計画があるようですが、詳細は知りません。」
こいつ何も話してくれないな。
「なるほど、その創造主とやらは僕を駒の1つにしようとしているわけだな。」
「駒だなんて、創造主様はそんな悪いお方ではありません!」
あ、怒った。
ノールはタコのように顔を赤くする。
「ごめん。」
「拒否権がないだけです!」
「変わんないよ。」
天然なのか?ほぼ同じ意味だよ。
「申し訳ありません。私この世界に生み出されたばかりでして、言葉の意味を理解しきれていないのです。」
生まれたばかりなのか。少し常識が無いのも納得はいくな。
「1つ聞きたいんだが、ノールみたいな召使いは他にもいるのか?見たことないのだが。」
「確認できる範囲で、この大陸にはもう1人。大天使ルシファー様に使えております。我々を生み出すにも膨大な量の神気を必要としますからね。」
「そんなすごい奴が何で僕なんかに?」
「私には分かりますよ。他の者とはオーラが違います。いずれ偉大になるお方です。」
オーラ?他の人と違うところがあるとすれば、神を嫌っているくらいだけど、そんなことが原因で不思議なことが起こるのか?
「私はマスターが右手の魔法陣を使うお手伝いをさせて頂きます。」
「あの黒い気のことか?」
「それもそうですが、この話は後ですね。何やら珍しい気配を感じますが、もしかして人間種ですか?」
ノールは急に扉の方を向く。
「よくわかったな。人間種は絶滅したはずなのに、不思議だろ?」
「いいえ、何ら不思議ではありません。私は他にも人間種を知っています。」
僕の知っている世界は案外狭いのだろうか。最近度々そう思う。
「近づいてきますね。先程も一緒にいましたし、お仲間さんですか?」
「そうだよ。出会ったばかりだけど。」
近づいてくるのか。杖はもう出来たのだろうか。
扉が開き、サオリが顔を出す。
「ハルカくーん。あ、まだ起きていますね。」
右手を不自然に後ろへまわしている。おそらく杖を隠しているのだろう。
「あれ?どなたですか?この小さい方は。」
「初めまして!マスターのお連れ様。私の名前はノール。ハルカ様の召使いをさせて頂きます。」
ノールは礼儀良くお辞儀した。
「あ、初めまして。マミヤサオリといいます。召使いですか、ファンタジーっぽい!」
「こんなに早く人間種の方とお会いできるとは思いませんでした。これからよろしくお願いします!」
サオリはノールを気に入ったようだ。ノールの頬をツンツンしている。
「なあサオリ、杖は出来たのか?」
「出来ましたよ!これです。」
後ろに隠していた右手を前に出す。その手には細長くツルツルした杖が握られていた。
「ジャジャーン!完成しましたー。ボロスの魔石を軸に、ガルムの牙を素材として作った杖です!」
「ふむふむ、なかなか良い杖でございますね。サオリ殿のオーラにも合っています。」
ノールはサオリと杖を交互に見て言う。
「相性良いってよ。凄いな。ちょっと神気込めてみろよ。」
「そうですね。やってみます。」
杖を前に差し出す。
直後、空気がうねっていく。その波動はだんだん強くなり、服や髪をはためかせる。机の紙は音を上げて飛び、サオリを中心に渦を作る。
「神気を込めただけでこの反応、さすがです。」
ノールは感心したようにサオリを見ている。人間種のイメージは本当に変えるべきかもしれない。遺跡側の情報の方が案外正しいのかもな。
サオリの魔法は拡大していく。窓は音を立てて震え、照明はチカチカしている。部屋の中が軽い嵐のようだ。
「サオリ、もうやめてくれ。部屋の修理代は払いたくないからな。」
「すみません。」
「いえいえ、流石でございます。魔法適性も申し分ありません。」
サオリは申し訳なさそうに杖を下ろす。
「杖を使うのはまた明日ですね。今日は大人しく寝るとします。」
「そうだな、また明日クエストに行こう。」
「はい!それでは、お休みなさい。」
サオリは手を振り、部屋を出て行った。ノールも、「私も休ませて頂きます。」といい、魔法陣の中に消えていった。そして、静かな夜が訪れた。
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皆は眠っている。私も眠ろうと思ったが、どうしても杖を使ってみたくなってしまった。だからこうして森の中へ一人でやってきた。ギルドからは離れていないから、魔物が現れてもすぐに逃げればなんとかなる。さっきの雷はびっくりしたが、距離は離れていたから問題はないだろう。
杖を構え、神気を込める。
「風刃!」
横薙ぎに振るった杖の先から空気が放たれ、触れた木の枝を切り落とした。風刃、刃物のような風で切り裂く魔法。この杖の得意魔法の一つだ。杖も何を素材に使うかで得意魔法が変わってくる。敵との相性を考えると、杖は複数本所持していた方が良いのだろうか。
再び杖を構える。
「光球!」
杖の先端から光の玉が現れ、そのまま前進して行く。だんだんと見える範囲が移動し、木は奥の方へと移り変わって行く。10メートルほど先に進んだ時、木の幹にもたれた一人の女が姿を現した。白いローブを身にまとい、フードを深くかぶっている。
「あなた、誰に召喚されたの?」
女が私に聞いてきた。
「分からない。気付いたらこっちに来ていた。」
私はそう答える。
「もし私たちの計画の邪魔をするようだったら、容赦無く消すから。」
女はそれだけ言い、暗闇の中へ消えていった。とても強そうな雰囲気をまとった女だった。計画とは何だろうか。
楽しそうなイベントの匂いがすると、サオリは思うのだった。




