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村長とマリエッタさん

完結記念の投稿です!










「マスター、楽しいっすね」


 デジャヴな会話の中、パティは嬉しそうにはしゃいでいる。

 何にも変わらないな、と思いつつもパティを横目で見て、その判断が間違っていた事を思い知る。


 ーー成長してやがる。

 精神的な意味では無い。肉体的な意味でだ。


 別にグラマラスボディになった訳じゃないぞ。

 13,4歳だった少女が15,6歳になった程度の話だ。

 体は小さいままなんだけどね、こう、お胸とかがね、ちょっと膨らみを帯びてる訳だ。

 顔つきも若干大人びたように感じる。


 成長は皆無と思われたパティの変化の理由。

 あれだ、古代の巨人(エイシェントゴーレム)との戦いの時、クトゥの力を吸い取っただろ?

 その時に成長ホルモンまで奪ってきたのだろう。


 最初に気付いたのはティルテュ、シェフリアだ。

 ギルドの風呂を大きめに作った事もあり、女性陣はよく一緒に入る訳だ。

 まぁ、俺もグランツやウィブ、カルと入る事もあるし。


 その時にティルテュから言われたのだ。


「パティの胸が少し大きくなってるんだけど、豊胸だとか言って、いかがわしい事をしてるんじゃないでしょうね!」


 無論そんな事はしていない。

 だがその時のティルテュとシェフリアの蔑むような目を俺は忘れないだろう。


 そんな事を言われると、やはり目が行ってしまう。

 断じて俺はロリコンでは無い!

 ほら、風が吹くとスカートの女性に目が行くのと同じ心理だ。

 それは本能であり、性癖では無い!


「……マスター、どうしたっすか?」


 パティがキョトンとした顔で、身体を横に傾げて覗き込んでくる。

 恐らく葛藤が俺の表情に現れていたのだろう。


「えっ、いやっ、ほら、あれだ。そろそろギルドにも乗馬用の馬が欲しいなぁって考えてたんだよ」


 背中に嫌な汗をかきながら目を逸らす。


「馬っすか! 欲しいっす! 自分めっちゃ世話するっすよ! でも、マスターとのんびり歩くのも捨てがたいっす」


 そう言ってはにかむパティ

 やはりその笑顔は子供のまんまだった。




 身体能力が上がったせいだろか?

 特に走る事もなく、夕方にはアルツ村に到着していた。

 一年経っても寂れ具合は変わっていない。


「マスター、また村長さんの家に行くっすか?」

「まぁ、依頼主だからな。どうする? まだ明るいし宿でも探すか?」

「宿っすか? 泊まりたいっす!」


 わざわざ宿を探すのも変な話だが、村長の家は夜になると御構い無しに、発情した猫が現れるからな。

 しかしどこを歩いても民家、民家、民家。

 一応道具屋らしい店や、胡散臭い薬屋などはあるが宿屋は無い。

 まぁ、ここに来る人間が少ないんだろうが、旅人が来た時はどうしているのだろうか?

 外で見る七割は老人であり、村が機能しているのか疑わしい。


「無いっすね、宿屋」

「……だな。仕方ない、村長の家に行くか」


 俺とパティは別に懐かしくもない村長宅へと向かった。

 扉をノックすると、しばらく経って扉が開かれる。

 中から見覚えのある初老の男が顔を覗かせる。

 アーリッツ村長だ。


「依頼を受けたギルドの者ですが」

「ーーチッ。おぉ、お待ちしておりました。確か蜥蜴の尻尾(テイルオブリザード)のニケルさんとパトリシアさんでしたね。さっ、お入り下さい」


 今、俺の顔を見て明らかに舌打ちしたよね? 

 もうこの時点で俺のテンションは急降下だよ。

 くそっ、あの爺様一年前の事を根に持ってやがるな。


 中に入ると居間に案内される。

 居間にいたのは20才前半の女性。

 ……あれっ? 

 マリアンヌさんでは無い。

 まさかこの爺様、また若い女と再婚したのか?


 俺の動きが止まった事に気付いたのか、女性は深々とお辞儀をしてくる。


「マリアンヌの妹、マリエッタです。姉が身重の為に帰郷してますので、アーリッツ様のお世話をさせて頂いてます」

「あぁ、なるほど。失礼しました」


 言われてみれば、マリアンヌさんと雰囲気は似ている。

 しかし妊娠ねぇ。

 村長は60歳過ぎだろ? 歳を考えて子作りしなさいと言いたくなるよ。


 村長に促されて椅子に座ると、パティも席に着く。

 成長したなパティ。


「依頼ですが、またオークが現れまして。村の畑が荒らされております」

「……魔物はオークだけですよね?」

「……オークだけの筈です」


 視線を逸らす村長。

 その態度はハイオークがいることを表してるからね。

 パティ一人でも楽勝だからいいんだが、確信犯だな。


「さ、ささっ、今夜はここにお泊り下さい。マリエッタ、夕食の用意を」

「かしこまりました」


 運ばれてきたのは野菜中心の食事。

 郷土料理なのか、柔らかく煮込まれた野菜は甘いソースと相性が良く、食べ応えは充分だった。

 美味い食事だが、以前は多少なりとも肉もあった筈だ。

 経済状況が悪いのか、村長の体に気をつかってなのか。


 食事を終えると、以前と同じ寝室に案内される。

 三つのベッドがある部屋だ。


「ゆっくりお休み下さい」


 マリエッタさんはお辞儀をすると居間へと戻っていった。


「マスター、懐かしいっすね」

「そうだな」


 一年前の記憶が蘇ってくるのだが、マリアンヌさんはいない。

 今日はゆっくり寝れそうだ。


 ……しかし、体がポカポカ暖かい。

 あの料理のせいだろうか?


「パティ、明日は早いんだ、寝るぞ」

「ぶうぅぅ、もうちょっとマスターと話したかったっす!」


 俺が装備を脱ぎベッドに入り込むと、パティは頰を膨らませていた。


「おやすみ」

「もうっ、おやすみっす!」


 蝋燭の灯りを消して、布団に潜り込む。

 だがちっとも眠れる気がしない。

 疲れて無いからじゃない。

 ポカポカを通り越して体が熱い。

 熱いというか、その、無性にムラムラする。


 眠れないまま悶々としていると、薄い壁を通して話し声が聞こえてくる。


「だ、ダメです、お兄様」

「ダメじゃないだろ、マリエッタ。お前も期待しているからあの料理を出したんじゃないか」

「あぁ、いけません」


 アホかー!

 原因があの料理として、なぜ俺にも食わせる。

 ってか姉妹丼か?

 俺は思わず壁をドンと叩く。


「お、お兄様、まだお客様が起きてられてます」

「う、うむ」


 今日は絶対にさせないよ?

 去年の俺とは違うのだ。

 始まる前に邪魔してやる!


 怪しい雰囲気を感じたら壁を叩いていたのだが、どうやらお隣は諦めて寝たらしい。

 だが、俺は寝付けずにいた。


 どれくらい経っただろうか。

 部屋の中は真っ暗なので夜中なのは間違いない。

 眠ろう眠ろうと思うほど眠れないってやつだ。


 ふと、布団が擦れる音がする。


「マスター、眠ってるっすか?」


 パティの小さな声がする。

 散々壁を叩いておいてなんだが、早く眠れと言った手前返事が出来ない。

 狸寝入りだ。


「おーい、マスター」


 再びパティの小さな呼びかけがあると、クスクスと笑い声が聞こえる。


 目を閉じていても、パティが近寄って来ているのが分かる。

 不意に頰をツンツンと突っつかれる。


「えへへっ、マスターかわいいっす」


 や、やめろ!

 俺で遊ぶなパティ!


「お邪魔しますっす」


 掛け布団を少しめくり、俺のベッドに侵入してくるパティ。

 暖かい感触が俺に被さってくる。

 ぴたりと引っ付くもんだから、ほら、小さくともお胸の柔らかい感触がね。


 やばい程に心臓が早鐘を打つ。

 パティは俺の胸に耳をあてている。

 いくら寝たふりをしようがバレているかもしれない。


「マスターの心臓の音は落ちつくっす」


 しばらくするとパティは動かなくなった。

 眠ってしまったのだろう。

 そのまま俺も眠ればいいものを、瞼を開いてしまう。

 視線を下に向けると、悪戯っぽく笑うパティと目が合ってしまう。


 とっさに目を閉じるが時既に遅し。


「やっぱりマスター起きてたっすね?」


 パティが上体を起こし、俺の顔が覗いてるのが分かる。


「おーい、マスター、朝っすよ」


 嘘をつけ。

 絶対にまだ夜中だ。

 思わず眉間に皺が寄ると、パティはほぐすように指で摩ってくる。

 俺の負けだった。


「あー、もう、パティ」

「マスター、おはようっす。朝っすよ」


 目を開き、窓を見ると確かに外が薄暗い。

 朝とは言い難いが、日が昇りつつあるようだ。

 小暗い部屋に浮かび上がるパティは妙に妖艶だった。

 まだ料理の作用が効いていたのかもしれない。


 俺はパティの肩を掴んで引き寄せる。

 クトゥが青白く発光しているが無視だ。


「マ、マスター」


 パティの小さな身体を抱きしめると、外から「ブヒィン」と鳴き声が聞こえる。

 オークが現れたのだろうが無視だ。


「パティ」


 身体を少し離して、見つめ合うとゆっくり顔を近づける。

 息のかかる距離まで接近すると、激しく扉が叩かれる。


「オークです! オークが現れましたよ!」


 無視……出来るかぁ!

 昨日の腹いせか!

 パティはそのまま顔を近づけ、俺の頰に唇を掠らせた。


「マスター、行くっすよ!」


 俺の上から降りて装備を着込むパティ。

 あぁ、そうだな。

 俺はクトゥを手に取り部屋から出ようとする。


「マスター、ズボンぐらい履くっすよ!」


 くっ、動揺していたようだ。

 俺は急いで装備を着込み、赤面になりながら外へと駆け出した。


 木々に囲まれた畑にオークはいた。

 ネタのように去年と同じ場所だ。

 この畑にはオークを呼び寄せる野菜でも植えているのだろうか?


「こらー、オーク、大人しくするっす!」


 いつもならパティに「魔物は大人しくしろと言っても無駄だよ」と突っ込む所だが、今の俺は同感だ。

 無性に苛立つオーラをオークへと向ける。

 本能が危険を察知したのだろうか、オーク達は体を震わせ顔を強張らせる。


「お前ら、ちょっとここに正座しろ」


 言葉が通じるとは思わないが、クトゥで目の前の地面を指し示す。

 オーク達はお互いの顔を見合わせて、恐る恐る俺の前までやってくる。


「座れ。す・わ・れ」


 三回クトゥを地面に突き刺すと、ガクガクと震えたオークが畑に座る。

 パティが「おぉ、さすがマスターっす!」なんて持ち上げて来るが、照れたりしないぞ。


 俺はオーク達を順番に睨みつける。


「なぁ、お前らはそんなにここの畑が好きか?」


 理解してないだろうに、オーク達はプルプルと首を横に振る。


「ほら、お前達は魔物だろ? 畑の野菜なんか漁らずにさぁ、ほら、村長宅を襲うとか、村長を襲うとかあるわけだろ? 違うか?」


 今度は何度も頷いてくる。

 おっ、もしかして人語もイケる口かい?


「くっくっくっ、じゃあ、言わなくても分かるだろ?」


 俺は悪代官のような含み笑いを浮かべる。

 心の副音声が「そちも悪よのぉ」と返事をしてくるのだが、すぐに掻き消される。

 だってパティが睨んでるから。


「マスター!」


 背筋がピンと伸びる。

 俺が硬直すると、パティはオークの前に割って入って来た。


「いいっすか? 大人しくして、これから村に迷惑をかけないって誓うっすなら、見逃してやるっす。でも嘘ついたらこうっすよ?」


 パティはオークの背後に飛び、拳を光らせて畑の一部を消滅させる。

 まぁ、恐ろしい女になったものだ。

 俺の背中は汗でびっしょりだよ。


 オーク達は服従のポーズだろうか、仰向けになって腹を見せている。

 はっきり言って可愛いどころか、その腹に蹴りを入れたくなるような感情が湧き上がってきてしまうぞ。


「よし、行けっす!」


 パティの言葉に必死に逃げて行くオーク達。

 もう奴等がここを襲うことは無いだろう。

 しかしこれって依頼達成になるのだろうか?

 あの村長の事だ、依頼未達成と言い切るだろうな。




 案の定、村長は依頼未達成かつ、畑が陥没してると苦情を言ってきた。

 揉める気も無かったので、オークは追っ払った分で差し引きゼロだと交渉する。

 村長は満足気に納得してくれたようだが、その顔に苛立ちを感じた。


 まぁ、いつかマリアンヌさんにはチクリを入れておこう。




 帰り道、パティは嬉しそうに質問してきた。


「マスター、どうしてこの依頼を受けたっすか?」


 言われてみればなんでだろう。

 あまりいい思い出のある依頼ではないし、依頼料も安い。


「なんでだろうな?」


 そう言いつつも、答えは出てる。

 でも「パティとの初めての依頼だったろ? 一緒に来たかったんだよ」なんてセリフは言わない。

 言ってないのにパティは顔を赤らめて「えっへっへ」と照れ笑いを浮かべている。


「マスター」


 急に俺の背中に飛び乗るパティ。


「おんぶっす!」


 その軽い身体を背負うと口元が緩んでしまう。


 二日も難易度Fの依頼に行って未達成。

 きっとギルドに帰ればシェフリアに「何しに依頼に行ったんですか!」と怒られるだろう。


 でも俺は背中に感じる温もりを愛おしく感じていた。








 その後アルツにオークが現れる事は無く、精力のつく野菜が噂になり馬鹿売れして発展していくのだが、それはまだ未来の話。
















読んで頂きありがとうございます!

のんびりですが、今月中にもう一話投稿出来るように頑張ります!

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