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20年後に会った元カノ、昨日別れた元彼。  作者: 逢坂 遥
第一章 五月 彼女(仮)
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008_早速ですが、おうちデート(仮)しちゃいました

世間は狭い。

 「さ、櫻ぁ……」

櫻と口を利くのは1ヶ月ぶり。恐る恐る櫻の部屋のドアをノックした。

 いきなり、ドアが薄く開いた。

 櫻は無言で睨みつけている。もし櫻が口が開いたなら、お前の顔など見たくもないから用件があるなら3秒で言え、とでも言いそうだ。


 「あのさ、ま、前は悪かった」

 端から見れば謝罪になっていないようだが、俺にはこれが限界だった。

 「で?」

 櫻の、棘だらけの視線が俺に突き刺さる。


 それ以上は何も考えていなかった。

 「や、そ、それだけ……」

「あっそ」

 ドアが強い音を立てて閉まった。


 「未羽、謝ったけど完全にダメだった」

「あらら」

 これでは未羽に彼女のふりしてもらう意味が全く無い。彼女出来たぜ~とか言える状態じゃない。


 「あ、じゃあ翔先輩、強硬手段に出ましょうよ」

「どれどれ?」

「ごにょごにょ……」


 流石浜高生、頭がキレッキレだ。

 未羽の提案を実現すべくお互いの予定を確認した。


 週末。5月になって気候は爽やかそのもの。こんなに天気もいいのに櫻は相変わらず自分の部屋の中。

 俺も部屋の中だけどな。でも俺には来客がいる。10:00を待つ。


 ピンポーン。 

 我が家ではピンポンが鳴ったら櫻が出ることになっている。

 「はい?」

「えーと、篠宮未羽です、翔先輩います?」

「え、み、未羽ちゃん?え、翔?」

 会話が漏れて聞こえる。


 櫻は俺の部屋のドアを乱暴にノックした、というか……殴打?した。

 ドアが開けられることもなく、怒ったように、でもあくまで冷静を保ちながら告げる。


 「ねえ、未羽ちゃんが呼んでるんだけど。てかなんでお前未羽ちゃんと知り合いなの」

「あ、あとで説明すっから」

 階段を駆け降りる。櫻の部屋のドアが激しい音を立てて閉められる。


 「おじゃまします」

 未羽の私服を見るのは初めてだ。

 初夏らしく薄手の、濃い色のデニムシャツに、白いミニ丈のチュールスカート。清楚でとても良い。可愛い。どこかのギャルの下倉さんとかとは違って。


 そういえば女ってどう家に上げればいいんだ?女の来客なんて櫻の友達以外来た事ないし……。

 「と、とととりあえずお入りくださいっっっ」

 不慣れすぎる俺の態度に、未羽は吹き出すように笑った。


 「先輩」

 櫻は小声で囁く。

 「じゃあまずミッション1ですね」

「だな」

 二人してにやりと笑った。櫻ともう一度、仲良くなるために。

 

 「ねぇ翔先輩~♡」

「もう先輩とかつけなくていいよ」

「……翔、?」

 階段を二人で昇りながら、部屋の中の櫻にも聞こえるような声で言ってみる。付き合いたてほやほやなんだよ。設定上は。


 とりあえず部屋の中に未羽をいれた。

 「ねえ翔先輩、妹って櫻ちゃんなんですかっ!?表札が篠宮じゃないし!どういうことですかっ?」

「なあ、櫻と知り合いだったの!?」

 お互いがお互いの知らないところで櫻とのつながりがあったことに驚いた。


 「あたしは……普通に、櫻ちゃんとはクラスが一緒で」

 同じ学校の同じ学年だということは既に知っていたことだが、まさかクラスまで一緒だとは。

 「でも、櫻ちゃんって……苗字、水瀬でしょう?先輩は篠宮なのに……?」


 このへんの細かいところは、必要がなければ櫻のことは妹だと紹介して、事情は伏せていた。ただし今回はそうもいかないようだ。

 俺は正直に、櫻とは従兄妹同士だということを伝えた。

 なんでわざわざ従兄妹と一緒に暮らすのかについて話すと絶対に雰囲気が重くなってしまうので、まあ色々あるんだ、とはぐらかした。


  「……そういえば暇なんですけど。櫻ちゃんの見てないところでもイチャついてないといけないんですか?」

「いや、別に。どうしよう未羽を連れてはきたものの、その後を全然考えてなかった」


 「じゃあ作成会議でもしましょう」

「えーっと、さっき『なんで未羽ちゃんと知り合いなの』って言われて『後で話す』って言ったから、櫻と話す口実は出来たな」

「じゃあそれで良いじゃないですか。名義上付き合ってること話せますよ」

 終了。


 「もう作成会議終了しましたね。眠いので寝ていいですか?」

 「ああ、俺は構わないけど」

 そうは言ったものの、こいつは男の前でうとうと――じゃねーわ、こいつ横になってやがる、ガチ寝だ!!!――する危険性を分かっているのか?


 ……ああそうか、俺のことを本当になんとも思ってないのか。知らないおっさんよりも無害な存在なのか。

 まあいいけどさ、俺は健全な男子高校生より圧倒的に(櫻以外への)女への興味薄いからな。特段襲おうとも思わないし。


 「……おい、ミニスカートで寝返りうってんじゃねーよ」

 すやすや寝息をたてる未羽は完全なる無防備。細いのに柔らかそうな太ももが惜しげもなく晒されている。今でもスカートの中を見ようと思えば見れる状態。

 も、もちろん見ねーよ?


 でもあと数センチ足が動くだけで俺の意志とか関係なく丸見え状態になってしまう。

 俺のベッドからタオルケットをとり、未羽にかけてあげようとした。そのとき。


 俺の進路を阻むように寝返りをうち、しかも…M字開脚みたいな格好になりやがる…!!

 丸見えどころか、なんつーの。


 パニックに陥り硬直している数秒間。

 ノックがした。今度は優しいノック。しかしこちらの返答を待たずに入ってきた。


 「未羽ちゃーん、お茶持ってき…………!?」


 やばい。やばい。

 頭の中がやばいの三文字で埋まる。だってこの状況を切り取ってみせたら100人中100人が如何(いかが)わしいシーンだと思うだろう。しかも相手は寝ている。


 それに、俺には前科がある。


 櫻の表情が柔らかな笑みから硬い無表情へと変化する。首根っこ掴まれて階段を引きずり下ろされ、体中あざだらけになりながらリビングまで連行された。


 「私の未羽ちゃんに何してくれてんの!?!?」

「ま、待ってくれこれには訳が」

「訳も何もないでしょ!変態もここまで重症だとは思ってなかった」

「俺は何もしてません」

「する前に見つかっただけでしょ!未遂!」

 もう何を言っても無駄だ。俺への信用マイナスだ。


 「出てけっっ!」


 弁明する間もなく玄関から放り出された。

 冷たく鍵をかける音が聞こえた。

お読み頂きありがとうございました。

次回も読んでくださると幸いです。

ブックマーク・感想お待ちしております。

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