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20年後に会った元カノ、昨日別れた元彼。  作者: 逢坂 遥
終章 その後 家族、そして再会
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076_20年後、元カノに会った。

 桜のつぼみが芽吹くこの季節。


 そういえば明日は櫻の誕生日だなぁ。

 櫻とはしばらく会っていないけれど、それでも妻とも息子や娘とも優劣をつけられないほど大切な存在だ。


 平和そうなことだけを考えて俺は帰宅した。


 家に入る前に必ずポストを確認するのが俺の役目だ。

 メールで事足りる今も、なんだかんだで郵便という制度は無くなっていないのだ。


 ……お?水色に白のドット柄の可愛い便箋が届いている。

 次小5になるの未羽の友達か?

 もしや中2になる翼の彼女とか?ラブレター?


 しかし、宛名には俺の名前がしっかりと書かれていた。

 俺はおそるおそる封を開ける。


 翔へ。

 この手紙を読んでいる頃、あたしはまだ小学生くらいかな?

 あたしは、あなたと昔付き合っていました。

 翔にとっては大昔だよね。あたしにとっては、つい最近の話なんです。


 翔は、あたしのことを忘れているはずです。わざと、未来側から記憶を忘れるように仕向けているから。


 だけど、20年で時効です。翔はあたしのことを思い出すときがきたんです。

 というわけで、4月6日の夜8時、浜大附属高の校門の前に来てね。


 良く分からない手紙が、家のポストに投げ込まれていた。

 差出人不明。

 この文面に嘘偽りが一切無いと仮定するならば。


 ・俺の元カノ

 ・20年前に付き合っていた

 ・今より数年先の未来からきた人


 ということになるだろう。

 俺には元カノが一人だけいる。それは分かるのだが、未来人だなんて特殊設定あったっけな?


 子供たちのカレンダーで言うところの、春休みが終了した。

 4月6日の夜7時59分。まだ来ない。俺は7時45分より前から待っているというのに。


 8時になった瞬間、俺の死角からふっと現れた。


 「久しぶり、翔」


 立っていたのは、黒髪を肩の上で切り揃え、綾に良く似たヘーゼル色の瞳を持つ、俺の娘……にそっくりの少女。

 ただし、俺の娘は現在小学5年生になったばかりだ。

 目の前の少女は、見た感じ高校生くらい。なのに俺の娘にめちゃくちゃ似ている。


 「あー、パパって呼んだ方がいい?」

「未羽なのか?」

「そうだよ。あなたの娘、そしてあなたがずっとずっと前に付き合っていた人だよ」


 刹那。

 過去の記憶がすごい勢いでフラッシュバックする。

 名義上は「過去の記憶」なのだが、いままで俺は全てを忘れていた。

 その「全て」が一気に脳を圧迫する。

 密度が高すぎる、1年にも満たない『未羽』との記憶。


 頭痛がした。眩暈(めまい)もする。明日までに終わらせないといけない仕事の一つや二つは抜けていそうだ。


 「ほら。あたしに会った瞬間思い出すって言ったじゃん」

 ああ、言っていたな。


 「あなたの娘・未羽はまだ未来に行ったことがないから、娘を見てもあたしのことは思い出せなかった。翔と付き合っていた後のあたしに会ったから、全部を思い出した、みたいな」

「理論についてはあまり考えないで。まだ研究段階で、あたしも知らされていないこと多いんだから」


 あまり時間が無いの、と『未羽』は前置きして。


 「今のあたし視点の話ね。つい数時間前、高校生の翔と別れた。高校生の翔と別れて初めて、翔の正体を知った」


 話によると、「未来人」側も記憶統制されていて、未羽が過去(現在37歳の俺から見て20年前)に滞在している最中は家族についてすら思い出すことが出来なかったそうだ。


 「今は寄り道中なの。あたしの本来いるべき時間軸はあと5年半くらい先かな。うーんと、あ、やば、あと10分で行かないと間に合わない」

 「とりあえず、一刻も早く翔に伝えたかっただけ。じゃあね、また5年半くらい後ね。それまで幼かった頃のあたしをよろしく」


 『未羽』と話せた時間はほんの僅かだった。


 俺は納得した。

 こりゃ、『未羽』を何十年も待っていたって彼氏彼女の関係にはなれない訳だ。

 そもそも俺が綾とくっつかないと未羽という存在自体生まれなかったのか。



 「なあ綾」

 家に帰ってきてから、妻に今日分かったことや思い出したことを話してみた。


 「なんで俺の身の回りに、こんなに時間移動とかの関係者がいるんだと思う?」


 知らないよそんなの、みたいなことを言われると思っていた。


 関係あるかどうかは分からないけれど、と綾は断ってから。


 「私、大学のとき卒論の他にもう一本論文書いたんだよね。その一本は完全に匿名で出したんだけど。履歴とかも全部消して教授しか見られないような奥の奥の方に隠したの。――匿名だから論文とは言わないか。長い長いメモを残してったの」


 ?


 「時間移動についての」


 「もし……私が全部の黒幕だったら?」

 綾は含みを残すように呟いて笑った。


 「黒幕って……俺が『未羽』に初めて会った時から『未羽』が未来人だったこと見抜いてた訳かよ」

 「『未羽』と俺をくっつけてなんか良いことあったのかよ?綾にとっては『未羽』と俺付き合うことなんて嬉しいことじゃないだろ」


 「……やっぱ冗談」

 「でもさ、『未羽ちゃん』と付き合ったから、翔は優しくなったしコミュ力も上がったし、ノロケるためだとしても私と話すようになったし、結果的には『未羽ちゃん』と付き合って良かったんじゃない?」


 やっぱ冗談ってなんだよ!

 どこから冗談でどこまでマジだよ!

 ハッタリだったのかな。


 「私が黒幕っていうのは冗談って思ってくれていいよ。ただ、匿名でこっそり何万文字ものメモを残していったのは本当だよ。匿名のメモを残したのは私です、って言えばノーベル賞受賞するかもね」


 「なんで匿名で出したんだ?」

 「だってめんどくさそうじゃん。少なくとも、誰が書いたか追跡出来ないくらいに何個も何個も工作するよりもめんどくさそう。私は研究者の道に進みたかった訳じゃないし。それこそノーベル賞とったら一生研究室に拘束されそう」

 「あ、卒論はめちゃくちゃ無難なテーマにしておいたから。とりあえず卒業して早く翔のお嫁さんになりたかったんだもーん」


 どこから突っ込めば良いか分からない。

 ただ分かることは、突っ込んだところで俺の脳では理解出来ないと思う。放っておくしかないか。


 『未羽』がわざわざ俺に会いに来て、『一刻も早く』伝えてくれたのが良いことなのかどうかは分からない。

 正直、これから娘の未羽をどういう目で見ればいいのか、というのもすごく複雑である。ある意味忘れていた方が健全な親子関係だったような気が……。


 でも、俺は『元カノの未羽』のことを思い出せて、少し嬉しかった。


 また、5年半経てば会えるのだから。

 未羽は、恋人ではない存在で、一生俺の大切な存在として、俺の近くで笑ってくれると分かったから。

解説します。


翔が高校生だった時代は、人類はまだ時間移動出来ませんでした

その時代に翔は、未来から時間移動してきた未羽と出会いました

未羽が未来人であることを当時の翔に口外されると困るため、翔は未羽と別れた後に『未羽』という存在自体を翔が忘れるように仕組まれています。


ここまでは、今までの話をお読みの方は分かると思います。


しかし、「翔が未羽のことを忘れている」というのは20年限りです。

それ以降は、きっかけさえあれば思い出せます。

そのきっかけになったのが、『寄り道した未羽』です。


また、翔の元カノ=翔の娘、です。

そして香と未羽のエピソードと前話『10年後』を読めば分かると思いますが、翔の父親=翔の息子です。


東浜大学4年だった綾は、時間移動のプロセスを導き出しました。


……どんなプロセスですか、という質問は受け付けておりません♡


しかし、それを発表してしまえば世界中で話題になります。綾は研究の世界に拘束されます。

それを避けるために匿名で大学データベースの奥の方にしまっておきました。

ハッカーが何十年かけてもお手上げなほどの、厳しいロックをかけて。


……だったら自分だけに留めておいて、遺言書に「私が死んだらこれを発表してください」みたいに書けばいいのに、というツッコミは受け付けておりません♡


以上です。

あまり深いところを突っ込まないでください……何でもありのフィクションってことにしてくださいお願いします……。


お読みいただきありがとうございました。

次回は最終回!読んで下さると幸いです。

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