069_ホワイトデー
俺は大量のお菓子を買い込み登校した。
正直、誰にバレンタイン貰ったかなんて覚えきれないのだ。
誰から言われても大丈夫なように、今日の俺はお菓子常備だ。
下倉へのピアス代+櫻への定期入れ代<皆様へのお菓子代。
なんせ141人分のお菓子だもん。
「別にお菓子が貰えれば良いって話じゃないと思うんだけどな……」
佐藤に言うと苦笑いした。そうだろうけど仕方ないじゃん。お返し何もなしよりはマシだろ?
あれ?先輩の卒業式終わっちゃったじゃん。
先輩にはお菓子渡せないのか。まあ良いけど。
「えーと、せめて手紙書いてくれた人にはさすがにお返しに行かないとな、まず1年のフロアから行くか……」
俺は業間休みと昼休みをフルで使い、120人くらいにお菓子を渡した。もう覚えきれていないので、とりあえず目が合った人にはマシュマロとか飴とかクッキーとか渡すスタンスで。
5限と6限の間、俺はまだお返しを渡していない下倉に声をかけた。
「放課後ちょっと残ってて!」
今日こそ告白だ、今日こそ言うんだ!!
「はーい」
良かった、放課後は時間ない、とか言われなくて。
6限の日本史を50分間右耳から左耳へと聞き流し、放課後になった。
他の奴らが教室からいなくなる頃を見計らった。窓際の壁にもたれるように下倉、その正面に俺。
「下倉、この間トリュフありがと」
「こちらこそ」
俺は小さな袋を渡した。
「開けて良い?」
「……うん」
なかなか恥ずかしいけれど、中身には自信がある。ファーって言うんだっけ、モコモコのついたピアス。
櫻も『意外と翔センスあったんだね』と言ってくれたし。
お腹空いちゃったんだよなー、とか独り言を良いながら包装を解いている。お菓子だと思っているな、こいつ。
下倉は箱の中身を見た。
「なんで」
その声は、あまり嬉しそうではなかった。
下倉の好みではなかったのか?
いや、違うか。今まで見てきた限り、下倉は基本的に何を貰っても嬉しそうに笑っていたもんな。
「せっかく頑張ってたのに。翔のこと忘れていられるかなって思えたのに。こんなことされたら、全部全部台無しじゃん」
泣かせるなんて思っていなかった。涙声が二人きりの教室に響く。
「ごめん、いきなり怒ったり泣いたりして」
下倉は手で涙を拭いて、無理やり笑った。
言わないとダメだ。
壁に右手を突き、下倉の顔を見つめた。
必然と顔が近くなる。少女マンガでありがちな体勢。
「下倉、俺は――」
ガラっ。
教室の扉が開く音がした。
「お前、調子乗りすぎ」
入ってきたのは一条と西門だった。
下倉の友達というか取り巻きというか、そんな奴ら。
「綾めっちゃ可哀想。綾が頑張ってたときは見向きもしなかったくせに、いざ綾がお前を諦めようとしたら引き止めにきてて。ウザいんだよ」
彼女らは、下倉を引っ張って教室から出て行った。
俺は抜け殻と化していた。
なかなかくっついてくれない。
お読みいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると幸いです。
次回予告☞綾の過去。3本立て。




