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20年後に会った元カノ、昨日別れた元彼。  作者: 逢坂 遥
第四章 二月 交錯
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067_金髪の少年 【香目線】

香の話はこれで当分無いかな?

 2年前、夏。仕事場である歓楽街から20分ほど歩いた繁華街になんとなく立ち寄ってみた。


 金髪の少年は、真夜中に繁華街を一人でふらついていた。

 条例で18歳未満は23時以降に出歩いていてはいけないのだが、そんなの完全無視で。


 ――ああ、私の息子も今頃このくらいの年齢なのかな。


 「どうしたの、こんな遅くに?」

 私は彼に声をかけた。お節介かもしれないけれど。

 時々煙草を燻(くゆ)らせながら屯(たむろ)する高校生グループなんかは見かけるし、そういう連中に絡まれると面倒くさいから声はかけないけれど。

 一人で歩いているのはさすがに危険だと思った。


 「……今日はクソ親父の愛人が来てる。帰っちゃいけないんだ」


 悪いことがカッコいいみたいな理由で好き好んで深夜徘徊しているのだと思っていたのだが、どうやら事情があったようだ。面持ちは明るくはない。声のトーンも暗い。

 まだ、低くなりきっていない『少年の声』だった。


 この少年が放った言葉が、かつての自分を指されているようで苦しかった。

 というか、かつての自分そのものだった。


 しかも、愛で繋がった関係ならまだしも、自分の場合金で繋がっただけの関係だったのだからさらにタチが悪いだろう。


 「ダチはこの前近くの底辺高校の奴らと大喧嘩して逮捕されちゃったし。姉ちゃんたちみーんな都合悪いって言うし」

「姉ちゃん?」

「セフレだよセフレ」

 この年でそういう……とは思ったが、妊娠して高校中退した私は人のことを言えない。


 「そうだ姉ちゃん、せっかくなら泊めてよ。泊めるだけ。ヤらせてとか絶対言わないから」

 展開が急だな。さすがに見ず知らずの人間泊めるのは抵抗あるなぁ。


 「お願い!!本名も学校名もケータイ番号もなんでも教えるから。オレが何かしたら学校にでも連絡すればいーじゃん。それでどうよ」

 正直嫌ではあったが、このまま繁華街に放置しておいて何かに巻き込まれたら大変なことになる。

 私は仕方なくこの金髪の少年を泊めることにした。


 「オレ、鈴谷 駿。西中。3年5組」

「……私は、篠宮 香。えーと……22歳。服装見れば分かると思うけど、ここから2キロくらい離れた別の歓楽街で今はホステスやってる」

 当時の実年齢は31だ。さすがにサバ読みすぎたか。

 「22かぁ。意外と若いんだな」

 本当に私が22歳だったらかなり失礼な発言だぞ。まあ、9歳もサバ読んでるけど。


 「ふふ。家庭に事情を抱える人同士だね」

「香さんもなんかあんの?」

「私は、駿くんの言うクソ親父側。いや、もっとタチ悪いわ」

「え、子供いるの?」

「うん。高校生のときに産んだ。けど結局育てられなかったわ。あなたがお父さんのことをクソ親父って言うのの何倍も私は子供に恨まれていると思うわ」


 「その子供は一体今……」

「親戚が引き取った。もう何年会っていないのかな」

 ちょうど駿くんと息子は同い年だ。22歳って言ってしまった以上、息子と同い年だなんて駿くんにはいえないが。辻褄が合わなくなる。


 駿くんは部屋をジロジロと見回している。なんか嫌だなぁ、こいつ。

 「なにこれ。参考書?」

 駿くんは私の本棚に入っている本を勝手にとっていた。もう別にいいけどさ。

 「香さんもう社会人だべ?なんで勉強なんかすんの?」

「うーん、私高校中退だからさ。高卒資格さえあればバイトとかも幅広がると思うんだけどね」

「今から高校行くの?20代でJKのミニスカみたいな制服着てたらイタいと思うけど」


 突っ込むところそこかい。

 「高校は行かないわ。制服とかクラスメートとの年齢差とかもそうだけど、そもそもそんなに時間がないもの。高卒認定試験っていうのがあって、それに合格すれば高卒以上を募集している求人とかにも応募できるから」

 実際には、普通に高校卒業した人と比べれば不利だろう。あくまでも高卒認定試験に合格しても、学歴欄に「高卒」と書ける訳ではない。

 それでも、高校中退の中卒よりは働けるところも増えるはずだ。


 「いつまでもこの業界で食えるとは思っていないし、ある程度年齢がきたら無理だし。これからはフリーターで食いつなぐしかないわ」

「ふぅん。良くわかんねーけど、頑張れよ~」

 うっわー、めちゃくちゃ上から目線。別にいいけど。


 「そういう駿くんは中三じゃない、高校とかどうするの?一応高校は出ておいた方がいいわ、中退した私からの忠告ね」

「なめんなよ、見た目より頭良いんだぜ」

「本当に?」

 少なくとも、内申はめちゃくちゃ悪そうだが。


 「オレさ、テニスやってんだよねー。部活じゃねーけど。だからテニス強い学校行きたい」

 志望校の名前を聞いた。というか、聞いてもいないのに勝手にペラペラ喋っていた。

 学力的には偏差値50前後のTHE・普通の公立高校の名前を挙げていた。


 「学力は知らないけど……内申大丈夫なの?」

「オレあれだから。授業は真面目に受けてるから。テストもそれなりにいいし。サボんのとか1ヶ月に1,2回しかねーし。学校内の金髪の奴らの中で一番頭いいから。内申だって平均してオール3くらいあるし」

 思ったよりもマシだった。いや、真面目な人は学校サボらないけど。


 「そうだ。香さんオレにおベンキョ教えてよ。塾とか通ってないしー、そもそも通わせてくれねーと思うし」

「私そんな暇じゃないんだけど」

「タダ働きじゃ香さん損するだけだよなー。月給一万でどうよ」

 えぇ……。


 それからというものの、月に十数回も駿くんは私の家を訪れた。私が高認(高卒認定試験の略)用の参考書を解いている傍ら、駿くんは自前の参考書を持ってきて勉強している。時々私に問題を聞いてくる。


 「駿くん、月に一万円もどこから持ってきているの?まさか万引きとかしていないよね?」

「オレ、不良って言われる分類だけど人様には迷惑かけてねーから。親父から愛人のこと口止めするってことでお小遣いかなりもらっているんだよね。お袋、看護師だから夜勤とかあってさ、その時親父は愛人泊めてんの」


 「テニスはさせてくれるし、母さんが夜勤続きの時ならどこに遊びに行こうと何日かずっと帰って来なくても怒られない。一回家に同級生連れこんでヤってたのも親父にばれたけど何も言われなかった」

 「でもさ、帰る場所が無いんだよね。ある意味、勉強できねー環境っつーか」

 駿くんは誤魔化すように微笑んだ。


 駿くんの愚痴の大半は家庭環境に関することだった。

 駿くんが私を選んでいるなら、私が受け止めてあげないといけない。


 でも、いつも息子のことを思い出してしまって胸が張り裂けそうになった。

 彼を酷い環境で……。


 だからこそ、になるのかは分からないけれど、駿くんは大切にしてあげないといけない。

 最初は駿くんをいやいや受け入れていたけれど、いつしか来るのを楽しみにしていて、第二の息子みたいな存在になっていた。


 月日は経った。2月の終わり頃。

 「駿くん、あそこの高校ってみんな真面目だと思うから。多分金髪いないからね。せめてダークブラウンくらいの髪色にするんだよ」

「わかってる」

 本当に分かっているのか不安になった。


 駿くんは無事、合格した。

 「あー、オトモダチ何人できっかな~」

「ベッドの上の友達はやめときなさいよ……」

「だいじょぶだいじょぶ。夜ごはんまでだから」

 うーん、怪しいけど私の知ったこっちゃ無い。


 夏から春、一年に満たない期間で分かったこと。

 見た目より悪い子じゃない。金髪だし生意気だし年上にもタメ口だしチャラそうだし酒飲んでそうな雰囲気はあるけれど、どこまでも素直でやると決めたことは出来る子だった。


 彼の進んだ道が、翔の歩む道と少しでも交わっているとは、思いもしなかった。

お読みいただきありがとうございました。

次回も読んでいただけると幸いです。


次回予告→ホワイトデーに向けて。


今回が67話ですが、80話~90話程度で完結する予定です。


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