035_文化祭一日目
もう一生女装などしたくない。
残念ながら明日もシフトはある。
俺、与えられた仕事はやるし意外と正義感強い人だからな?一応明日はメイド服着てやんよ?
でもそれ以降は意地でも嫌だな。
「翔子ちゃんかーわいー♡」
「佐藤のそのメガネ割ってやってもいいんだぞ……」
女ってよくこんな……辛うじて隠れる程度のミニスカート履けるよな。お辞儀とかどうやってるんだ?
「ほら、頑張ろ」
隣には天使メイドの下倉がいる。普段のギャル姿からは想像の出来ない可愛さだ。
俺は文化祭開始直後の10時から11時半までのシフトだ。俺及び下倉は受付をやる。
俺のいる意味無くないか?
「翔もウイッグ付ければそれっぽいよ?」
全然嬉しくない。
「只今より、輝星祭文化部門を開始いたします」
スピーカーから流れる音声を合図に、模擬店は宣伝を開始する。
入り口の方から、誰かしらの家族だったり他校の友達だったり、この学校に通うことを検討する受験生だったり暇つぶしのガキだったり、様々な『客』が廊下に流れ込んできた。
「おかえりなさいませ!ご主人様!」
なんで男がこんなこと言わなきゃいけないんだよ。くっそ恥ずかしい。
「翔もっと笑顔~」
口角のあがった、ふっくらとした唇に目がいってしまう。
愛想笑いなんかほとんどしないからどうやれば「笑顔を作れる」のか分からない。
ヤケクソで受付業をこなしていると、列に並んでいる人の中から一際目立つ美少女コンビ――しかもどちらも俺関係者――が目に入った。
右側の、塩顔女子なボブっ子は未羽。彼女。
語られることが少ない気がするが、ちゃんとデートしてるぞ。
ちゃんとってなんだか分かんねーけど、もう形式上の彼女じゃないってことだ。
あれだろ、イチャイチャし過ぎてたら読者の皆様にリア充爆発しろって思われちゃうだろ?
左の黒髪ロングストレートな正統派美少女は櫻。同居する従妹。
彼氏が出来て以来俺に対しツンツンツンツンしていたが、別れて以降ツンツンふわっツンくらいになったのだ。
この「ふわっ」の時がたまらなく可愛いのだ。ツンツンしてる時との落差で。
櫻が最近服を買ったと思えば、色違いで同じ服を未羽も着ていたのをこの前見た。
てっきり偶然だと思っていたが、どうやら『双子コーデ』とかいうやつらしい。
未羽は紺、櫻は白の薄手のトレーナーワンピに、赤いチェックのシャツを腰巻きにしている。
「あれって櫻ちゃんと未羽ちゃんだよね?」
下倉も気づいたようだ。
「一人でもめちゃくちゃ可愛いのにそれが二人になるとさー、もう別世界だよね。この後雑誌の撮影ですとか言われても信じちゃう」
正直、メイク薄い下倉ならあの2人にも劣らない容姿だと思うが、そんなの口には出せない。
客を順番に捌いていく。未羽と櫻も次第に受付まで近くなってくる。
「お前何やってんの」
櫻は、ついさっきまで未羽と妖精の生まれ変わりのような笑顔で話していた時とは一変、俺に蔑みを含んだ真顔で一瞥した。
「お、お、おかえりなさいませお嬢様……ッ」
身内とはいえ今は客だ。客として対応するしかない。
「ええっあれ翔だったの!?」
未羽は声を出すまで俺だということに気づいていなかったようだ。
未羽さんよ、フォローする点を探すような目で見回さないでくれ。どうせ似合ってないし……というか似合ってたら似合ってたで嫌だし。
「あ!綾さんですよね?メイド服似合いすぎですよー!」
未羽はフレンドリーにも綾に話しかけている。
綾も、未羽に対して複雑な思いを抱えているはずだが、褒められていい気になっているっぽい。
「未羽ちゃんも櫻ちゃんもほんとモデルみたい~」
女3人で話し込んでしまいそうな雰囲気すら漂っていたので、俺は無理やりに通した。
「未羽ちゃんとか櫻ちゃんの前でなら笑えるんだね」
客をあらかた捌いた後に、下倉は向かい側の廊下に設置された窓の外を見つめながら独り言のように呟いた。
俺、笑えていたんだな。
〈お前暇?〉
一日目の拷問的内容のシフトを終え、恨めしいメイド服を脱ぎクラスTに着替えてからケータイを見ると、つい数分前に櫻から連絡がきていた。
〈シフト終わったし、まあてきとーに回るだけかな〉
すぐに返信はきた。
〈視聴覚室?の前のベンチ。1分で来い〉
この人ごみの中1分は無茶だろと思いつつ俺は走っていた。
視聴覚室前のベンチには櫻はいなかった。
「翔っ」
未羽はいた。
「どうした?」
「……翔と回りたいなって」
彼女は下向き加減で少し照れているように見えた。
なんだ、1分とか脅された意味は特に無かったのか。
「どこ行こっか」
他校の生徒である未羽はともかく、未羽と一緒にいれば俺に冷やかしがくることは確実だろう。
しかしそれは、未羽が一緒に回りたいと言って拒否する理由にはならない。
「まだクレープ食べてないんだ」
俺は手を繋ぐか繋がないか少し迷ったが、やはり繋がないでおいた。さすがに恥ずかしい。
屋台の列に並んでいる時、好奇の目が向けられているのに気付きはした。
でも未羽と話すことに夢中でさほど気になりはしなかった。
しかし、ただの好奇や可愛い彼女がいることに対する嫉妬などとは違うようか気配が、俺から見て左側からした。
そちらを向くとすぐ、クレープの屋台の向かい側にあるお好み焼きの屋台に並ぶ下倉は俺らから目を逸らした。
下倉の隣には鈴谷がいた。彼は笑顔で何かを下倉に言った。またすぐに彼女は完璧な笑顔で答えてみせた。
鈴谷は気づいただろうか。クラスではエブリデイ快晴みたいな下倉の顔が、ほんの一瞬だけ曇ったことに。
「おーい、翔?」
未羽といるのに一瞬他の女のことを考えてしまっていた。
「ごめん、考え事してた」
「そっかぁ」
残念なことに、好きな人の顔を見るだけでその考え事が記憶の彼方へ葬られることはなかった。
やばい……ストック尽きてきた……。
エタりませんよ書ききりますよ、オチは出来てるんで。
お読みいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると幸いです。
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次回予告☞文化祭二日目。綾目線。駿は綾に告白!?




