011_テスト勉強 1
時系列に則って書いています。
正直、重要な部分ではないです。
番外編気分で。
「おはよー翔」
後ろの席の女王様は今日も挨拶してきた。笑顔。すごいメンタルだ。
俺が彼女あるいはそれに近い存在がいることを知って、少しは傷ついてくれるかと思ったのに。
「お、おーす……」
「ねー、LINEのタイムラインの子って彼女、とか?」
「ま、まあ」
「可愛いねー。あーゆー子がタイプなの?」
なぜこんなに態度が普通なんだ!?お前今失恋したんだぞ!?
未羽は本当の彼女じゃないし、そもそも自分のタイプなんて良く分からない。強いて言うなら櫻みたいな、黒髪でちょっと気が強くてツンデレっぽい人なんだけど、なんて答えれば良いのだろうか……。
「お前よりはタイプかな」
「ひどいなぁ、傷ついちゃうよ~?」
「俺に関わらなければ傷つかないよ」
せめてもの優しさで言ってやった。
「そんなこと、分かってるよ」
まだ下倉は笑顔の仮面を被り続けている。
「傷しかつかなくても、何も残らなくても、翔が好きなの」
どこまでこいつはポジティブなんだろう。ここまで言われると、うざかったけど……少し見直す。いや、好きになるのとは違うぞ?
佐藤が登校してくるとすぐに
「お前いつの間に可愛い彼女作りやがって……!!」
ある意味予想通りな反応をしてくれた。恨みがこもったような目をしている。
「ところで翔さんよ、彼女が出来て浮かれるのはいいのだがな、今の時期は何があるか分かってるな?」
「ほ?」
「テスト2週間前切ってる」
初ライブ参戦に浮かれてて全く考えてなかったわ。やばいやばい。
「そうだ。ねー翔、テストで賭けしようよ」
次の休み時間普通にこんな話を持ちかけてきた。
『俺に彼女がいる』ということだけではなんのダメージにもならなかったらしい。神経図太すぎて尊敬できる。
「私が勝ったら、私のお願い一回だけでいいからきいて!」
「嫌だ、めんどくさい」
「ちぇ、ノリ悪っ」
ノリ悪くて結構。
「ちぇー、せっかく翔が勝ったらMWのマッキーのサインあげようと思ったのにぃ」
「ま、マッキーのサインんんんん!?なんで持ってんの!?」
「バイト。ライブ会場で整理するやつ。報酬ってか特典としてもらったんだけど」
もしかして……あの日いたのか?
「物販のブースで売り子してたけど?忙しかったし仕事にプライベート持ち込むのはいけないかなって思って声掛けなかったけどー、翔たちのデート現場普通に目撃してたんだから」
知り合いに見られてると考えると恥ずかしくなってきた。
別に、抱きしめたりキスしたりみたいなことはしてないからいいんだけどさ。
そしてマッキーのサインにはそそられる。
「……のってあげてもいいぜ?」
「やった!」
よし、マッキーのサインのために頑張ろう!!
で、下倉って成績どのくらいだっけ?
見た目はめちゃくちゃ頭悪そうだけど、少なくとも中学の頃はクラスで何番ってくらいの成績ではあった。
もしも今も成績上位だとしたらやばくないか?あいつだったら何をお願いされるか分からないしなー。
目指せ学年10位。さすがに下倉、学年トップ10ってことはないだろ。
「お前授業中寝てんだから一からやり直さねーとダメって分かってんのかー?頭良いやつはよ、授業でやったことは授業中に記憶して、テスト勉強の時には既にだな、応用問題とか教科書のすみっこに書いてあることを覚えて云々云々」
「お前俺のこといえる立場かよ!お前だって馬鹿じゃんよぅ!YO!」
「ラップにすんじゃねーYO!」
佐藤と一緒に勉強しているのだが、そもそも佐藤は俺と同レベルだし俺の分かんない問題は佐藤も分かんないし、逆もまた然りという一緒にいる意味がない状況にある。
「だってお前がいきなり学年10位とか言うからだろ?そもそもそんな成績とれるやつは脳味噌の構造が違うんだって」
ですよねーー。
「俺なんかじゃなくて未羽ちゃんとオベンキョしろって」
そうか。未羽に教えてもらえばいいのか。
「あ、イチャイチャになって勉強に集中出来ない?」
「それはない」
だって…本当に付き合ってる訳じゃないし。それを言ったらややこしくなるから言わないけど。
「イチャイチャまではいいけどよ、保健のお勉強になるなよー??」
このクソメガネ、ニヤニヤを貼り付けたアホヅラで何てこと言いやがる。
「するわけあるか、アホ」
「そっか、同じ家に住んでるんだもんね、ヤってるのがバレたら櫻様にシバかれちゃう?」
だからなんでその前提なんだよ。
「黙れ死ね」
こいつの思考は意味分からん。てかさっきから問題集1ページも進んでない。ゴチャゴチャうるさいし、俺帰るぞ。
「ただいま」
「おかえり」
聞き取れるか聞き取れないか微妙なほどの音量ではあるが、きちんと『おかえり』を言ってくれた。嬉しい。喜びの舞を踊れそうだ。
櫻は、俺と少しだけ口を利いてくれるようになった。
未羽とライブ行った後に、未羽は櫻に『翔先輩良い人だった』とか『翔先輩が悲しがっているので口利いてあげて』みたいなことを言ってくれたらしい。
気が利くやつだな。
「なー櫻、そっちってテストまであと何週間だっけ」
「まだ1ヶ月ちょいはあるけど」
「勉強教えてくんない?こっちテスト2週間前なんだよ」
「嫌だ」
本当に嫌そ~~な顔をしていた。そこまで嫌がることなくね?
「何でだよ、頭良いだろ」
「あんたの半径1メートルに近寄ったら襲われそう」
櫻は、俺と同じ部屋にいることまでは嫌がらなくなったものの、同じテーブルの向かい側に座ることすら嫌う。そういう理由だったのか?
「襲うわけねーだろ」
「襲うかもしれないじゃん、キモいもん」
ひどい。翔くん泣いちゃうよ。
結局一人で夜まで勉強していた。もうすぐ日付を越しそうだ。
ゲームしてたら1時くらいになっても全然平気なのに、勉強だとどうしてこんなに眠くなるんだろうな。
あー、腹減った。
ドアがコンコンとノックされる。――櫻か?
櫻が俺の部屋に入るなんていつぶりだろう。
「……バカのくせにこんな遅くまで勉強して」
バカは認める。なんせこいつは、偏差値65を越える東浜大附属中に受かったやつだからな。
バカだからこんな遅くまで勉強してんだよ。悪いか。
櫻はもちろんこの時間だから寝巻き姿。すげーラフ。暑くなってきたからか第3ボタンまで空けている。
「ちょっと、どこ見てんだよ変態」
「空けとく方が悪いんだよ」
「じゃあ良い、時間無駄にした!」
櫻は機嫌を損ねくるっと踵を返す。あー、またやらかした。
「悪いって。どうした?こわざわざ俺の部屋まで」
「おにぎり作ってやった。でも変態には食わせたくないわ」
「……お願いします、下さい!!」
俺は気付いたら土下座までしていた。
「ま、捨てんのも無駄だし。置いとくから」
ドアの近くにお盆が置かれた。夜食を作ってくれていたのだ。
「サンキュ、櫻」
櫻は、少しだけだけど、かつてのような可愛らしい笑みを浮かべてくれた、ような気がした。
「ふん、もう寝るから、うるさくすんな」
いや、やっぱり櫻の笑顔が見えたのは気のせいだったかもしれない。また最近の冷たい態度に戻ってしまった。
「うん。おやすみ」
態度こそトゲトゲしているものの、わざわざ夜食を作ってくれた。インスタントではあるがコーヒーまで添えて。
少しは仲直りに近づいたかもしれない。
俺、櫻と櫻の作った夜食のおにぎりのおかげでもう少し頑張れそうだ。
結果を言おう。4時まで頑張った。まだテストまで1週間半あるのにな。
その日の授業は半分以上寝て残りも全く頭に入らなかったなんて櫻に言ったらもう二度と夜食など作ってくれなそうだから黙っておこう。
お読みいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると幸いです。




