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最後の鐘  作者: みなと
8/8

 愛しい人の部屋で、わたしは一人、思い出に浸る。

 聞こえる声も、見える影も、何一つとして怖いものはない。

 水城つばめは、土屋このはと結ばれた。

 その事実だけで十分だ。

 ウェディングドレスを抱きしめて、目を閉じる。

 まぶたの向こうから入る赤い光すら拒んで、わたしはわたしの世界に閉じ籠もる。

 ドアを叩く音が聞こえる。わたしを呼ぶ声が聞こえる。助けを求める声と、許しを請う声。わたしを産み育ててくれた、大事な人たち。感謝の気持ちはある。でも、もういらない。

 わたしには、親友との、恋人との記憶だけがあればいい。

「……このは」

 その名を呼ぶだけで、わたしの心は満たされる。想うだけで、生きる希望が生まれる。

 まだ、災厄は訪れない。世界は終わらない。

 必ず戻ってくると、このはは言ってくれた。シェルターなんて何の意味もない、私はつばめと一緒にいたいと言ってくれた。

 きっと、このはにとって幸福なのは、生き残る可能性が僅かでも存在する閉鎖空間の中にいることだ。このはには両親が残っているのだから。

 それでも、このははわたしと居たいと言う。

 本当に、最後まで、あの親友は寂しがりやで、甘えん坊だ。

 ずっと、ずっと、「つばめ、つばめ」なんて言いながらわたしの傍に居てくれた。

 だから、わたしも、このはがいつかわたしの所に帰ってくる光景を容易に想像できる。

 ちょっと困った様子のご両親に連れられて、「ただいま」と泣きながら言うのだろう。わたしは、それを「おかえり」と迎える。そうして、わたしたちは綺麗な青空の下で、再びあるべき姿に戻る。

 その時が、今から楽しみで仕方ない。想像するだけで、頬が緩んでしまう。

 何も聞こえない。何も見えない。わたしは、いつまでも幸福な記憶と未来の中で、愛する人を待っていられる。

 だから、まだ、世界は終わらない。

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