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包囲攻撃陣( エンべロッピングアタック)]


 コクピット内の前面モニターには、ドラグノフと合流したトライポッドア

ーミーの一団が、火砲を撃ちながら押し寄せて来る様子が映し出されていた。


 砲撃しながら津波のように押し寄せてくる戦法は、トライポッドアーミー

の運用方法としては極めて理に適っている。

 たとえ命中率の悪い火砲でも、距離を詰めれば命中率が上がってくるから

だ。

 ペンタポッドが、ビルから飛び降りると、その着地点の周囲にトライポッ

ドアーミーの火砲が連続して着弾した。

 火砲の爆発は、コクピットモニターに大写しにされ、凄まじい砲火の音は

コクピット内まで響いてきていた。


「ひいいぃっ!」


 腹に響くような重低音と、烈しい震動に、たまらずソフィーは喉奥から、

ひきつったような声を洩らす。

 近接攻撃の手段しか持たないペンタポッドは、距離を詰めるまでの間、一

方的に攻撃に曝されることになる。

 トライポッドの火砲の良い的だった。

 だが砲撃は、飽くまでペンタポッドの周囲に着弾しているだけで、ただの

一発も、かすりもしていない。

 ペンタポッドが、巨体に似合わぬ軽やかなステップで、右へ、左へと、平

行移動を繰り返し、見事に弾を避けきっていたからだ。

 

 ニコルは、電子脳のクロックレートを上げることで、人間のタイムスケー

ルの千分の一の世界で生きることが可能。

 だからトライポッドの砲の向きから瞬時に弾道を予測し、高速で飛来する

弾を精確無比な動きで避けるなんて芸当が出来たのだ。

 いっこうに攻撃が命中せず焦れたか。

 一団の先頭にいたトライポッドアーミーが、一直線に向ってきた。

 一気に距離を詰め、体当たりを食らわせるつもりらしい。


「フッ、人型機動兵器だと? 笑わせる。手と足が二本ずつありゃあ強いと

でも言うのかよっ!」


 トライポッドアーミー内の地球人パイロットの嘲る声が聞こえた。

 この時代、巨大人型兵器の有用性は完全否定されており、せいぜい的くら

いにしかならないと思われている。

 トライポッドアーミーのパイロットが、舐めきった口をきくのも無理なか

った。

 ところが、ペンタポッドを侮り突進していったトライポッドアーミーは、

ペンタポッドにぶつかる直前で向きを変え、あらぬ方向へ直進して行った。

 そしてそのまま、崩れた建物の瓦礫のなかへと突っ込む。


「ちぃっ、何をやっているか!」


 ドラグノフは、不甲斐ない部下を叱責する。

 けれども、次にぶつかっていったトライポッドアーミーもまたペンタポッ

ドに空かされ転倒させられた。


「あんなチョンマゲ野郎一機に、何を手間取っている! 全員で襲い掛かっ

て一気に押し潰してしまえ!」


 ドラグノフの命令一下、トライポッドアーミーは一斉にぶつかってきた。

 それでも、ニコルのペンタポッドの動きを捉えきれない。

 ペンタポッドが、指揮者のように腕を振るたび、突進していったトライポ

ッドは、何故かそちらの方向に機体が流されて行ってしまうのだ。

 ニコルのペンタポッドは、空気投げをしたり、敵機同士をぶつけ合わせた

り。

 まるで合気道の約束稽古でも見ているよう。

 多対一の状況にもかかわらず、ニコルは完全に戦闘をコントロールしてい

た。


 実はこの戦闘は、単に見た目だけではなく、その内容も合気道の約束稽古

とよく似ていたのだ。

 合気道は、関節を決めてから投げる技。

 投げられる段階では、すでに関節を決められてしまっているため、無理に

投げようとする力に抗えば、関節が外れたり、骨がポキリと折れることにな

る。

 だから関節を決められた側は、投げる力に抗がわずに、あえて投げられて

受身をとることが行動としては正解なのだ。

 合気道の約束稽古で怪我をしないためには、投げる側の技術だけでなく、

投げられる側にも相応の技術が必要だと言えよう。

 また、合気道の稽古は、投げられる側の受身の練習も兼ねている場合があ

る。

 だから、自らすすんで投げられに行ったりもする。

 そのため、合気道の稽古風景を見て、ヤラセと疑う門外漢もいるようだ。


 実はペンタポッドの神がかった投げ技も、同じように投げられる側の投げ

られようとする意思が働いていた。

 具体的に言うと、ペンタポッドと、トライポッドアーミーの間には、量子

もつれ現象の振る舞いのひとつ『テレパシー効果』が働いていたのである。

 量子もつれとは、二つの粒子が何の伝達もなしに同期して振る舞う現象の

こと。

 ニコルは、自分と同型の量子コンピューターを搭載しているマシンに接触

することで、自機との間で量子もつれ現象を引き起こし、一瞬だがコントロ

ールを乗っ取ることができたのだ。

 だからトライポッドアーミーは、ペンタポッドに軽く触れられただけで、

いいようにポンポン投げられてしまったわけである。

 トライポッドアーミーが仕掛けていった体当たり攻撃は、自らニコルの土

俵に乗るようなものだったのだ。


「凄い」


 ペンタポッドの中のソフィーも、一方的に敵が吹っ飛んでいくさまを目の

あたりにして、感嘆の声を上げていた。


「なんなんだよ、このチョンマゲ野郎は!」

「こいつ魔法使いか何かか?!」


 いいように投げられて、ドラグノフの部下たちの間には動揺が広がり始め

ていた。


「これでは埒があかん。距離をとって囲め!」


 部下達の動揺を敏感に感じ取ったドラグノフは、すぐさま戦術を変えた。

 ニコルのペンタポッドを中心にして取り囲み、周囲をグルグルと回りだす

トライポッドアーミー部隊。

 全周囲を押さえられているのは、袋小路に追い詰められたときと同じ。

 だが取り囲んでいる敵の数は、あのときと比べ圧倒的に多い。

 敵は、数が多いことを利して、囲みの円周を大きく取っていた。

 この前のようにジャンプして逃げようにも、囲みが大きく、全方向から狙

われているので、囲みを越えようとした瞬間、そこを狙い撃たれるのがオチ。

 ならばとニコルは、強引に切り込んで囲みを突破しようと試みた。

 でも、敵トライポッドアーミーは高速移動している。

 なかなか一体に的を絞れない。

 まごまごしているうちに、側面と背後から砲撃に曝された。

 直撃こそしなかったものの、ペンタポッドは砲撃によって後退を余儀なく

され、再び囲みの真ん中まで引き戻されてしまった。

 さらに足元に着弾した弾が地面を削り、ペンタポッドの上体をよろけさせ

る。


「キャアッ!」


 大きく傾いたコクピットの中で、ソフィーが悲鳴を上げる。

 咄嗟に手と膝を突いたので、かろうじてペンタポッドは転倒を避けられた。

 転ばされていたら、集中砲火を浴びてやられていただろう。

 飛び道具を用いる円形の包囲陣は、誤射による同士討ちを呼び易い陣形。

 だからプロの軍隊では。あまり用いられない。


(でも、その同士討ちし易い陣形を、あえて使ってくるとはね……)


 トライポッドアーミー部隊は、よほど訓練されていると見える。


(低弾道の直射で、足元の地面ばかり狙ってきているのは、誤射による同士

討ちを避けるためか。一撃で葬れなくとも、相手を転ばせてから集中砲火を

浴びせればよいと考えているんだろうな。なんて嫌な攻撃なんだ)


 スピードと数に優る利点を生かした、非常に合理的な戦法だった。

 進むもならず、退くもならず。

 かといってジッとしていても、転ばされて止めを刺されるのは目に見えて

いる。

 対策を講じなければ、やられるのは時間の問題だった。


(このままではジリ貧か。こうなったら……)


 ニコルは、ペンタポッドの形をさらに変化させ始めた。

 肩と背中に持ち上げていた三つの脚輪を降ろし、五本足の形態をとる。

 今までのペンタポッドの、どの形態とも違う。

 走行形態と、農作業形態、人型形態の三つをミックスさせたような姿だ。

 さらに前脚部に装備されたマニュピュレーターを前方に展開。

 牛の角のように突き出すと、突進を仕掛けるぞと言わんばかりに、ホイー

ルをギュルギュル唸らせ始める。


「往生際の悪い。そんなこけおどしが通用すると思っているのか」


 ペンタポッドの新たな形態変化を、ドラグノフは、ただのハッタリと決め

付けた。

 闘牛のように地面を蹴立て、猛然とダッシュするペンタポッド。


 ドウッ、ドウッ、ドウッ!


 突進してくるペンタポッドに向って、四方八方から砲弾が撃ち込まれる。

 至近距離からの発砲にもかかわらず、しかしペンタポッドは、これをすべ

て避け切った。


 五本脚の形態は、手を仕舞ってしまってしまうので、いわゆる量子投げは

行えない。

 けれど三本の脚輪で走行し、二本の人型の脚でステップを踏むため、こと

機動力においては比類ない。

 いわばこの形態は、ペンタポッドの高機動形態とでも呼ぶべきものだった。


 トライポッドアーミーの砲門は、ペンタポッドの動きを追いきれず、照準

が定まらない。

 敵がオタオタしている間に、ペンタポッドは、グルグルと周囲を回り続け

ているトライポッドアーミーの一機に狙いを定めた。

 そして一気に接近。

 レーザートーチで串刺しにした。

 トライポッドアーミーは、円陣を維持しつつペンタポッドに対して横方向

に周回移動している。

 トライポッドアーミーを凌駕するスピードを手に入れたペンタポッドに、

砲撃を物ともせず突っ込んで来られては、逃げきれなかった。


(こっちも手加減してる余裕なんてないんだ。死んじゃったらゴメンね)


 ペンタポッドは、三本の脚輪で立った姿勢を維持しつつ、モズの早贄状態

になっているトライポッドアーミーを人型の二本の脚で蹴り飛ばす。

 カポエイラのような、腰を振り回して打ちつける豪快な蹴りだった。

 蹴られた勢いで串刺し刑から解放されたトライポッドアーミーは、地面に

何度もバウンドしながら仲間たちの形成している包囲陣の外へと転々と転が

って行き、ようやく止まった。

 蹴り飛ばされたトライポッドアーミーのボンネットはひしゃげ、脚輪は三

本とも無残にひん曲がっていた。

 この有り様では、たとえ搭乗者が生きていたとしても、五体無事では済む

まい。


 必殺の陣形を破られたうえに、仲間をひとり屠られ、トライポッドアーミ

ー部隊は動揺を隠せない。

 いままで均整のとれた円陣を描いていたのに、いまは円の形が歪んでいる。

 円陣を回る周回スピードも、目に見えて落ちてきていた。

 動揺が、陣形の乱れとして表れてきているのだ。

 ニコルが、一機に狙いを絞り、こてんぱんにして見せたのは、まさにこれ

が狙い。

 敵の心を乱し、陣形に綻びを作るためだった。

 勝機とみたニコルは、間髪おかず、続けざまに突進を仕掛ける。

 ペンタポッドの角や足で宙に跳ね上げられ、トライポッドアーミーは、次

々とクラッシュしていく。

 機体追従性の上がったペンタポッドの前では、及び腰になったトライポッ

ドアーミー部隊など、もはや敵ではなかった。


挿絵(By みてみん)


 トライポッドアーミー部隊は、為すすべなくやられていき、とうとう残る

は隊長のドラグノフ機のみとなった。


「馬鹿な。たった一機の敵に、二個中隊が全滅だと?!」


 ニコルたちを尋常ならざる敵と見たドラグノフは、機体を反転させ、逃げ

をうつ。

 ペンタポッドも、逃してはならじと、すぐあとを追う。

 ドラグノフとニコルは、互いに攻める好機を窺いつつ、一定の距離を保ち

ながら移動を続けた。

 やがて二機は、街の中心街区でも、比較的瓦礫の散乱していない中央広場

に出た。

 そして、そこで再び対峙した。


「手強いな。火星軍の秘密兵器か?」


 ニコルのペンタポッドの働きは、兵器としては役に立たないと考えられて

きた巨大人型兵器の概念を一変させるほどのもの。

 ドラグノフが、ニコルのペンタポッドを、軍の秘密兵器と思い込むのも無

理はない。


「だがな、たとえ火星軍の秘密兵器だろうと、貴様なんぞにやられはせんぞ。

この背中には、死んでいった幾多の戦友たちの無念を背負っているんだ。こ

んな中途半端な形で戦争を終わせたら、あの世で戦友たちに会わす顔がない

からな。火星人なんぞとは、背負っているものが違うんだよ!」


 ドラグノフは、コクピットの中で、大声で吠える。

 一方、ドラグノフの言い分をペンタポッドのコクピット内で聞いていたソ

フィーは、両手の拳を握りしめ、ぶるぶると体を震わせていた。

 そして、その両の拳を、勢いよくコンソールパネルに叩きつけた。

「ガシャン!」という鈍い音に「キーン!」というスピーカーがハレーショ

ンを起こしたような甲高い音が重なる。

 叩いた拍子に、偶然ペンタポッドの外部スピーカーのスイッチが入ったの

だ。

 そしてソフィーも、ドラグノフに負けないくらいの大声で叫んでいた。


「だからって、一般市民まで巻き添えにすることはないでしょ!!」

「なっ、女だと?!」


 ペンタポッドから聞こえてきた女性の声に驚くドラグノフ。

 彼も、自機の外部スピーカーをオンにする。


「ウーハッハッハッ。女ひとりに、ウチの二個中隊が全滅させられたってい

うのか。こいつは傑作だ」


 しかしソフィーは、ドラグノフが笑い続けているのにも構わず、話し続け

る。


「仲間を殺され、火星の人たちを恨む気持ちも分かるわ。でもそれはお互い

様でしょ。あたしの両親だってねえ、あなたたちが軌道エレベーターを落と

したせいで亡くなったのよ。それでもあたしは、復讐なんて望みはしなかっ

たわ!」


 成層圏を突き抜け、地上と宇宙をつなぐ軌道エレベーターは、火星のテラ

フォーミング事業の一環で作られた巨大な構造物だった。

 老朽化がかなり進んでいたため、軌道エレベーター内に地球軍が侵攻して

きたとき、戦闘に耐えられず自壊したと世間では報道されている。


「ふっ、軌道エレベーターか。ありゃー、俺たちが落としたんじゃない。俺

たちが軌道エレベーターに取り付いたのを知った火星政府が、首都に侵攻さ

れることを恐れて、エレベーターシャフトごと爆破したのさ。恨むなら自国

民を平気で犠牲にするお前らの政府を恨むんだな」

「そんな、口から出まかせ、信じないわ!」

「いいか考えてもみろ。お前ら火星人と同じように、俺たち地球人だって、

帰るべき故郷も、待っている家族もあるんだぞ。なのに火星から地球へ帰る

唯一の手段ともいえる軌道エレベーターを、自ら破壊したりすると思うか?」


 地球軍にとって、軌道エレベーターは、火星侵攻のための橋頭堡だった。

 同時に、火星から地球へと戻るための数少ない帰還の手段でもあったのだ。

 確かに筋道は通っている。

 ソフィーは、押し黙ってしまった。


「いま開かれようとしている地球と火星の和平会談も茶番さ。ああ、俺も最

初は、地球帰還事業が始まると聞いて、やっと故郷に帰れると喜んだよ。だ

が、数千をくだらない火星の残留兵を、どうやって地球へ返すのか疑問だっ

た。新しく軌道エレベーターを作るのも、帰還用の船を人数分用意するのも、

相当な費用が掛かるからな。なんの得もなしに、そんな慈善事業やれるもん

じゃない。だから俺は、部下に政府の秘匿通信回線を傍受させたんだ」


 効率的な推進システムが開発された火星開拓時代においても、星間飛行に

莫大な費用がかかることに変わりはなかった。


「案の定、政治家共は、俺達を戦後復興という名のもとに、働かせるだけ働

かせて、頃合いをみて一箇所の居留地に集めて殺す気だったのさ。軍隊を送

って火星利権を奪うのならともかく、帰還事業なんて政治家には何の旨味も

ないからな」


 ドラグノフは、苦々しげに言った。

 ソフィーも、ドラグノフの話を聞いて辛そうな表情になっていた。

 ドラグノフの話が本当なら、彼ら地球軍人もまた被害者であり、地球と火

星の政治家や官僚たちこそが、人非人ということになる。

 それに、もしも軌道エレベーターが崩落しなかったら、ソフィーの両親は、

死なずに済んでいたかもしれない。

 軌道エレベーターが健在だったなら、火星テラフォーミング計画だって、

もっと順調に進んでいたはずだ。

 大気の清浄化だってとっくに済んで、呼吸器の病を患っていたニコルも、

死なずに済んだかもしれないのだ。

 ソフィーが、やりきれない気持ちになるのは当然だった。


「地球と火星のお偉方たちに一泡吹かせるには、どうしてもこの町の破壊は

避けて通れなかった。必要な犠牲だったんだよ。判ったらそこをどけ。お前

の親の仇も、俺が代わりにとってやろうってんだ。お前も文句はなかろう」


 ソフィーが押し黙ったままだったので、ニコルはてっきり姉が、ドラグノ

フに丸め込まれてしまったのかと思った。

 でも違った。


「……でも……それでも、罪のない人々を虐殺していい理由にはならないわ

!」


 ソフィーは、搾り出すように言った。


「キレイごとを。しょせん火星でヌクヌク暮してきたお嬢ちゃんには、長い

あいだ冷や飯喰わされてきた俺たちの気持ちなんて分からんか。だったら、

話はこれまでだ!」


 火砲を乱れ撃ちして突っ込んでくるドラグノフのトライポッドアーミー。

 ニコルのペンタポッドも応じるように突っ込んでいく。


挿絵(By みてみん)


 ペンタポッドのコクピット内では、急加速によるGが、ソフィーの体を襲

っていた。


「くうっ、ヌクヌクなんか暮してない。火星の人たちだって、みんな必死で

生きているのに!」


 ソフィーは、強烈なGに耐えながら、呻くように言った。


「人の命を何とも思わない鬼畜どもを倒すには、自分たちも鬼になるしかな

いんだよっ!」


 ドラグノフも、ソフィーの言葉に呼応し叫び返す。

 猛スピード交錯し、すれ違う二つの機影。

 両者が、ドリフトターンして再び向き直ったとき。

 ドラグノフのトライポッドアーミーの左前脚から煙が上がっていた。

 すれ違いざま、ペンタポッドのレーザートーチが、トライポッドアーミー

の脚部装甲を切り裂いたのだ。


「チッ、足をやられたか。だがこれで勝ったと思うなよ!」


 古強者であるドラグノフは、引き際もよく心得ていた。

 牽制射撃を行いながら高速で後退していく。

 ただし砲撃目標は、ペンタポッドではなく、両者の間にある崩落しかけの

ビルであった。

 砲撃を受けたビルは、ペンタポッドとドラグノフ機の間に横倒しになり、

両者を隔てる。

 ペンタポッドの追撃をかわすため、建物を倒壊させ、障害物としたのだ。

 ドラグノフは、ニコルたちが追ってこないとみるや、それ以上の砲撃はせ

ず、一目散に逃げて行く。

 そして逃げる途上、外部スピーカーが入りっ放しになっているのも構わず

に、通信機に向かって怒鳴った。


「カーラ、ジュー、聞こえるか! いますぐ例の不発弾の化け物に火を入れ

ろ!」

「しかし、まだ見つけたばかりで、システムの掌握もできていませんが……」


 通信機の向こうで、ジューが答える。


「かまわん!」

「一度動き出したら誰にも止められないんですよ? 最悪この場でドカンと

いくかもしれません。それでもいいんですかい?」


 通信機の向こうのジューの声からは、明らかな動揺が窺えた。


「二度も言わせるな。いいからやれ!」


 尻込みするジューに、ドラグノフは一喝した。


「ウダウダ言ってないで、言うとおりになさい。さもないと……」


 カーラの声と、カチリという銃の安全装置を外す音が聞こえた。

 おそらく通信機の向こう側では、カーラがジューの脳天に銃口を突きつけ

ているのだろう。


「わかった、わかりましたよ。くそぉ、もうどうなったって知りませんから

ね」

 ジューは、ヤケクソ気味に言った。


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