邂逅
夕日と夜が溶けて混ざり合い、暖かかった空気は一気にピリッとした冷たさへと変わる。
メイプリルとプーアルは人気の少ない路地で、ビビアンを探し回っていた。
「いないわねぇ。」
先週先生に習った<周囲探知>の魔法を掛けながら歩いている。まだまだ上手くコントロールは出来ないので、照準をビビアンのみに絞っているのだが中々見つからない。
「既に戻られているのであれば良いのですが。」
「おなかが空いて帰っていればいいのだけれど。」
するとぼんやりと、3ブロックほど離れた所からビビアンの気配を感じた。
「あ、いるわ。」
プーアルにそう告げ、そちらへ向かうと「ガタン」と物音が聞こえてくる。
なんだろうと2人で顔を見合わせて、そっと角から覗き込み彼女の名前を呼んでみる。
「ビビアンさ・・・ん?」
まず目に入ったのは、ビビアンお気に入りの赤を基調とした品のいいワンピースのフリルだった。彼女はメイプリルよりも小柄なのに、なぜ裾にあしらわれているフリルが目線の高さにあるのだろうか。
「「!!!」」
答えは簡単だった。
「あれは!!!!」
灰色の朧げなナニカがビビアンの胸倉を掴みあげていたからだった。
「水爆弾!」
反射的にメイプリルはナニカに向かって水爆弾をぶっ放す。
「喧嘩っ早いお嬢様ですね!」
「言ってる場合!?コントロールには自信があってよ!微電流!」
続けざまに電撃を放つと、手は緩みビビアンが落下する。
「よ、っと。」
落下地点に滑り込んだプーアルがビビアンを回収し、メイプリルの元へ戻ってきた。
「ビビアンさん!大丈夫!?ビビアンさん!」
「う・・・」
息はしているようだが、意識は朦朧としている。早く医療魔導師に見せたほう良さそうだ。
「お嬢様!」
プーアルの鋭い声が飛ぶ。
「下がってください!」
振り向けば、もやのような灰色がジワジワと人の形になっていく。
「馬鹿ねぇプーアル、それじゃ誰が貴方達を護るというの?」
「それはあんたの役目じゃないんだお嬢様!!!」
ジリジリと詰まる距離。ビビアンを抱いて思うように動けないプーアルは、必死でメイプリルに呼びかける。
「早く逃げてください!アンタは俺に護られてればいいんだ!!」
あら、妬けちゃうわね。他人事のようにそう感じるのは、私がまだメイプリルになりきれていないからかしら?
「私はシトラス領の領主の令嬢よ。自分の領民を護るのは当たり前の事だわ。」
普段はそんなことちっとも思ったりしないけど、こうでも言わなきゃあの眼鏡野郎は納得しない。まあ言っても納得はしないだろうけれど。
「水壁防御!」
護るといっても、攻撃系の魔法はほぼ使えない。教わったのは護身用のものばかり、とりあえずプーアルたちに攻撃が及ばないように、そのあとは・・・
<魔法解除>
バチンッ
「キャッ・・・う、あ!?」
大きな音がして、急に息が出来なくなる。
「おじょ・・・」
プーアルの声が突然聞こえなくなった。
『オシエテ・・・カギヲ・・・』
代わりに頭に響く無機質な声。
『セカイノ・・・ヒミツヲ・・・』
「う、うう・・・」
薄っすらと目を開けると、灰色の双眸が私の視線を捉えた。
「あ・・・」
どうやらしくじったようだ、その事だけはなんとなく解った。
『・・・わ・・・こば・・・!!』
誰かが
『もう大丈夫?またゲームで徹夜したの??』
『聞いてくれよ!もう何しても全っ然響いてくれないみたいでさあ!!』
私を
『何で、そんな、嫌だ・・・』
『頼みを聞いてくれたら親友に会わせてやろう、だから手を貸してくれ。』
呼んでる
『小早川!!!』
『生き延びてくれ、魔法と剣と偽りの世界で。』
『きっと私を見つけてね』
「目眩まし、風遊び、拘束植物ッ!」
バチィン!!!
「お嬢様っ!!!」
ハッと意識が淵から戻ってきた。
「大丈夫ですか?お嬢さん。」
「え、あっ、はい・・・」
不意に頭上から声が降ってきて、思わず返事をする。
ゆっくりと顔をあげると、それは昔々『画面の向こう』にいた人だった。