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白昼の夢

「まあ、どうしましょう!ヒロインがどう足掻いたって、私にはバッドエンドしか待っていないわ!」

ご機嫌よう、私の名前はメイプリル・シトラス。

シトラス公爵家の末娘として生をうけ12年

私はようやく思い出し、理解した。

ここが『前世でプレイしたゲームに似通っている』ということ。

そして自分が『悲劇のライバル』と呼ばれる公爵令嬢のポジションであるということを。


「良くて『単身国外追放』、最悪『死』か。」

ブツブツ呟くと、従者のプーアルは黒縁メガネの下からまた何か面倒なことを考えているのか?といった様な視線をよこしてきた。

「いったい何を仰っているのです?」

私は呆れた様子の従者プーアルを無視し、遠い記憶を探りながら覚えている限りのことを紙に書き出してみることにした。魔力をぐぐっと調整させて、羽ペンのインクが垂れないように紙にさらさらと文字をおこす。

「・・・『世界平和と魔法使いの夢』?一体それはなんですか?」

突然意味不明な事を呟き、納得したら今度は紙にペンを走らせる。

幼い頃から続く主人の奇怪な行動に慣れたといっても、流石にこの行動に従者も顔をしかめたまで、顎に手を当てて首を傾げている。

「・・・小説でも書こうとしてらっしゃるのですか?」

「違うわ、乙女ゲーのタイトルよ。」

そう言っても彼は頭にクエスチョンマークを浮かべたままだ。

そもそも「この世界」にはテレビゲームというものが無いので理解するのは難しいだろう。

「『世界平和と魔法使いの夢』、通称『セカ☆ユメ』。簡単に言うと主人公の女の子が『エディアンマジシャンズスクール』に入学して、医療魔術師を目指しながらハンサムな青年達を攻略して恋に落ちる恋愛シュミレーションゲームよ。」

ざっくりしすぎる説明に、プーアルはさらに顔をしかめた。

「ああ・・・寝ぼけていらっしゃるのですね?起きてください。」

肩をむんずと掴み頭をグラグラと揺さぶってくるが、私の頭は冴え渡っているし、一応これでも公爵令嬢だぞコラ。

「寝ぼけていないし、自分が荒唐無稽な話をしていることは理解できていてよ。」

初めはなんだか不思議な夢を見ているなあと思った。

だがしかしその風景はとても懐かしく、見た光景は明らかに「一度経験した事」で。

私は一度死んだ。

この場合前世と言えば良いのだろうか?

とにかく私は「大魔導師」と名乗る男に会った直後に、2tトラックに撥ねられた。

不思議と痛みは感じず「あの人と同じ最期だ」なんて思ったのも束の間で、私は今の今までその記憶を忘れていた。


なのに何故こんなに冷静でいられるのかと言えば、そういう話に耐性があるから。

所謂オタクだったことが関係しているだろう。

死後転生なんて小説は飽きるほど読んできたし、ちょっと憧れてた時期が私にもありましたけど、今は昔の話。

そもそもそのゲームのガチ勢ではなかった、ということも冷静でいられる大きな要因だろう。

そんな中、下した判断が「あれれ~?なんだかここは前世でプレイしたことのあるゲームの世界に酷使してるぞォ~?」と言うわけだ。


『ガチも、ニワカも』がコンセプトのゲームブランド『明天堂(みんてんどう)』の代名詞とも言われる『マリリンの大冒険』シリーズ。

大容量メインゲームの他にサブゲームが盛りだくさんな、言わずと知れた鬼畜ゲー。

現実と同じ時間が流れ主人公のグラフィックが成長するギミックや、選択肢によって結末が変わるのはもちろん、即死判定やセーブ不可ゾーンありという、ゆとり世代にも廃人共にも厳しい『究極の鬼畜ゲー』との異名を持つそのゲームは、国内認知度80%以上。世界中にも熱狂的なファンがいたという。

攻略サイトの類は、明天堂からのサイバー攻撃を受け、軒並み閉鎖に追い込まれた、との逸話もチラホラとある。


その世界観の中でのサブシナリオである恋愛シュミレーションゲーム、所謂乙女ゲーの『世界平和と魔法使いの夢』。

通称『セカ☆ユメ』に登場する主人公を邪魔するライバル令嬢、それがメイプリル・シトラスだった。




「・・・つまり前世の記憶を思い出された、ということですか?」

「つまらなくても、信じてもらえなくても、別に構わないわ。私はバッドエンド回避の為に行動するまでよ。」

潔よすぎるその言葉に、従者のプーアルは眉間に深い皺を寄せた。

「俄かには信じられません。俺がお嬢様を裏切って国外追放に追い込むなんて。」

「私もよ、プーアル。でもね、そのルートをたどる可能性は現段階では低いと思われるの。」

確か『従者:プーアル』はメイプリルに虐げられて心を閉ざし、彼女に服従ではなく復讐を誓っていた設定だったはず。そしてヒロインが彼を攻略すると、某国の王子としての記憶を取り戻したプーアルは、静かに彼女(メイプリル)を国外追放に処す。

だか今はどうだろう。

彼を振り回している自覚はあるものの、良好な関係を築いていると思う。

「私のこと殺したい位憎んでいる?」

「俺がお嬢様のこと殺したいって?・・・そりゃあ子どもの頃におやつを奪われて殺意を抱いたことは少なからずというか何度も、毎日ありますが。」

「あるんかい!その節はごめんね!!」

「まあでも、そんな所もお嬢様らしいといいますか、いい意味で慣れましたからご安心を。そもそも俺がお嬢様を国外追放できる程の立場の人間じゃないですしね。」

プーアルはくつくつと笑っているが、私としては笑い事ではないのだ。


実はプーアルには、ゲームの設定通り昔の記憶がない。

彼は色々あって私の従者になったが、本来の設定ではシャンレイ王国の王子様なのだ、たぶん。彼の一声で私の国外追放など、たやすく行われてしまう、きっと。まあ彼がゲームのシナリオ通り『シャンレイの王子様』ではない可能性も十分ありえるのだが、出会った場所がそのシャンレイ王国。

「ねえ、プーアル。そもそも貴方もその攻略対象に入っているのよ。」

「なんですって?俺がどこぞの娘に攻略されるんですか?」

笑っていたプーアルは真顔になる。

一貫した私の態度と口ぶり、そして今日まで一緒に過ごしてきた彼には、だんだんとわかってきたのだろう。

「それは困りますね、お嬢様の国外追放以上に。」

「いや国外追放の方が困るし、お先真っ暗でしょうが。」


この大法螺がどうしようもない事実なのだと。


「ご安心下さいお嬢様、俺は何があっても貴女と共にありますよ。なんたって私は貴女の従者ですから。」

むくれた私の機嫌をとるように、彼は目を細めて笑いながら、私のほっぺたの肉をむにっとつまんだ。

いひゃいひゃ(いたいわ)

「柔らかいのが悪いんです。とりあえずエム学に入学せず、その主人公とやらに合わなければ良いのでは?」

肉をつままれたお返しに、彼のメガネを奪って耳にかけた。

それは「童顔は馬鹿にされるから」と言って、1年ほど前から掛けはじめた伊達眼鏡なので度は入っていない。

「それは駄目よ。シトラス家令嬢たるもの、ある程度の教養や魔術は身につけておかなくては。」

外に出て行くタイプのオタクなめんなよ、それに魔法使いには純粋に憧れがあるし。

「私は恋愛する主人公のライバルで、攻略対象との関係を邪魔するキャラなの。それはもう、ありとあらゆる手段を使って。」

悪口や物を隠したりなんてのはしょっちゅうで、攻略対象とのイベントをことごとくジャマしてくるが、実はそれは従者と婚約者のルートのみ。にも関わらず他の攻略対象ルートでも、何故か国外追放やら魔法訓練中の事故死やら、主人公ヤンデレバッドエンドでも巻き込まれて死ぬのだから笑えない。彼女に同情したユーザーからは『悲劇のライバル』と呼ばれ、中には彼女の生存ルートを探す為に膨大なゲームデータをリセットしながら、しらみつぶしに糸口を探しだしプレイした廃人も居たらしいが、その結果がどんな物なのかは私にはわからない。なぜなら私はその答えを知る前にこちらへきたのだから。

「人生何が起きるかわからないとは言うけど、マジでバッドエンドは回避したいわ。」

「一番マシなルートはなんなんですか?」

「それが国外追放なのよね。」

プーアルを攻略するとバッドエンドでもハッピーエンドでも、私が国外追放になる。もしくは誰ともくっつかないノーマルエンドで、主人公が双子の姉を救うことができたら国外追放。

それ以外はなんやかんやで死ぬ。

「要するに死ぬか国外追放かの2択なのよ。」

「世知辛いですねぇ」

2歳年上の従者はクツクツと笑いながら、私に奪われた眼鏡を取り返した。


登場人物紹介


メイプリル・シトラス

シトラス公爵家の末娘、庶民的でおおらかな心の持ち主。周囲の予想外の行動をとる事が多いものの、公式の場に出るときには完璧に公爵令嬢を演じきる。従者のプーアルとはいつも一緒。10歳の頃に前世の記憶を思い出し、ここが前世でプレイしたゲームの世界に酷似していることに気づく。ルートによっては公爵家没落、国外追放、死刑など様々あるのでそれらを回避し最善のルートを模索する日々。『マリリンシリーズ』は一通りプレイしたものの、どちらかといえば『マリリンゴーカート』や『スマッシュミリオンバトラーズ』の方をやりこんでいたため、ゲーム内の情勢はガチ勢程詳しくない。ノベライズ、コミカライズは熟読。享年25歳、社会人3年目にして自称大魔導師と出会い。直後に交通事故で亡くなる。

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