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すき間  作者: 佐伯寿和
6/6

画に描いた猫

初日。苦し紛れの越冬えっとう目論もくろんでやって来た『南国』旅行は結局、多少緯度が南に下りたというだけで、日本の寒さはさほど変わらない。はたして自費で遊びに来ただけのもとはとれるのか、心配になる一日目になった。


小さな島とはいえ、四方八方から襲ってくるホストのキャッチに対応していれば日も暮れてしまうらしい。

「ドリー、置いてっちゃうよ。」

私は魅入みいっていた。どうして海に沈む夕陽はこんなに哀愁あいしゅうを感じさせるのだろうか。小波さざなみに反射するオレンジ色の光は夕陽が流す涙にも見える。

対して、ABCの三人は一日中テンションが高く、私のアンニュイな気分を台無しにしたくれた。

そして本当のことをいえば、私はすでに足が棒になっていてもう歩きたくなくなっていたし、帰りもたくさんのホストたちと出くわすのだと考えるとウンザリ感が割り増しに感じられた。


もう3、4年の付き合いになるけれど、私はまだ三人の偏愛へんあいっぷりをあなどっていたらしかった。

やれスマートだの、やれ毛並みがイイだの同じようなヤツを相手に、同じようなワードばかりで盛り上っている。だいたい、『ブサイク』だと思っているのに「カワイイ」と騒ぐ世間は頭がオカシイと思う。

そんなこんなで今日だけで8時間は歩き回った。それでも島の半分も回っていないと聞かされた時にはちょっとした絶望感に()()()()()()()()()。3日間ずっとこんな調子だったら私は、二度とこの島に来たくなくなるような不安もあった。


危惧きぐする私の心情をんだのか、もともとそういうつもりだったのかは分からない。

何にしても、付き合いの長い仲にも礼儀があるというか、「アタシたちはだいたい満足したし、明日、ドリーの行きたいところってある?」とA子が言った時は本気で胸をろした。

「ないけど、私はおばあちゃんでゆっくりしたいな。」

少し考えてみたけれど、やはりこの島に特別行っておきたい場所なんてなかった。

一人でなら小さい頃に付き合いのあった漁師のおじさんたちに会っておこうとか、のんびり海辺を歩いてボーッとしようかとも思うけれど、皆でとなると…、やはりそんな場所がこの島にあるはずがない。

「年寄り臭いこと言わないでよ。せっかくこんな遠くまで来たのに、今しかできないこと、やっておかなくていいわけ?」

そんな青臭いこと言うのはやはりA子だった。

「でもおばあちゃん家、色んなオモチャとか癒し系グッズがあって案外飽きないよ。」

「そうなんだ。」

「まあ、いいんじゃない?今日は歩き尽くめだったし、一日くらい落ち着ける家でノンビリしたって。」

BとC子の援護射撃えんごしゃげきが入れば、たいてい私の案は通る。定番の流れだった。

「ここに連れてきてくれたのドリーだしさ。ね。」

夕陽は、友情のまぶしさも演出してくれるものだと、心の中で合掌がっしょうした。


結局は三日目のホストツアーをする前段階、英気えいきやしなう日という意味で、二日目のおばあちゃんの家でまったりコースは満場一致まんじょういっちをみた。


それにしても、もはやここは私の記憶の中のおばあちゃんの島とは全然違う。今日一日島を回って実感した。

私が遊びに来ていた頃は、漁師たちのおこぼれにあずかるだけのだらしない害獣とののしられていたのに、今では彼らの方が島民よりも数が多く、()()()()()

そうなると、島にとどまるためとはいえ、島民たちはもはや彼らに頼るしかないというのも納得せざるおえない。

島の箇所々々(かしょかしょ)に猫目当ての客に受けるような設備を整え、猫に危害を与える可能性がある物はできるだけ撤去てっきょしたらしかった。

観光客のための民宿を営む家、漁船を手放す家が増えた。そして島と外とを往復するフェリーの本数が倍以上にもなっていた。観光ツアーもできた。島は活気に満ちるはずだった。


確かに、以前よりは島ははなやかになったし、にぎやかにもなった。ちらほら若い観光客も見受けられたけれど、けれども何故なぜだかそれらはとても空々(そらぞら)しく見えてならなかった。

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