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すき間  作者: 佐伯寿和
3/6

招かれざる猫、招かれる人

おばあちゃんの住む離島では、ここ数年の内に野良猫が急増した。それは不景気を理由にやる気をなくしている若者たちに見倣わせたいほどに優秀な商人あきんどたちだった。訪れた私たちが、船を降りた瞬間からおばあちゃんの家に辿り着くまでの間に、20近くのそれに絡まれてしまうくらい。

私は3人ほどの偏愛家ではないので、都会によく出没するらしいナンパ連中のような有象無象程度にしか認識していない。予防注射などケアのされていない野良ならなおのこと。(20匹を越えたあたりから煩わしくも感じられた。)

おばあちゃんに増加の理由を尋ねてみるけれども、身近な存在の割には随分と無関心な答えしか返ってこなかった。


すると、おばあちゃんの粗雑ぞんざいな答えをフォローするように、B子(岡辺悠子)が分かりやすい?猫贔屓(びいき)をするのだった。

「猫ってやっぱり商魂逞しいんですよね。」

おばあちゃんは何だって笑ってくれるけれど、B子の発言はいつも――気のつく良い性格なのだけれど――、何が言いたいのか今一つ分からない。

いつもならB子の珍プレーを通訳してくれるC子(白石朋子)なのだが、今日エンカウントした猫たちへの想いに堪えきれず呆然自失としているようで、いつも以上に言葉少なに突っ立っている。


「何か新しい観光スポットとか、グルメスポットとかはないの?」

これは、3人と人種の違う私にとって、3日間という滞在期間を過ごす上で外せない情報だった。しかし、やはり小さな島に目新しさを期待しても肩すかし。おばあちゃんの可愛らしい仕草以上に欲しいものは得られなかった。

「何せ男連中が元気無くしちまったからねぇ。」

男手が期待できないと、栄えようにも行動力に欠けてしまうのだとか。


私の隣で、早く猫巡りをしたいA子(榊亜紀子)はそれらしい相づちを打って会話を終わらせにかかってきた。

私はそれを無視しようかとも思ったのだけれども、A子は一旦いったん機嫌が悪くなると尾を引く癖があったし、私たちの間では暗黙の了解というものもあった。このルールを適用するのなら、今回も、折れるべきなのは私の方だった。


おばあちゃんは考え事をする時、笑顔を保ったまま右の耳たぶを触る癖がある。それがまた可愛らしくて私は気に入っている。それが見られただけでも良しとすることにした。

「イノシシやら、ヘビやらは滅多に見なくなったけんど、山道には気を付けてなぁ。」

玄関先でおばあちゃんは、船着き場で貰える島の案内図を一人ひとりに配ってくれた。学校で配られるプリントのようにモノクロの粗末な物だったけれど、一周30㎞もない小さな島にはそれでも勿体無いように思えた。


愛情さえ感じられるこの好意にさしものA子も、「持っている」という無粋な答えは返さなかった。

「じゃあ、陽が落ちる前には帰ってくるから。」

「美味しいご飯用意して待ってるよぉ。」

おばあちゃんはニコニコと笑顔を絶やさずに私たちを見送ってくれた。

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