連載になるかもしれない、ネタ。12
相変わらずなかんじです。
しかし、どうしてこうなった・・・。
目の前で繰り広げられる茶番に、溜息を一つ。
自身をヒロインと勘違いしたイタイ女と、そんな女の毒牙にかかったバカな男たち。
用意された台詞をただ読み上げるだけの三流以下の役者しか出演していないコレは、喜劇ではなくやはり茶番で。
楽しくも無いコレに付き合っている無駄を嘆く。
「わたくし、このような茶番劇にお付き合いするほど、暇ではありませんの」
抜け出す方法を思案していれば、会場に響く女の声。
凛とした聞き覚えのあるその声に視線を向ければ、想像通りの少女が一人。
この茶番の一番の被害者である。
「まだそのような事をっ!」
少女の台詞に、バカな男たちは口々に少女を攻め立て、
「いくら私が嫌いだからって、ひどいっ」
イタイ女は大袈裟に嘆くフリをする。
この三文芝居も真っ青な茶番劇は、まだ続くらしい。
周囲を見渡せば、冷ややかな視線を役者どもに向ける観客たち。
被害者の少女には反対に、同情的な目を向けている。
さて、あのバカドモは、何時になったらソレに気付くのか。
「何の根拠も無い話をこのような公の場で主張するなど、茶番以外の何物でも無いでしょうに」
多分に呆れを含んだ少女の台詞に、やはり意味の無い言葉を発するバカドモ。
いい加減にしろと怒鳴りたくなる気持ちをグッと堪え、手にしていたグラスを落下させた。
「わたくしの補佐が、何かしたのかしら?」
ガラスの砕ける独特の高音で注目を集め、バカドモの顔色が変わった瞬間に声を発する。
イタイ女は状況理解が追いつかないのか、ポカン、とアホ面を晒している。
こんな女に懸想しているバカドモは、破滅してもらおう、と決めて。
「聞こえなかったかしら。わたくしの補佐が、何をしたの?」
固まったままのバカドモに、再度声をかけた。
「ひめ、ぎみ」
「お姫様・・?」
蒼白になったバカドモをゆっくりと順番に見渡して。
スッと左手を軽く振れば。
「な?!」
会場内に居る、バカドモを除いた全員がわたくしに向かって頭を垂れた。
驚愕に声を詰まらせるイタイ女と、恐怖に顔を引き攣らせるバカな男たち。
慌てて頭を垂れるも、今更もう遅い。
「言葉が通じないようね。誰か、事の詳細を」
答えられないバカドモを時間の無駄だと切り捨てて、監視に置いていた者たちへと声をかける。
「御報告致します」
本来であれば、コレは補佐である少女の仕事であるが。
今回は、その補佐が被害者である。
公平をきするためにも、報告は第三者からでないと意味が無い。
まぁ、優秀な補佐が虚偽を報告する可能性は無いのだが。
対外的なモノは必要だろう。
「わたくしが留守の間、好き勝手していたようね」
ソレを許した記憶は無いのだけれど、と。
報告が進むにつれて、呆然と立ちすくむだけとなったバカな男たちに声をかける。
ビクリ、と身体を震わすバカな男たちの姿に、イタイ女の何かがキレタ。
「何なの?! どうしてこの女に好き勝手言わせているの?!」
ココの最高権力者は貴方たちでしょう、と。
私に后妃の地位をくれるのでしょう、と。
必死の形相で縋り、喚く。
「わたくしを知らぬモノが、どうしてココに居る?」
品性の欠片も無い、低脳な人間をココに入れた責任は重い、と。
バカな男たちに告げる。
「事実確認も満足にできず、このような女に転がされる人間に用はない」
された報告から、事実を正しく理解できていないのはこのバカドモだけだと知れる。
事実を知ろうともしないのは、義務を怠る以前の問題である。
そのような無能者は、わたくしの周りに必要はない。
「即刻立ち去りなさい」
わたくしの視界に入るな、と。
分かりやすい言葉で切り捨てる。
「モブのくせに偉そうに!!」
私はこの世界の主人公なのよ、と。
何やら理解できない奇声を発するイタイ女。
自分が世界の主役などとは、脳の病気を疑うレベルだ。
「本当にソウならば、世界がオマエを助けるのではないかしら」
助けでも求めてみてはどうかしら、と。
一瞥もくれずに言い捨てて。
「何を勘違いしているのかは存じませんが、ココの最高権力者は姫様です」
キングダムに権力を与えているのは誰なのか。
キングダムの形成を許可しているのは誰なのか。
ヒエラルキーの頂点に立っているのは誰なのか。
淡々と、低脳な女にも理解できるように噛み砕いて説明をする補佐。
「オマエが現れてから、キングダムとは名ばかりの、オマエを閉じ込める檻に成り下がっていると気付かなかったのですか」
キングダムとは名ばかりの、張りぼてと化した権力と、見せ掛けだけの箱庭で。
檻とは気付かず、周囲に目を向ける事無く好き勝手に行動し。
あまつ、自分こそが主のように振舞った。
知らぬでは済まされぬその行動と、無礼では生温いその態度。
もはや、オマエに生きる価値はない、と。
「これ以上、姫様のお目を汚してはなりません」
優秀な補佐は、捨ててこいの一言でバカドモを排除した。
「で、アレは一体なんだったのかしら?」
全てを終わらせたという報告を聞いた後、気になっていた事を確認する。
「ココは、乙女ゲームの世界で、アレはヒロイン。キングダムのメンバーが攻略対象者で、わたくしはライバルの悪役だそうです」
言われた内容が理解できず、はて、と小首を傾げれば。
「三文芝居にも劣る内容の調査報告がありますが」
ご覧になりますか、と優秀な補佐は書類の束を差し出してきた。
理解できないまま、というのは気持ちが悪いので、その報告書を読み進めるが、何とも馬鹿馬鹿しい内容で。
「コレに巻き込まれていたの・・・?」
補佐を、思いっきり憐れんでしまった。
イタイ女ではなく、電波女だったらしい、とアレの存在を下方修正して。
「処理は?」
早々に理解を放棄して、バカドモの行く末を確認する。
「既に抹殺されております」
にっこりと、最良の結果を報告された。
「しかし、ゲーム、ね」
電波女が信じていた、ゲームであるというこの世界。
しかし、ココはゲームではない。
ココは。
「平行世界かしらね。わたくしたちとは、また違う世界の記憶のようだわ」
「その可能性が一番かと。わたくしたちの記憶では、ココは物語の中ですから」
そして、わたくしたちの記憶こそが正しい、と。
電波女の調書を一瞥し、くすりと笑う。
前世ともいえる、今とは違う人格の記憶。
「まぁ、いいわ。全ては終わった事ですもの」
当初の予定とは違うが、邪魔な無能者たちを一掃できたのだ。
最終目的は果たしているため、少々の誤差は気にしないで良い。
それよりも。
「そろそろ、遊戯をはじめましょう」
ココは、乙女ゲームなどと言う生易しい世界ではない。
「喰うか喰われるか。己の身をかけた殺戮遊戯」
比喩ではなく、言葉通りの。
「力なき者は餌となり、強者はその糧を得て強くなる」
蠱毒壷のようなこの世界。
閉じた箱庭の中の人間たちは、共食いをはじめる。
弱者という名の無能者は、強者という名の有能者の糧となり、この世界の支配者となる。
そして。
「最後に残った有能者は、姫様の狗となる」
五年に一度のこの儀式。
二つの月が輝く夜に生まれた者たちが持つ、異能こそが参加資格。
「今回の狗は三人ね」
そして、その異能者を支配下に置くのが、わたくしの異能。
この世界で唯一の、支配者。
「さぁ、喰い合いなさい」
二つの月が輝く今宵は、最高の舞台。