あのねえ、アキラ、簡単なことだよ。
私は愛されたかった。
それは、私が両親に求めたほとんど唯一のことであり、同時に叶えられなかったことでもある。
たったひとつの願いだったのに。私は、両親の願いをほとんど全部叶えたというのに。
なのに、どうして釣り合わない? 「ほとんど唯一」と「ほとんど全部」では、等式が成り立たない。私ばかりがババを引く。不公平だ。
「アキラはさ、頭いいのに馬鹿だね」
何がだ、と私は振り向かずに言う。
私は数式を解くので忙しい。ああ、もう、どうして黒板というのは、こう、上の方に手が届かないのだ。生徒の身長のことを考慮に入れていない。学び舎の道具なのだから、学び舎のサイズに合わせるべきなのだ。生徒達の平均身長に合わせて作ってほしい。……あ、それでも届かないのか。
「椅子とか使ったら? ほら、そこにあるでしょ」
「わ、わかってる。うるさいな」
私は、努めて冷静にズリズリと椅子を引きずる。うう、重い……。これも、これも、学生の平均筋力に合わせて重さを設定するべきなのだ! ……あ、でも、それでもやっぱり私には重いのか。くそ。
「それで、アキラはどうしたいの」
「だって、不公平だ。私ばかり。私、がんばっているぞ? 首席だぞ? その気になれば、こんな高校飛び級して大学にぴょーんと行けるんだぞ? まさに天才美少女ってかんじなんだぞ?」
「美少女って……」
なのに、母様や父様ときたら。
私が成績表を持ち帰っても、黙ってこちらを見るばかり。
私が百点の答案用紙を持って帰っても(時にはボーナス問題まで制覇して百二十点を超えることさえあるのに!)、俯いて頷くばかり。
張り合いがない。いや、違う。張り合いが欲しいわけじゃない。
ただ、ただ……寂しい。
「私、いらない子なのかな」
「どうしたの、急に」
「だから、父様も母様もあんなにそっけない態度なのかなあ」
「あのねえ、アキラ」
あ、こいつ、笑った。
真面目な問題なのに。
こちらは真剣に話しているのに。
なのに、何故だかドキドキしてしまって。
私は、もうチョークなんて握っている場合じゃなくなってしまう。
「あの人たち、一度会ったけどさ、アキラにそっくりだ。大事なことは、何も言わないんだから。全然本心を出さずにさ。それで勝手に落ち込んじゃったりして。かわいいんだ」
「あ、え、お前、こら」
突然だった。
こ、こいつ、断りなしに。
だ、だ、抱きついてくるなんて!
なんだ、この熱さ。服の感触。意外に柔らかいぞ。男のくせに。私より断然背が高いくせに。骨ばってるくせに柔らかいなんて卑怯だ。
――安心してしまう。
「ねえ、僕はアキラの何?」
「そ、そんなの、しらん」
「あのねえ、アキラ、てっとりばやく愛って奴を手にいれる方法を教えてあげようか」
そうして、耳元で囁き声。
――それはね、自分から好きだよって言うことだよ。