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イブとアンまん

作者: 水無月 狐鉄

クリスマスイブ


多くのカップルや家族、サークルなどの仲間達が

それぞれの幸せを楽しんでいる中

俺は家のパソコンを睨みつけながら

作業をしていた。


俺は一人暮らしなので、一緒に祝う家族もいないし、

ましてや彼女なんて居たことすらない。

けど別に幸せにしている人たちを恨むつもりなどない。

どちらかというと、こういう結果に至った

自分のミスを全力で恨んでいるところだ。

恨みながら、その怨念を動力源にパソコンを使っていたのだが

それもついに

「おわらねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

作業は煮詰まらないまま時間だけが消費されていく。

正直、これ以上の案も作戦も文章も出ない。

「今日、イブだよな。

 何で今日に限って、こんなミスをするかなぁ」

俺はそうぼやいて背もたれに体重をかけて勢いよく伸びをした。

「くはぁ。

 イテテテテ」

盛大に鳴った背中をさするのもこれで何回目だろうか。

何かもう全体的にダメな雰囲気がでてきている。

「しょうがねぇ。

 ちょっとコンビニにでも行って

 気分転換でもするか」

確かパックのお茶がきれていた筈だし

それと何か菓子でも買っこよう。

そう思い、俺は今まで座っていたコタツの前から立ち上がった。


「お願いします」

そう言って、レジに居た初老のおじさんにカゴを渡すと

おじさんは、一品一品商品名とその値段を復唱しながら

バーコードを読み込ませていっていた。

俺はそれを眺めつつ

ちょっと、買い込みすぎたなと反省。

茶と菓子だけのはずが

漫画の新刊。クリームパン、ペットのコーラ、プリンとゼリー

ホットの缶コーヒー、ツナマヨおにぎりと梅おにぎり、最近流行のアニメの福引券、板ガム、おつまみソーセージ、お饅頭、カップ麺

それに肉まんとアンまんを注文

と、盛大に増えてしまった。

相当家に帰りたくなかったのだろう

商品を見てる間がものすごく楽しかったのを覚えている。

「ありがとうございました~」

おじさんともう一人居た女の子の声に押され

肉まんとアンまん、缶コーヒー、後レシートの入った袋とそれ以外が入った袋。

この二つを持って店を出た。

一気に冷気が俺を包み、

すぐさま俺の幸せな気分を覚ましていった。

それと同時に、どうして俺だけこんな目に合わなきゃならないのかという

考えがふと頭をよぎった・・が

肉まんの誘惑によってあっさりと消えていった。


とりあえず近くの公園に行き、

蔦が屋根のようになっている物の下にあるベンチに腰をかける。

1つベンチをとばしたベンチにはカップルとおぼしき男の子と女の子が

向あって立っていたが。

まあ、向こうが特にその場を離れるそぶりなどを見せないので

いいか。

と思い腰を下ろして、肉まんを取り出した直後だった。

「じゃあ、俺は行くからな。

 お前も俺じゃなく、いい人見つけろよ」

という言葉が聞こえ、

男の子の方が去っていく足音がした。

女の子の方は、それを追うわけでも、引き止めることもせずに

その場に立っていて

男の子の姿が見えなくなったのをきっかけに

(別にがん味してた訳ではなく、横目でちらっと見ただけ)

後ろにあったベンチに勢いよく座り、

手で顔を覆い大泣きをし始めた。


正直、全力で居心地が悪かったのだが

女の子を一人にしておくのは何だったのと

思いつめた後に、次の日冷たくなっていたのが発見された

なんてことになってても嫌だったのがあったのだが

かといって、見知らぬ俺が手を出しようがないので

とりあえず、横を気にしながら

肉まんを食べ始めてみた。


最初は洪水のような泣き声だった女の子も

徐々に声は小さくなり、声色にも疲労感がにじみでてきていた。

俺はそっと立ち上がって

彼女の横に立った。

それに気づいたのか、女の子はゆっくりと頭を上げた。

今日は気合を入れて来たのだろうメイクはすでにボロボロ。

元からなのかそういう処理をしたのかは分らないが、

それと肩より少し長いフワフワの髪のカワイさとのギャップが

彼女の気持ちの落差をあらわしているような気がした。

俺を見た瞬間に少し驚いたような表情をしたが

それも泣きつかれての疲労感と

彼氏にフラれたショックからか

それもゆっくりと溶けて、すぐに泣きそうな顔となった。

「ほら、そのまま泣いていても気持ちは落ちるばかりだから

 このコーヒーとアンまんあげるから

 ゆっくりでいいから口にして落ち着くといいよ。」

と、俺はゆっくりとした口調で言って

彼女の横にその2つが入った袋を置いた。

「で、食べ終わったら何も考えないようにして

 家に帰るんだ。

 それからすぐに風呂に入って

 すぐに寝るのがいいと思うよ

 気持ちが落ち込んでる時はろくなこと考えないし、

 明日、もう少し落ち着いてから考えたらいいと思うよ」

俺は今度はちょっと早口になったがそう言って

すぐに身をひるがえし、

公園自体から離れることにした。


最初は彼女が食べ終わるまで元のベンチに座ってようかとか

送れる範囲まで送ってあげようか。とか考えたのだが。

やっぱり、たまたま居合わせた人間がやるのは出すぎたマネだと思い、やめた。

とりあえず、気分の落ち込んでる時に

温かい甘いものは少し心を落ち着かせてくれるし。

落ち着いたら、自分を潰そうと考えはしないだろう。

だから、大丈夫。

俺はそう自分の中で結論づけて、早足で家に向かった。

途中ふと思いついて

夜空に向かってサンタに

彼女にこれからよいことがあるよう、幸運を届けてください。

と願ってみたが

何で思いついて、こんなことやってるのだろうかと。

願った後に疑問に思ってしまったが

まあ、クリスマスイブだししかたがないのだろう。

(後、女の子のふわっとした髪型がかわいいとちょっとだけ思ったのもあるかもしれない)


ただ、ちょっとだけ

あの公園に行く前よりも

家に帰る足どりは軽くなった気がした。




ーENDー

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