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俺の彼女は豆腐好き!  作者: トラキチ3
1/7

第1話

この作品は、初めてのホラー作品……のつもりだったのですが、結局いつも同じテイストになってしまいました。

「のべぷろ」での『Town of the Dead』企画用に描いてみました。

『Town of the Dead』企画

俺の彼女は豆腐好き!  トラキチ3


初稿20141202


第一話


 深夜二時。

 俺は、そっと目を開けた。カーテンの隙間から月の光が差し込んでいる。そして、部屋の隅で毛布の塊が静かに上下に揺れているのをジッと見つめた。

 全神経を集中させ、その塊を見つめたまま慎重に体をベットのフチまで動かした。そして、ゆっくり布団から足を出す。かすかに聞こえる布が擦れる音にビクビクしながら足を動かしていく。

(ゆっくり、そう、ゆっくりと……)

 俺は、自分にそう言い聞かせながら床に足を伸ばすと、冷んやりした床を親指が捕らえた。

(よし!)

 親指に体重をかけると、布団から自分の身体を滑らせた。まるでスライムにでもなったような身のこなしをイメージし、音もなく床に伏せた。

 一瞬、例の塊がピクリと動いた気がして、ハッと息を呑んだ。

(まずい、気が付かれた?)

 俺は、硬直したまま、ジッと例の塊を見つめた。

 ゆっくり上下に規則正しく揺れている。

(大丈夫……大丈夫だ……)

 俺は、そっと手を伸ばし、ベットの下にあらかじめ隠しておいた財布を掴むと、ジャージのポケットにねじ込んだ。そして、四つんばいのままソロリソロリと慎重に後退した。

 ベッドから玄関までは、普通に歩けば十歩もない。しかし、今はとてつもなく長い距離に感じる。視線はあくまでも例の塊におく。

 玄関に到着し、ゆっくり立ち上がると玄関のカギを慎重に回した。そしてドアレバーを下げると冷たい外気が室内に入ってくる。

(慌てるな……ゆっくりだ……)

 全神経を集中させてゆっくり扉を開け、裸足のまま冷たいコンクリートの廊下を踏みしめた。そして再度、慎重に扉をしめ、カギをかけるとカチリと乾いた小さな音がする。 

 玄関をでてからも、月明りを遮らないように注意し、冷たいコンクリートの廊下を抜き足差し足でエレベータホールを目指した。

(大丈夫……アイツの気配はない……)

 俺はホッと胸を撫で下ろし、ホールの片隅に隠しておいた紙袋からスニーカーを取り出しエレベータに乗り込んだ。


「よし!」

 俺は、明るいエレベーター内でガッツポーズをとった。久々の開放感が俺を包み込む。俺は念のため、エレベータ内の監視カメラの真下に身体を押し付けて息を潜めた。

 何も異変はない。

 俺は、かがみこむとスニーカーの靴ヒモをしっかりと結んだ。

(コンビニエンスストアで温かいコーヒーでも飲んで、雑誌でも読もうか……)

 いつの間にか、自分でもだらしない顔になっているのがわかる。突然、ガクンとエレベータが揺れると一階に到着し扉が開いた。

(うん?)

 俺は、ヒトの気配を感じて頭をあげて驚いた。

「ギョ……」

 視線の先には、アイツが笑顔で立っていたのだ。長い黒髪がサラサラと揺れている。

「なんで、どうして……」

 俺がしどろもどろで呟くと、アイツは、笑顔のままゆっくり口を開いた。

「ねぇ、カオル、ドコいくの? 私も行く!」

 かわいい声で俺に問いかける。しかし、その目の奥底からは異様なほどの冷たさを感じる。

 俺は、しばらくソイツのことを見つめた。

 ニコニコ顔のソイツは、無邪気に俺の袖をひっぱった。

「はぁ……」

 俺は、がっくりうなだれるとソイツをエレベータに引き入れると「閉」のボタンを押した。

 エレベータはゆっくり元のフロアを目指していく。

(なんだって、俺がこんな目にあわなくちゃならないんだ……)

 俺は、この忌々しいコイツに出会ったときのことを思い出した。


 ◆


 俺は今年、東京の大学に合格し、一人上京してきた。

 慣れない地での一人暮らしに不安がないといったらウソになる。でも、俺はユカリから解放されたことがなによりも嬉しかった。

 ユカリは、一つ年下の妹だ。容姿端麗、成績優秀で学校では、いつでもどこでも目立っている存在だ。そんな妹を俺は、いままでずっと守ってきた。まぁ、今考えると幼い頃、親から「ユカリを守るのはお兄ちゃんの役目だからね」と刷り込まれた事が原因なのかもしれない。

 ユカリも俺を頼りにしてくれて、小学生の頃は何か新しい発見をするたびに、嬉しそうにニコニコ報告をしてきたものだ。しかし、中学生になったころから、ユカリの行動がおかしくなってきた。

 学校ではいつも学年トップの成績だったのにもかかわらず、高校受験の際、わざわざランクを下げて俺と同じ高校に行きたいと言い出した。これには、親も、学校の先生も驚いて、随分と説得をしていたようだが、アイツの決心はゆらがない。

 もちろん、俺も「なぜ、そんなバカな事をするのか」と話したが、あいつはジッと俺のことを見つめたままポロポロ涙を流すだけだった。結局、俺と同じ高校だけを受験し、予想通り抜群の成績で合格をした。

 それからというもの、俺はアイツの将来が心配になってきた。いくらなんでも出来の悪い俺に合わせる必要なんかないし、アイツはアイツの夢に向かってがんばってほしかった。だからこそ、アイツが高校に入学をしたら距離を置くようにしなければと考えた。


 高校入学式の朝だった。

 アイツは、嬉しそうに新しい制服を何度もかがみでチェックした。長い黒髪がサラサラと輝いて、おもわず見とれてしまう。

(いかん、いかん……甘やかしてはダメだ)

 俺は、アイツを無視して玄関で靴を履く。すると慌ててアイツも真新しい革靴を履いた。

「ねぇ、お兄ちゃん、制服だいじょうぶかなぁ?」

「制服? ああ、いいんじゃね? すごくかわいいし」

 俺はアイツの姿も見ずに二つ返事で答えたが、アイツは俺の前に飛び出すと嬉しそうにニコニコ微笑んだ。

「そう? お兄ちゃんがそう思うなら大丈夫だよね」

「まぁな」

 さらに適当にあしらう。すると、今度は俺の顔を何度も覗き込んできた。

「なんだよ、なんか、俺の顔についてのるのか?」

「別に……」

 そう言いながらもクスクスと笑ってご機嫌だ。次第に俺はイライラして足を速めた。

「ちょ、ちょっとぉ」

「うるさいな、黙って歩けよ。遅刻したらみっともないだろ?」

 俺がガツンと叫ぶと、アイツはポツリとつぶやいた。

「一つ聞いてもいい?」

「うん? なんだよ?」

「なんで、お兄ちゃんには彼女いないの?」

 俺は、足を止めた。そして、アイツの頭を両手で掴んだ。

「い、痛い! なに?」

「オマエには関係ない話!」

 俺は、アイツを解放するとスタスタと歩き始めた。

「なんで、怒るの? ねぇ? ねぇ?」

「うるさい! 黙って歩け」

 しかし、数分もしないうちに、またアイツがニコニコしながら話しかけてくる。

「なんで、関係ないの?」

 アイツは、ジッと俺をみつめるとクスクス笑い出した。

「やっぱし、女の子にモテモテのお兄ちゃんでいてほしいもん」

「女の子にモテモテ? 別に興味ないし」

「え!」

 アイツはびっくりして身体を反らすと小さな声で俺に呟いた。

「お兄ちゃん、もしかしてアッチ系?」

「アッチ系?」

「女子より男子に萌えるってタイプ?」

「それはない!」

「だよね……」

 アイツは、ホッとしたようにニッコリ俺に微笑んだ。

(なん、なんだよコイツは……)


 当時、俺は部活のサッカーに夢中だった。もちろん女の子は気にならないわけではなかったが、俺的には、女子は自分とまったく住む世界が違うと感じていた節がある。その点で、女子と面と向かって話すというのはとても面倒で苦痛に感じていたのだ。

 ところが、アイツはズカズカと俺の領域に踏み込んでくる。まったく余計なお世話だ。


 突然、俺の腕がポッと温かくなった。

(うん?)

 俺が腕に目をやると、ユカリが俺の腕に抱きついている。心なしかアイツの胸の感触が二の腕に伝わり、女の子特有のなんともいい香りが漂う。

「えへへ、私たち付き合ってるみたいにみえるかも?」

「ねぇよ」

「って、なに赤くなってんの?」

「うっせーな、そんなにベタベタするなよ。ウザイんだよ」

「むふふ。お兄ちゃん、かわいい!」

「うっせー」

 俺は、腕を解くと前を歩いていった。女の子の感触を感じてしまった自分に罪悪感を感じいたたまれなくなったのだ。

 そんなことがあってから、俺は、ユカリの前にでると俺の方が気後れしてしまい、面と向かって話ができなくなってしまった。一方のユカリは、そんな俺を面白がって、ワザとからかうような図式となった。

 別に兄貴面するつもりは毛頭ない。ただ何故だか自分の部屋にいても落ち着かず、家の中でも極度の緊張状態が続く。とにかく、アイツに嘲笑われるのだけは俺的には許せないのだ。

 あれこれ考えた末、高校二年の春からは部活を終えてから、夜遅くまで学習塾に通い続け、家でもほとんど顔を合わせることを避けるようにした。


 そして、大学受験。俺は、ユカリから逃げるように東京の大学を受験し、無事に合格することができたのだ。

 この半年、いろんなことがあったが、ようやく大学生活にも慣れ、授業がないときにはフットサルサークルの部室でゲームの動画をみたり、コンパで盛り上がった。アルバイトも始めて金銭的にも余裕がでてきた。

 もちろん、先輩から分けてもらった成人向けのエッチな本やDVDも気兼ねなく存分に楽しむことができる。まさにパラダイスな日々を送る事ができたのだ。



 そんな日々が急転したのは、学園祭イベントの準備コンパで飲み疲れた夜だった。

 真夜中過ぎに奇妙な音がして目が覚めたのだ。


――ぴちゃぴちゃ――


(なんだ? あの音。水道の蛇口でも閉め忘れたのか?)

 最初は、そう思った。だが、不思議な事にその音は次第に大きな音になっていく。

(気にするな、コンパでちょっと飲みすぎただけだ。明日たしかめればいいことだ)

 俺は自分にそう言い聞かせ目を閉じた。


――ぴちゃぴちゃ――


 音は、次第に大きく騒がしくなっていく。

(ええい! 気になるなら、確認すればいいじゃないか!)

 俺は、目を開けて部屋を見渡してみた。すると、台所の一角がぼんやりと明るくなっている。

(冷蔵庫? 閉め忘れた?)

 目を凝らすと、確かに扉が手前に開いている。


――ぴちゃぴちゃ――


 やはり、その音は冷蔵庫の扉の向こう側から聞こえてくる。そして、時折扉がガタガタと揺れている。

(うん? 空き巣! 玄関、閉め忘れたのか?)

 一瞬そんな風にも考えたが、俺の部屋の冷蔵庫は俺の腰の高さぐらいしかない。そんな扉に隠れるヤツなんているわけもない。

 俺はそっと手探りで床拭き用のモップを掴むと声をあげた。

「だ、誰だ! 誰かいるのか!」

 すると例の音がピタリとやんだ。

 ジリジリ冷蔵庫に近づくと上から冷蔵庫の扉の向こう側を覗き込んで見た。


「え!」


 俺は絶句した。なんと、そこには、三~四歳の幼女がジッと俺を見上げ、驚いた顔でこっちをみている。

「き、きみは誰だ?」

 彼女は、俺が特売で買い込んだ好物の豆腐のパッケージから手づかみで豆腐を口に運びながら俺のことを睨んでいる。

「ここは、きみの家じゃない。さっさと帰えりな!」

 俺が少し強く叫ぶと、幼女は、ピクリと眉毛を吊り上げ不機嫌そうに立ち上がると、俺に指をさして話しはじめた。

「ワタシ、ホタル。アナタガタヲ タスケルノガ ワタシノ ミッション」

「はぁ?」

 俺は呆気にとられしばらく思考が停止した。しかし、幼女は真面目な顔で、再び棒読みセリフのような話し方をしてきた。

「アナタハ、ワタシニ キョウリョクスル ウンメイ」

 あまりのことに、俺は吹きだしてしまった。

「アハハ、まぁいいや、ともかく、自分の家に帰えろうね」

 俺が優しく話しかけると、幼女は、頭を横に振る。

「ココ、ワタシノ イエ」

「へ?」

「オマエハ、ワタシニ キョウリョク スルノダ」

 あいかわらず、真面目な顔だ。

「だから、きみの家はどこなの? おかあさんは?」

 そう話しかけながら、おれはその幼女を扉の向こう側から持ち上げた。その瞬間……幼女のキレのいい右足キックが俺の後頭部にヒットした。以後、俺は記憶がない。


 ◆


 翌朝。俺はベットに横になっていた。

「あぁん、いやぁん……」

 いきなり、女性のあえぎ声が聞こえた。

(な、なんだ!)

 俺は、何事かと、ベットから飛び起きて音のする方を見つめて驚いた。そこには、制服姿の女子高生が、テレビの前にジッと座り、エッチなDVDを食い入るように見ていたのだ。

 俺は、あわててテレビのリモコンをつかむとテレビの電源を切った。

「き、きみは誰だ!」

 俺が叫ぶと、くるりと俺のほうを向いてニコリと微笑んだ。その瞬間、俺は思わず悲鳴をあげた。

「な、なんで!」

 なんと、そこには妹のユカリがいたのだ。

「ユ、ユカリ? なんで、オマエがここにいる?」

「ユカリ……?」

 ジッと俺を見つめるとニタニタと笑いだした。

「まぁね。カオル兄ちゃんがいないと、私、さびしいし……」

「へ?」

 ユカリは、フンッと目を反らすと、黒いDVDのパッケージを手に取っている。

(いったい、どうなっているんだ。でも、ユカリか? どうも、おかしい)

 ユカリは、子供の頃は俺を「お兄ちゃん」とは呼ぶことはあったが、「カオル兄ちゃん」なんて呼ぶことはない。

 俺は疑いの眼差しでジッとユカリ見つめた。すると、ユカリはサッとテーブルの上のテレビリモコンを奪い取ってテレビをつけた。

 テレビには、女の生足をカメラが舐めていく映像が流れる。俺は、慌ててテレビまで駆け寄るとテレビのコンセントを抜いた。

「なにするの! せっかく見てるのに!」

「っつうか、なんでオマエここにいるんだよ」

「いいじゃない。たまには私が遊びに来て上げないと寂しいでしょ?」

 そういいながら、本棚の俺のお宝本コーナーに手をのばす。

 俺は、咄嗟にユカリの腕をつかんだ。


「何してる……え! 冷たい!」


 ユカリの腕は、まるで氷のように冷たかった。俺は、おもわずユカリの顔を見つめた。

「オマエ、どうしたんだ?」

「何が?」

「どうして、こんなに冷たいんだ?」

「あ……」

 そういうと、ユカリは急いで腕を引っ込めた。

「別に、カオル兄ちゃんには関係ないじゃない」

(また、カオル兄ちゃんか……)

 俺は確信した。

 コイツはユカリじゃない。なにかドッキリの類? 大学のサークル仲間の策略かもしれない。そっと辺りを見回してみた。どこかに隠しカメラでもついているにちがいない。

 

「オマエ、ユカリじゃないだろう。誰だ?」

 俺は、ジッと彼女を見つめた。

「えー。わたし、ユカリだってばぁー。やだなぁカオル兄ちゃん!」

 彼女はニコニコ笑いながら俺を見上げてきた。

 制服の間から胸の谷間がチラリとみえ、俺はドキンとしてしまった。

 しかし、ハッキリと目の前の女の子がユカリではないことを認識した。

「悪いんだが、俺の妹は、俺のことをカオル兄ちゃんなんて呼ぶこともないんだよ。それに胸もそんなに大きくはない。誰かのイタズラだろ! どこから入ってきたんだ」

 チラリと玄関をみるとちゃんと内側からチェーンも掛かっている。

「エヘへ、ちゃんと、合鍵もってるもん!」

 彼女は、得意げにカギを取り出した。

(合鍵あったってチェーンがかかってたら入れないはずだか?)

「うーん」

 俺は、ジッと彼女を観察した。俺は悪い夢でも見ているのだろうか。

「なに? 近いんですけど! そんなにジロジロみなくてもいいでしょ?」

「うーん、しかしソックリだ」

 俺は机の上の携帯電話を手にすると実家に電話をいれるフリをした。

「ああ、母さん? 俺、カオル。すまないけど、ユカリはいるかな?」

 すると目の前のユカリは、突然慌て始めた。

「あーあー、そう、私はユカリじゃない。ホタルっていうのが本当の名前」

「ホタル?」


 彼女は、ジッと俺を顔を見つめている。

「すまないが、何で、きみがココにいるんだ? ドコからはいってきたんだ?」

 少し強い口調っで話かけると、彼女はビクリと震えた。

「ハッキリ言わせてもらいますけど、あなたが連れ帰ったんでしょう?」

「はぁ? 連れてきた? 冗談じゃない。きみに会った事もないし」

 彼女は、ニヤリと笑うと、そっと制服を脱ぎ始めた。

 俺は慌ててホタルに叫んだ。

「やめてくれ、一体何が目的なんだ。俺が何か悪い事でもしたのか?」


 彼女は、立ち上がると俺を見つめた。そしてゆっくりと口をひらいた。

「私は、ホタル。あなた方を助けるのが私のミッション……」

「ミッション? って、ちょっとまってくれ! 昨日の晩にも同じセリフを聞いたような……」

 ホタルは、クスクスと笑うと両手を広げた。

「そう、あれも私だよ。昨晩の豆腐は、私にピッタリ! こんなに立派になっちゃった」

「はぁ? ち、ちょっと、意味がわからない! いったいどうゆうことなんだ」

 俺が叫ぶと、ホタルの着ていた制服が一瞬にして消えた。目の前には裸の少女が立っている。

「ぎょ!」

 俺が驚いていると、次第に肌の色がなくなり、彼女はまるで水の像のように透明になった。

「!?」

 俺は絶句した。まるで映画のCGのようだ。

 そして、その像が二つに分離すると、昨晩合った小さな女の子二人に変化した。

「どう? わかった?」

 小さな幼女二人は、丁度ステレオ放送のように口をそろえて話をしている。

「……」

 俺は、悪い夢でもみているのではないかと何度も目を擦ってみた。

「もっと分離できるけど? してみる? ちっちゃくなっちゃうけどね」

 俺は、その場にヘタリこんでしまった。

「も、もういいです。というか、これはどういう手品なんでしょうか?」

「手品? じゃぁ順を追って話をするわね。あなたには、私のことを理解してもらわないとならないし、協力してもらう運命なんだから」

 ニッコリ微笑むと彼女達は、俺の前にペタリと座り込んだ。


 ◆


 彼女達は、エッチなDVDのパッケージを手に撮りジッと見つめていた。

「さっき、いろいろ見せてもらったれど、ここの惑星の住人は、ずいぶんと原始的な方法で種族を残しているようね」

「へ? 惑星の住人?」

 俺は思わず聞き返してしまった。しかし、彼女達は俺のことを無視して話を続ける。

「私は、R5という流体アンドロイドで、惑星アクアリカっていうところから派遣されてきた」

「アクアリカ……でアンドロイド? なにか企画モノのDVDシナリオですか?」

 彼女達は、揃ってフンと不機嫌そうに鼻で笑った。

「生物の細胞活性化とリキッドアンドロイドの研究のためにG0っていう試作物質ができたんだけれど、形状を安定することができず失敗したのよ。でもその物質は、星間宇宙軍が特定のウィルスを混入させた兵器に利用することで再利用されたのよ」

「はぁ?」

「ところが、このG0が何者かによって盗まれて宇宙にばら撒かれたことが判明したの」

「盗んだ本人もG0のウィルスによって死亡して、その拡散プログラムを解析した結果、この惑星にまもくなく到達することが分かったのよ。それで、私が先回りして派遣されてきたというわけ。おわかりかしら?」

 俺もSF小説は大好きでいろいろ呼んできたが、今の話は、どこかの素人が考えたチープなお話にしか聞こえない。

「ごめん。要約すると、地球外からG0とやらの得体の知れない兵器がやってきて、それから守るためにきみが派遣されたってことかな」

「そうそう! そういうこと!」

 彼女達は、嬉しそうに俺に微笑んだ。

「ちょっとまて。しかし、宇宙からやってきて、なんだって普通に俺と話ができるんだ?」

「そりゃ、部屋中の本やら電磁波から翻訳機を構成したし、あなたにもアクセスしておおよそのこの惑星の生物について知識を得たから……」

(な、なに言ってるんだ。コイツラ)

 俺は、じっと彼女達を見つめた。

 二体の少女は、また透明になると、再度合体し元の制服姿のユカリの姿になった。

「悪いが、その姿はやめてくれないか?」

「そう? あなたの一番近い異性情報だったから親しみがあるとおもったんだけど」

「そんなことはない」

「じゃぁ、このDVDにでてくるブロンドヘアの女の子のほうがいい?」

 そういうと、みるみるダイナマイトボディのブロンドのお姉さんが目の前に現れた。俺はおもわず息を呑んだ。しかし、すぐに思い直した。

(近隣の目を意識するとまだ実の妹のほうがマシかもしれない)

「や、やめてくれ。ユカリのほうがまだましだ」

 ホタルは、ニッコリと微笑んだ。そして、俺の顔を見つめると真面目な顔で言い放った。

「お好みなら、このDVDでしてるようなサービスもしてあげられるけど?」

「はぁ?」

「このチープなネットワークからおおよそのヒトの営みは吸収できたからね。種族保存のための本能的な行動もバッチリ!」

 そういうとホタルはPCをポンと叩いた。

「しかし、ずいぶんと作品に偏りがあるわね。だいたいブロンドの女性で体の凹凸がハッキリしてるタイプって感じ?。ねぇ、カオル兄ちゃん」

 少しばかり俺を軽蔑したような目で見るとクスクスと笑い始めた。

 俺は、眉毛をひそめた。

「悪いが、『カオル兄ちゃん』ってのはやめてくれ! それにそれは先輩のDVDだ……」

 強く俺が叫ぶと、ホタルはクスクス笑い始めた。

「まぁ、いいけど……。PCのデータとかアクセス履歴もみたけど、おんなじ傾向だったけどね」

(うが、すべてお見通しなのか)

「まぁ、そんなことはどうでもいいんだけど、こっちのほうがいいのかな?」

 そういうと、ホタルの黒髪が一瞬にしてブロンドヘヤになった。

「や、やめてくれ! 黒髪でいいから!」

「そう?」

 ホタルは、サッと元の黒髪にもどした。

「ところで、でも、どうして俺のところに来たわけ?」

 俺はホタルに呟くと、彼女は、俺を指差すやいなや叫んだ。

「それは、あなたが私を拾い上げて、私と契約をしたからじゃない!」

「はぁ?」

(拾い上げた? 契約? 一体何のことだ)

 ホタルは、俺ににじり寄ると、じっと俺の顔を覗き込んだ。

「な、なんだよ」

「ヒントはね。い・ん・せ・き!」

「隕石? あ! あの隕石! 俺はカバンを見つめた」


 ◆


 隕石。

 そう学園祭イベントの準備もひと段落つき、今晩は前夜祭コンパをしようと先輩達と約束をしていた。先輩たちは午後も授業があるからと、俺は一人、コンパまでの時間を潰すため、生協でかったフットサルの雑誌を手にキャンパスの芝生に腰を降ろした。

 そして、ページをめくった瞬間。


ドスッ!


 と音が聞こえ、雑誌は地面に叩きつけられ、手のひらぐらいの大きさの丸い穴がポッカリあいていた。俺は驚いて空を見上げたが、ただ真っ青な空がひろがっているだけだ。慌てて、あたりも見回したが、シンと静まり返って目撃者はいないようだ。

(何だ? 何か飛んできた?)

 俺は、おそるおそる地面に叩きつけられた雑誌をどけてみた。すると、そこには、ゴルフボール大の穴が深く開いており、周囲の草が焼け焦げている。

 俺は、持っていたペットボトルの水をその穴に流し込んでみた。すると、ジューと音を立てたかと思うとモウモウ水蒸気があがってくる。

(なんだ、これ?)

 しかし、ちょっとでも位置がズレていたら、俺の頭や身体を突き抜け即死していたかもしれない。俺は、改めて身震いをしたが、なぜか、その落ちてきた物体が気になった。

(掘ってみるか?)

 俺は、繰り返して水を流し込んでみた。最初のうちは水蒸気があがったが、ペットボトルの水を全部注ぐ頃にはそれもおさまった。

 持っていたスマートフォンのLEDライトで穴の中を照らしてみると、なにやら、赤いピンポン球のようなものが見える。カバンからスチール製の定規を取り出すと穴を広げるようにして掘り進んでみる。

「なんだこれ?」

 掘り起こした球をみつめて、おもわず大声上げてしまった。真っ赤な球がユラユラと色が変化する。おそるおそる定規でつついてみると、プシューと音がして、次第に縮みはじめ黒いシワシワの球に変化した。

 俺は不思議とその球に魅入ってしまい思わず手に取ってしまった。

(うお、なんだこれ! すごい重い)

 直径二センチメートルのシワシワの黒い球は、両手でないと持てないほどの重さだった。それでもなんとか持ち上げると、いきなり手のひらに激痛が走った。

「アチっ!」

 慌てて黒い球を地面に落とすと指先から血がにじんでいる。

(まだ熱があったのか?)

 今度は慎重にハンカチで黒い球を包むとカバンの中にしまった。


「じゃぁ、なに? あの黒い球と関係があるってことなのか?」

 俺は、妹のユカリそっくりのホタルを見つめた。

「そう! 元はあの球体だから。最初に遭遇した生命体の体液交換をした時点で契約成立ってこと」

(え? 体液交換? 交換?)

「ちょ、ちょっとまて、体液交換って言った?」

「そう」

「じゃ、なに? 俺の体の中に何か仕込んだってわけ?」

 ホタルは、ワザとらしく口を押さえて「しまったー」というような素振りをする。

「そんな演技はいいから! 何をしたんだよ」

「それは、ヒ・ミ・ツ」

 俺は、ホタルの肩を両手で押さえると彼女を揺すった。

「契約っていうのは、お互い合意しなければそう呼ばないんだよ。むしろ一方的な侵略じゃないか」

「いずれちゃんと話をするわよ。だからそのときまで待っててよ」

 そう話すと悲しそうな眼で俺を見る。その仕草がユカリがよくみせる表情とそっくりだったのでそれ以上突っ込む事ができなかった。

「勝手にしろ」

「ありがとう、カオル!」

 ホタルは、ペロリと舌をだすとクスクス笑った。


 ◆


 こんな事があってから、俺はずっとホタルに付きまとわれることになった。

 大学にそっと出かけても、アイツが先回りして教室でニコニコしながら待っているし、いつの間にかサークルの先輩達のマスコット的存在になっていて、皆からチヤホヤされていたりする。

 ドコへいってもホタルがいる。俺は、息が詰まりそうだった。


 ガクンと、エレベータが止まって、元のフロアに着いた。俺は、ホタルの肩を抱えると家に戻った。

「あのね、カオルの身に何かあったら困るんだ」

 突然、ホタルが俺にポツリと言った。驚いてホタルの横顔を見ると、やたら神妙な顔つきになっている。

「何かあったらって? 何が?」

 玄関のカギを開けながら、ホタルにたずねると、ホタルはいきなり俺の背中に抱きついた。

「このミッションを果たせるかどうかは、カオル、あなたがポイントなのよ」

「はぁ?」

「だから、私は、何が合ってもあなたを守る」

 ホタルは、背中をギュっと抱きしめてきた。

 俺はホタルを振りはらうと真っ暗な玄関で大きな声をあげた。

「だからって、俺に付きまとうのはやめてくれよ。地球外アンドロイドだがミッションだが知らないが、俺だってヒトリでいたいときもあるんだよ。チキショー! なんで、俺なんだ?」

 窓から差し込む月の明りの中で、ホタルの眉毛がピクリと上がった。

「だから、あなたが、ファーストコンタクトで、体液交換しちゃったんだからしかたないでしょう……」

「勝手にしたんじゃないか!」

 突然、ホタルが俺に抱きついてきた。

「もう、戻れないよ……。私だって、パートナーを自分で選びたいよ」

「……」

「でもね、カオルって知的で礼儀正しいし、私的には、結構気に入っているんだ」

「そりゃ、どうも……」

「前のミッションのときのパートナーは、そりゃ酷かったからねぇ……」

 そういうと、ホタルが悲しそうに俺を見つめる。一瞬だったが、俺もそんな表情に驚いた。

 突然、背中に激痛が走った。

「いててて!」

「あ、ゴメン。前のパートナーのことを思い出したら、ちょっとイライラしちゃってチカラいれすぎちゃったかも……」

 ホタルは、舌をだして笑顔で俺を見つめた。

「や、やめてくれよ!」

「うふっ……ミッションが終わるまで……それまでは、どうぞよろしくね!」

「ふぅ。ともかく、目立たないでくれないか……」

「がんばってみるけど、でも、カオルの妹のユカリちゃんって、それだけでも目立つからね。まぁ、カオルは今までどおりの生活を送ればいいよ! 事が起きたら、手伝ってもらえればいいんだから」

 満面の笑みのユカリ似のホタルに見つめられると、俺はそれ以上何も言う事ができなかった。


(つづく)


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