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Life Time Value  作者: Foryourlifeisgood
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手紙

目の前の木が風に揺られ外は少しざわめいているようだ。すぐそこの公園では子供達がわいわいとはしゃぎながら遊んでいる。


そんなのをいつも私は窓から眺めていた。


「彼方さーん。検査の時間ですよ」 


看護婦さんが検査器具をもって私の元にやってきた。


あぁ‥‥‥、またあの時間だ…。


「では、始めますね」


看護婦さんは私の手をとって器具をきつく腕に巻きつけた。少し苦しい感じはするがもう慣れてしまっているのでどうってことはない。なぜなら私はこの病院に物心ついたときからずっとここにいるから。


私は生まれつき体が弱かったらしく、入退院を繰り返していたらしい。


けれど幼稚園くらいの頃に怪我をしてしまってそれ以降ずっと入院している。


体も思うように動かないから、食事やトイレで精一杯。だから運動もろくにできないし友達と遊んだりもできない。


外で遊んでいる子供達を見ているとせつなくなる。……いいなあ。私も外で遊びたい。


けれど私はずっとこの病院ですごさなければならないかもしれない。


そんな事を考えていると胸が苦しくなる。


「はい、終わりましたよ」


役目を終えた看護婦さんは私の腕の器具を解いて帰っていった。


出て行ったのを確認してから私はささっとパソコンを取り出し電源をつけた。


今から何をするのか…。──そう。MMO。


基本料無料のアイテム課金制のよくあるネトゲだ。


起動してログインすると昔からフレンドのBlackFox(略してブラフォ)がいた。


「こん~、今日ははやいね」


「今日は学校がはやく終わってね、部活も今日は休みだし」


ブラフォとは2年くらい前にとあるギルドで出会って意気投合しずっと一緒にプレイしてきている。


因みに彼は学生だが、IN率は非常に高く上位ランカーでもある。


まぁ私も言わずと知れた上位ランカーなのですが…。


「ねぇ、yukipenpen(私のユーザーネーム)最近調子はどう?」


彼には私の境遇についてある程度は教えたので知っている。


「う~ん、あんまりかも…。良くも悪くもってかんじかな…」


「そっか…。はやくよくなるといいのに。そしたらオフ会とかできるのにね」


「そうだね……」


しかしそんなのは夢のまた夢のような話。無理に決まっている。


私が生きている間に偉いお医者さんがこの病弱な体を治してくれない限り不可能なこと。


それを毎日祈り続ける事しかできない私は最早退路の断たれたアリさんのよう……。つまり八方塞がりなのです。思い返すと辛くて泣きそうになることもあった。けど泣いた所で病気が治る訳でもないのでとっくに泣くのはやめた。


テレビでは学生達が楽しそうにライブ活動をしているシーンが映し出されていた。テロップには青春という文字が書かれている。


──青春…私と同じ歳くらいの人ってみんな経験しているらしいんだけど……、私にはそれが何なのかいまいちよく分からない。


ブラフォに聞いた話だと、カラオケいったり一緒に誰かの家で勉強したり…そういう学生時代にしかできない楽しい事が青春って言ってたっけ。


ということはブラフォもそういうの経験しているのだろうか……。長い時間ログインしてるからいつもゲームやってるイメージしかなかった。


そう考えるとなんだか一歩出し抜かれている気がして悔しかったと同時に羨ましかった。


「ぅう…、ずるい…」


声に出しても静寂だけが増していき自分に対する悲しさがより募っていく。


こんな事を考えていてもダメだ・・・。ゲームの世界に戻ろう…。


ディスプレイに目を映すと一件のメール通知が画面に照らされていた。


ん…誰からだろう?疑問だった。私は基本的にほとんどメール交換をしていない。というよりできない。ネットの友達との交友はゲーム内ですませれば十分だし…。


クリックして見ると、件名には「辛いあなたへ」と書かれてあった。


なんだろう……。宗教勧誘か何かかな?と思ったけどそんなのに登録した覚えは一切なかった。


不安になりながらも件名をクリックした。すると、内容はこんな風に書かれてあった。



 こんにちは彼方さん。


     春風が心地よく涼しいですね

 

     突然ですが、外の世界に行きたくはありませんか?


     楽しく仲間と遊び青春を謳歌してみませんか?


     もしその気が少しでもあるなら返事を下さい。お待ちしております


     あなたにも春の息吹が芽生えることを──


                         寿命管理人より  



なんだろう、これ。


どうしてこの人は私の素性を知っているのだろうか……。


まぁいいや…、どうせ放っておけばなんとかなるだろう。私にくるのなんて碌でもない悪徳商法か何かの類に決まってるんだし。


体をベッドに傾けて再び手紙をよく見てみる。特に変わっている点は見当たらなかった。


「はぁ…、もうなんなの…」


何かの冷やかしにしても性質が悪い。だって、私には未来がないのだから──。


結局、その日はうやむやな気分にさせられたまま眠った。




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