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5話 邪魔者が参入しました

劉璋さんが反董卓連合にログインしました。


敵?味方?……いいえ、ただの邪魔者です。








―――――――――――









「絶景哉、絶景哉。値千両とは小さい、小さい。この劉季玉なら値万両、万々両――――」


「おーい、何しとんねん自分?もう集合やで」


「あ、はいはーい」


何故か董卓軍内に劉璋の姿があった。さらに何故か張遼隊の新兵として参列していた。







「ニシシシッ」


劉璋は城壁の上で笑う。手に持っているのは一般兵が支給されている弓。城壁の弓兵へと配属されたのである。


ただ、先ほどから漏れる奇妙な笑い声に周りの兵から距離を置かれて劉璋の周りだけ変に距離が空いていた。


「なんや自分、大丈夫かいな?さっきから変な笑い漏れてんで」


「おや?これはこれは張遼将軍。どうかなさいましたかー?」


「いや、下から見とって自分ところがやけに間隔空いとるもんで見に来たんやけど………あんな奇妙な笑い声しとったら、そりゃ皆もああなるわな」


「ニシシッ。よく分かりませんけど、いいのですか?大将がこんな所にいらして?」


劉璋は身分を隠して、董卓軍の軍士、賈駆の呼んだ援軍に紛れて、この場に居るのだった。


「自分、本当に新兵なんか?」


「うん?どういった意味ですか、張遼将軍?」


「いや、やけに落ち着いとる言うか。普通はもっと緊張しとると思うんやけど……」


「ニシシッ。僕は顔に現れにくいのでねー」


「いや、全然そうは見えへんし……」


にこやかに笑いながら答える劉璋に張遼は不思議な感覚を感じる。それは武人としての感でなく、人としての本能が鳴らしている警報なのかもしれない。


「まぁあまり気張らずやり」


警告に従い張遼はその場から離れることにした。


「ニシシシッ。気張る?僕が?ありえないですよねー」


ニヤニヤと先ほどより更に奇妙に笑い出す劉璋に周りの兵は早く戦いが始まらないか切に願い始めたのは言うまでもない。


「さてさて、そろそろ始まりますかねー」


劉璋が呟くと連合の陣から1人の女性が出てくる。


「ニシシッ。これはアレですねー。ヤバいですねー」


全く緊張感のない間延びした声で劉璋は呟くと誰にも気づかれることなくその場から撤退していった。










シ水関での戦いは当初籠城の構えを見せていた董卓軍であったが反董卓連合の袁術の客将である孫策の挑発によりまんまと関から華雄が誘い出され、それを見た張遼は勝ち目無しと判断しシ水関を捨て、虎牢関へと下がるのだった。


そして誰も居なくなったシ水関。それを目の前に各諸侯たちの思惑が渦巻いていた。







「雪蓮?先陣を切らないのか?」


孫策が華雄を打ち取った後、進軍を止めた。いつもと違う幼なじみにして主に疑問を投げかける周瑜。


「まぁ良いんじゃないかしら。先陣は他の諸侯に譲りましょう」


「珍しいな。槍でも降るんじゃないか?」


「ぶー、失礼しちゃうわ。私だってたまには譲るわよ。それに………何か嫌な予感がするし」


孫策はそういうと今まさに門の前に立つ袁紹軍へと目を向けた。









「えへへー、アタイが一番乗りだぜ!」


「ちょっと文ちゃん!一応敵が居ないか警戒しながら入らなきゃ駄目だよ」


「大丈夫だって!斗詩は心配症だな。そんなんだと将来ハゲるぞ」


門前には袁紹軍の二枚看板、顔良と文醜が居た。先に斥候を放ち、粗方探ってはいるが伏兵が居ないとは限らないため顔良が忠告するが文醜は聞く耳を持たなかった。


「もぉー」


自信満々に歩いていく文醜の後を顔良が呆れながらもついて行く。


そして丁度文醜が門の前に足を踏み入れたその時。


――――バタンッ!!


「ふぎゃん!?」


轟音と共に門が『瞬時』にして閉まり、文醜の鼻頭にぶつかる。


「ちょっ!?文ちゃん、大丈―――きゃあ!?」


文醜へと駆け寄った顔良の上から墨が流れてきて、文醜共々真っ黒に染まる。


その光景を見ていた他の諸侯は唖然とする者、敵襲に備え陣形を築く者と一変にして場に緊張が走る。


だが、それ以降門から何らかの行動があることはなく。ただ時間だけが浪費されていくだけだった。





――――ニシシシッ。










「あの笑い声はまさか!?いや、そんなはずは。だってこの行軍に関しては私に一任されているはずだし……いや、でも………」


張松は空耳であってほしい笑い声について、髪先をいじりながら推測を立てる。しかしいつになっても結論は着くことはなかった。


「おや?張松ちゃん、何か考え事ですか?お困りごとならこの僕、劉璋さんにお任せだよ!幼女の頼みならあの日輪さえ落としてみせるよー」


「……はぁ。今すぐ消えて下さい」


「い・や・だ・よ」


「―――――ッ!!……はっ!?いけない、いけない」


劉璋の言動に耐える張松。それを見て更に笑みを増していく劉璋。


「ところで劉璋様は何故ここに居られるのですか?この行軍については私に一任して下さったはずですが?」


「うん。だから居るんだけど?」


「……あの、仰ってる意味が分からないのですが?」


「だから、僕はこの軍を張松ちゃんに一任した。この軍の大将は間違いなく張松ちゃんです。では今僕の立場は?」


「え?まさか………」


「今の僕はただのそこに居る人です」


つまり劉璋は公に働かなくていい状況だからこっちに来た、そう言っているのだ。張松は自分が色々と考えこの行軍を発案したのだが、この目の前の主はその思惑を知ってか知らずかそれを利用してサボろうとそう言っているのだ。


「まさか始めから……」


「うん?いや、この前気が付いたんだけどね。やたらと僕の所に仕事が来るからどうしたのだろうと思ってたら張松ちゃんたちが居ないからだと気付いたんだよね」


(だから嫌なんですよ、この人は。無駄な勘の良さがあるから。将来の為の下準備をするつもりで信頼できる部下たちを編成したのに……)


無自覚に邪魔をする劉璋に張松は1人苛立つがそれを劉璋が気付くことはなかった。


(多分、この人は私が計画を遂行しても気付きはしない。けど、万が一があるのも事実だし……)


髪をいじりながら今後の方針について考えをまとめる張松。


と、そこへ来訪者が現れる。


「――――やっぱり来ていたのね、劉璋」


「おや?久しぶりだね、曹操ちゃん」


夏候姉妹を従えた曹操が現れる。


「たがらちゃん付けは止めてちょうだいと言っているのだけど?」


「たがらーそれは無理だよー曹操ちゃん」


こめかみを抑える曹操に劉璋はへらへらと笑う。その後ろで夏候惇が剣を構えるのを夏候淵が止めていた。


そんな光景を目にしてみれば更に頭を悩ませる張松だった。








「さて、折角会いに来てくれた曹操ちゃんにお茶でも振る舞ってあげたいとこだけど僕は今”ただのそこに居る人”なので振る舞ってあげられないのは真に残念です」


「………別に構わないわ。というか要らないわよ」


劉璋は即席のイス(廃材を再利用)に座りながら曹操と向かい合う。


「で、ただ僕に会いに来てくれただけかな、曹操ちゃん?」


「一つ確認したいことがあるのだけど、正直に答えてくれるかしら?」


「うん、いいよ。僕は正直者だからね、嘘なんて生まれてから一度も吐いたことがないよ」


『……………』


「あれ?なんでそこで皆黙っちゃうの?」


「まぁいいわ。シ水関の絡繰、あれは貴方の仕業よね」


「え?何のこと?僕はたった今益州から来たんだけど?」


「……………」


頭を押さえる曹操に夏候惇を必死に抑える夏候淵。


「まぁ冗談は置いといて、何故僕だと思ったの?董卓軍の仕業かもしれないよ?」


「ウチにも絡繰に長けた部下が居るのよ。その部下が言っていたわ。この絡繰は良く出来ているって」


「いやいや~それほどでも~」


「そしてこうも言っていたわ。この絡繰は足止め目的ではなく、ただの“嫌がらせ”目的に作られたものだって、ね」


「ニシシシッ。よく見てるね、その部下さん」


劉璋の仕掛けた絡繰は単純なものだ。門の上にあるハンドルを引くことで重りを落とし、門に取り付けられた歯車と縄が引っ張られて瞬時に閉まる。


ただ重りの自重で動くため再び門を開くには絡繰を撤去しなくてはいけない。


それはただ瞬時に門を閉じるためだけの絡繰だった。


「まぁあれは別の目的で考察していたものを流用しただけだからねー」


「別の目的ですか?」


劉璋の言葉に張松が反応する。


「うん、そうなんだよねー。あれは僕が“1人”で大軍を相手にした時を想定して作った試作品の一つなんだよー」


劉璋はニシシシッと笑う。


「1人で、て………」


「それは少人数で大軍を相手取る為ってことかしら?」


張松と曹操は驚く。ただ2人の驚きは違った。


曹操は戦力を増やすのではなく、その利用法を模索するその考えに驚く。


そして張松は………。


(まさかこの人は私の計画を打破するために今日ここで試したのか?その絡繰の有効性を……)


底が浅く丸見えだったはずの池は底なしの沼だった。


「―――――なんてね」


『え?』


「ニシシッ。びっくりした?びっくりしちゃったりした?」


しかしその驚愕すら劉璋の手のひらの上でしかない。


「全くダメダメだねー。後学の為に年長者の僕が教えてあげるよ。他人の言葉は話半分で聞くことだよ」


人差し指を振りながら劉璋は言う。それもドヤ顔で。


「いくらその人が信用なる人だろうと胡散臭い人だろうと言葉なんてただの音でしかないのだから、自分で実際に見て、聞いて、感じたこと以外は何の信憑性もないのだよ」


パンッと手を鳴らして締めとする劉璋。


「ニシシッ。あ、そうでした。曹操ちゃんに聞きたいことがあったんだった」


「何かしら?」


「曹操ちゃんの所に新しい幼女が増えたらしいけど紹介して!」


「イヤよ!」


「なん、だと……。この世に神は居ないとはいうのか!?」


わざとらしく演技する劉璋に曹操はため息を漏らす。自分はこの男に先ほど驚愕させられたという事実をなかったことにしたいと思った。


確実にお荷物が反董卓連合に加わったのだった。

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