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3話 嘘つき、黄巾に参加する






―――――――――――――――




「ほあぁぁぁ!ほあああ!!ほあほあ!!」


ここは益州の外れにある平野。そこに仮説の舞台が作られその上で三人の少女が踊り、歌を披露していた。


「ほあああ!!ほあああぁぁぁあああ!!!」


その舞台を囲むように男たちが集まり、地を揺らさんばかりに叫んでいた。


なにを隠そうこの集団の正体こそが今巷を騒がしている黄巾党の正体である。


「皆大好き~~?」


「天和ちゃ~~~ん」


とはいえそれは彼女たちの追っかけが勝手にやっていることで彼女たちからすればただ歌や踊りを他人に見てもらいたくて各地を回っているのだが……。


「皆の妹~~?」


「地和ちゃ~~~ん」


そして今回、彼女たちが選んだのが益州の外れだった。


「とっても可愛い~~?」


「人和ちゃ~~~ん」


「――――――――――幼女!!」


何故か、その場に劉璋が姿があった。






「ほあああ!ほあぁぁぁぁぁあああああ!!」


「幼女!幼女!幼女!!」


「おい、一人違うのがいるぞ!」


「幼女!幼女!」


「そこか!!」


隊長らしき黄巾党が劉璋のいる一団を指差す。


「おい、誰だよ?今、変な掛け声してたやつ?」


ただ、人が集まり過ぎているため特定されてはいなかった。


「僕、聞きましたよ。この人ですよー」


劉璋はさも当然のごとく隣の名前も知らない誰かに罪を擦り付けるのであった。


「お前か!」


「違っ!?」


そして名前も知らない誰かは劉璋の身代わりになり連行されていった。


「よし。さぁ腹のそこから声を出せよ!!ほああああ!!」


『ほああああぁぁ!!』


「幼女!幼女!!」


「だから、誰だぁぁぁぁ!!」







「ニシシシシッ。これは中々面白いですねー」


舞台が終わり、黄巾党が休憩している中を劉璋はブラブラと歩いていた。


「なんでしたっけ?上白糖?いや、違ったような……?」


基本的に集まっているのは農民出の男たちと盗賊崩れ。


「それにしてもあんな短い丈で激しく動いて、前の席に行けば下着とか丸見えなのでは?ふむ。これは覗きに……偵察しに行かなくては」


何故、劉璋がこんなところに居るのかというと――――――。


「何か幼女に会える気がするので行ってきます」


「あ、劉璋さま。どちらに!?」


朝早くそんなことを言うと馬に乗って走っていったのだった。






「ニシシッ。うん、討伐してしまうのは勿体無い気がしますねー」


「見つけたぞ、この野郎!」


「うん?どちら様?」


劉璋の前に顔に痣のついた男が現れた。


「テメェ、さっきはよくも俺を身代わりにしやがったな!」


先ほど劉璋が身代わりにした男だった。


「え?何のことですか?人違いじゃないですか?僕は今ここに来たとこですよ?」


「へ?あ、そうか。すまねぇな、間違えたわ」


「いえいえー」


さらっと嘘を吐く劉璋に男は騙される。


「さっき着いたってことは天和ちゃんたちの舞台見てないのか?」


「えぇ、はい」


「それは惜しいことをしたな。今回のはいつも以上に盛り上がったんだがな」


「そうだったのですか。それは残念ですねー」


「まぁ、今は衣装を着替えてる頃だからもしかしたら夕暮れくらいにもう一回あるかもしれねぇな」


黄巾党の男は劉璋の肩をバシバシと叩くとそう言った。


「この辺りを治めてる劉璋ってのがかなりの愚鈍なんだよ。俺たちがこんな大掛かりな公演をしてるってのに軍の一つも見えてこねぇのがその証拠よ」


男は平野を見渡す。そこには砂煙一つ無い静かなものだった。


「もしかしたら2、3日はここで公演できるかもな。まったく駄目州牧様々だぜ」


ガハハっと笑う男。


「――――今、何て言った?」


すると劉璋の雰囲気が変わる。まるで一本の刀の様に研ぎ澄まされた空気に男が息を飲む。


「お前、まさか…………」


「――――地和ちゃんたちが着替え中だって!?」


――――ズコッ。


「それは覗けとそういうことですね!分かります!………ってどうかしたのですか?」


反応の遅れてしまった男に劉璋は首を傾げる。


「………はっ!?お前、覗くって。天和ちゃんたちをか!?」


「当たり前ですよ。そこで幼女が着替えているならそれを覗くはもはや天命!」


「そんなことを聞いて俺がここを通すと思っているのか?」


男は劉璋の前に仁王立ちし、その行く手に立ちはだかる。


「ニシシッ。熱い展開ですかー?嫌いじゃないですよー」


そう嘯く劉璋。始めに言っておくが劉璋の武力は低い。その辺りの雑兵にすら負ける程だ。しかし常に劉璋は不敵に笑い、姑息に策を巡らせ、不意に隙を突き、この世を駆けてきたのだ。


「天和ちゃんたちの純潔は俺が守る!」


「ニシシシッ。どうやら貴方は何か勘違いをしているようですね」


「何を言って……」


「僕の目的は『覗きに行く』ことなのですよ」


「だから、何を――――――」


「つまりはその先の『結果』ではなく、そこまでたどり着く『経緯』を楽しもうというのですよ」


劉璋はビシッと張角たちが居る天幕を指差す。


「今、あそこでは穢れなき幼女たちの無垢な姿がある。その姿を心に想い、この高鳴る胸の鼓動は心地よく、そこまでの道のりはまさに黄金色に輝く。覗きは男の浪漫!お前にはそれが無いのか!!」


今度は男を指差す劉璋。


「あそこには男の、いや俺たちの夢がある!!その姿は何より甘美で!その道のりは何よりも尊いものだ!」


劉璋の演説に男だけでなく周りに居た黄巾党たちが聞き入る。


「そんな宝を目の前にしてお前たちは何も思わないと言うのか!?その胸に何も感じないと!?」


すでにその場は劉璋の独壇場であった。


「確かに無垢なる幼女たちを覗くというのは罪だ。――――――しかし!!その罪に見合うだけの褒美がそこにはあるんだ!!人は生まれながらにして罪を重ねるものだと誰かが言った。だが、俺はこの罪を一切に恥じることは無い。何故なら俺は男だ。幼女の姿を見れば心踊る!幼女の笑顔は俺の疲れを癒す!」


だから、と劉璋は一呼吸置く。場の人間が劉璋を食い入るように見る。次の言葉に期待する。場の答えは既に一致していた。


「お前らが罪を犯すのが怖いというなら俺が先導してやる。お前らは黙って俺について来い」


そう言うと劉璋は天幕へ向かい歩む。もはやそれを止める者は居なかった。そして替わりに劉璋の後ろには大勢の男たちが付き従う。


「降参だ。あんたの、いや貴方の気概に心動かされちまったぜ」


先ほどの男が劉璋の一歩後ろに来るとそう告げる。


「ニシシッ。何を言っているのですか。僕は男として当然のことをしただけですよー。それよりも…………」


「あぁ、分かってる。行こうぜ、俺たちの――――――――」


――――――――――覗きゆめへ!!








「騒がしいと思い来てみれば、またお前か」


張角たちの天幕の前には黄巾党の隊長格たちが護衛していた。いわゆる親衛隊たちだ。


「神聖な公演への不敬の次は卑しくも覗きとは見下げた性根だな」


「へっ、何とでも言いやがれ。俺の心は既に決まってんのさ!なぁ兄弟――――――」


男は隣に居る劉璋へと声をかける。先ほどの演説のような心強い返答があるものだと…………。


…………。


「?」


うんともすんとも返答がなく、男は隣を見る。


「――――――――って、居ねぇぇえええええ!!!」


「何をさっきから一人でぶつぶつと……。覚悟は決まっているみたいだな。ならば遠慮は要らないな。一度なら温情をかけてやるが続けて二度ならばもう容赦はしまい。あの世で後悔するがよい」


「ちょ、待て!俺は何も――――――――」









「ニシシシッ。一つ忠告があるとすれば他人の言葉など信用できないということですかねー」


劉璋は張角たちの天幕の裏でほくそ笑む。興奮で我を失った男たちの視界から自然と消えるなど、いつも臣下たちから逃げ回っている劉璋にとっては朝飯前なのだ。


「さてさて、では心置きなく――――――」


「…………こんなところで何をしているのでありますか、駄目君主様?」


「へ?」


劉璋の後ろからこの場で聞くはずの無い、聞きなれた声がした。


「孟達、ちゃん?」


「ちゃん付けはやめてほしいのであります」


ビシッと敬礼する孟達の姿がそこにあった。


「それで駄目君主様はここで何をしているのでありますか?」


「……て、敵状視察?」


「そうでありますか。自分はてっきり幼女の尻を追いかけた挙句覗きを先導してあまつさえ協力してくれた者を囮に自分だけが覗こうとしている下衆野郎かと思ったのでありますよ」


「……に、ニシシ。いつから見てたのかな、孟達ちゃん?」


「何のことでありますか、下衆野郎?」


先ほどからピクリとの表情を変えない孟達。最初からゴミを見るような目だった。


「それで何か他に言うことは無いのでありますか?」


「……黄巾党を討伐しようか」


「では、城に帰って軍を整えるのであります」


「じゃ、じゃあ僕はここで敵が逃げないか見張って――――――置くのは他の人に任せて城に帰るよ、うん」


何の躊躇いも、音もなく軍刀を抜いた孟達に劉璋の笑顔は引きつる。


こうして益州へと侵攻してきた黄巾党は内部反乱と劉璋軍により散り散りとなった。ちなみに劉璋はというと…………。


「劉璋さま、次はこの案件について……」


「うー、もう休ませてよー」


――――――バシンッ。


「ひぃ!?」


椅子に括り付けられた劉璋が泣き言を言うと側で馬鞭を持った孟達が机を叩く。劉璋がふらふらと出歩いてる間に溜まった書類を片付けさせられていた。


ちなみに劉璋不在中、処理に追われた文官たちは武官たちへも協力を要請した。しかし、常時は鍛錬をこなす武官たちが政務をこなすことは容易ではなく四苦八苦していた。後に武官たちはこの日々を悪夢と呼ぶかは誰にも分からない。


「泣き言は泣いた後に言うであります!」


「それはおかしい気が――――――いえ、そうします」


劉季玉、本日生まれて初めて仕事をした。

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