2話 劉璋、幼女との邂逅
―――――――――――――――
「は?金平糖?」
「いえ、黄巾党です、劉璋さま」
玉座の間にて臣下たちからの報告を聞く劉璋。
「で、その金平糖がどうかしたの?」
「ですから、黄巾党…………いえ、もういいです。最近、ここら一帯まで勢力を伸ばしてきている賊です」
「我が領地での被害は今は微々たるものですが、いずれは甚大なものになるかと」
「ふ~ん、で何?」
「い、いえ、そのですね…………」
「あのさ、君ら、僕に仕えて一体何年なわけ?分からないかなぁ?」
玉座に肘を立てて、頬を乗せる劉璋はため息を吐く。
「僕は頭悪いんだから、自分たちがしたいことを言ってくれるかな?軍備の強化?人手の補充?したいことを簡潔に述べよ!!理解した?」
『は、はい』
「よろしい。じゃあ、あとは任せたよ」
「あ、あの、劉璋さまどちらに?」
席を立つ劉璋に臣下の一人が呼び止める。
「厠だけど何?」
そう言うと劉璋はふらふらとその場を後にするのだった。
「ふー。すっきりしました。さて、戻ります、か…………」
劉璋が玉座の間に戻ろうとした時、視界の端に『ソレ』を捉えた。
「…………ニシッ。これはこれは道草を食わなくてはいけないですね」
満面の笑みを浮かべた劉璋は『ソレ』へと近づいていく。
『ソレ』は青みの強い紫色の髪をした幼女だった。
「お嬢さん、ペロペロさせて下さい」
唐突に変態発言する劉璋だった。
「うん?お兄ちゃん、だれ?」
幼女は言葉の意味を理解していないのか、無邪気に劉璋へと話しかけた。
「ぐはっ!?」
そして何故かダメージを受けている劉璋。
「よ、幼女にお兄ちゃんって………我が人生に悔いなし!!」
「くいなしー!!」
右手を掲げる劉璋。そして幼女も何を思ったのか劉璋と同じ様に右手を掲げるのだった。
なんだこのカオスは…………。
「へぇ、璃々ちゃんはお母さんを探しに来たのかい」
「うん。そうだよ!」
(ジュルリ。幼女の笑顔……ウヘヘ)
もし劉璋が一般人であれば即牢屋行きであろうが、悲しくもこれが益州の州牧なのだった。
「うむ。お母さんは城で働いているのですか?」
「そうだよ。璃々のお母さんはスゴいの!優しくては強くて……怒るととってもコワいんだよ!」
自分の母親のことを嬉しそうに話す璃々。それはとても微笑ましい光景…………なのだが、その傍らで鼻の下を伸ばしている劉璋がそれを台無しにしている。
「璃々はお母さんにお弁当を持ってきたんだよ!」
「そうですかー。では僕もお母さんを探すの手伝ってあげますよー」
「ありがとー!えぇと………」
「あぁ。僕は柳々って言います」
「柳々お兄ちゃんだね!」
「ぐはっ!?」
璃々の笑顔でお兄ちゃんと呼ばれて昇天しかける劉璋であった。
「く、これが天然物の威力か……。だがしかし!我が野望の前には何人たりとも立ちはだかることは出来ない!!璃々ちゃん!!」
ふらつきながらも踏み留まり、劉璋は璃々へと顔を向ける。
「うん?なぁに?」
「――――手を繋ぎましょう!」
小さ過ぎる野望であった。
「ふふん」
「柳々お兄ちゃん、なんかご機嫌だね」
「ニシシッ。そうですか?そんなことありませんよー」
とは言いながらも完全に顔がフニャけている劉璋であった。
「それにしてもよく城の中に入れましたね。門番さんに止められなかったですか?」
「ううん。門番のお兄ちゃんたち、優しいんだよ。璃々がね、お母さん探してるのって言ったら通してくれたよ」
「ウチの警備、ザル過ぎる………」
「どうかしたの、柳々お兄ちゃん?」
「いえいえ、何でもありませんよ!」
城の警備の問題点よりも幼女との楽しい会話の方が劉璋にとっては優先順位は高かった。
「おーい、劉璋。こんな所で何してんだ?」
そこに張任が現れた。
「………チッ」
「おい、テメェ。今舌打ちしなかったか?したよな?」
「え?何?いきなり他人に因縁つけるとかどこの悪徳業者ですか?」
「テメェはいつもいつも他人を馬鹿にしやがって………。て言うか確かこの時間は各所から報告を聞いてる筈じゃ……」
「は?報告?何ソレ、美味しいの?」
「はぁ~。たまにはマジメに仕事しろよな」
「あ、うん。明日から頑張る」
「今、頑張れよ!?」
「ダイジョウブ。ボクハヤレバデキルコ」
「その喋り方は出来る奴のじゃねぇよ」
「柳々お兄ちゃん、この人は誰?」
劉璋と張任の会話に璃々が入ってくる。
「…………オイオイ、劉璋。いつかはやるとは思ってたが、流石に人攫いはマズいぞ」
「うん。スゴく分かりやすい誤解をありがとう。お礼に張任の部屋にも歯車増やしとく」
「止めろよ!あれ、すげぇ邪魔なんだぞ!!あんなの置かれたらますます部屋が狭くなるだろ!?」
「何を言ってるんだよ、張任?狭い広いなんて…………先ず足の踏み場があると思わないことだよー」
「最悪だよ!」
そんなやり取りを終えて、事情説明を済ます。ちなみに事情を説明したのは璃々だった。
「で、その子の母親はドコにいるんだよ?」
「知らないよー」
「名前は?」
「いや、別に知りたくないしー」
「探す気無いだろ、テメェ!!」
「……………ソンナコトハナイデスヨ」
白々しく目を逸らす劉璋。
「……ったくよ。嬢ちゃん、コイツと探しても見つからないぜ?」
張任は璃々の目線に合わせて座り、そう聞かせる。
「ううん。璃々は柳々お兄ちゃんと探す。柳々お兄ちゃんはきっと見つけてくれるもん」
「………だとさ。どうすんだよ、劉璋」
「ニシシッ。もう少し一緒に居たかったのですけどねー。幼女の期待を裏切るのは紳士ではないですよねー」
では行きましょうかー、と璃々の手を引いていく劉璋。
「心当たりあるのかよ?」
「張任、その歳で呆けましたか?僕はさっき無いと答えたと思いますよ」
「知ってるよ。じゃあどこに行くつもりなんだよ?」
「僕は無能ですけどね、ある程度優秀な部下は居るのですよー。玉座の間に行けば誰か知ってる人が居ると思いますよ」
そう言うと劉璋は璃々を引き連れて玉座の間に向かう。
「ったく、あんまし自分を卑下すんなよな。少なくとも俺はお前を見込んで従ってんだからな……」
一人呟く張任。その呟きは風に流れて誰の耳に入ることはなかった。
「全く劉璋さまには困ったものです」
「いくら我々が説いても理解して下さらない」
「これでは益州の未来が危ぶまれますな」
劉璋が席を外すと臣下たちが口々に不平不満を零す。
「ふん。己らが甘い汁を吸うために劉璋の坊主を担いだくせによく言うわい」
「こら、桔梗。あまり大きな声で言うことではありませんよ」
そんな臣下たちを遠巻きに見ているのは厳顔と黄忠だ。
「たが劉璋も劉璋よ。臣下にあれだけ馬鹿にされているのを知ってか知らずか相も変わらず………」
「もう桔梗ったら、またそんなことを言って………。良くないわよ」
「紫苑よ、これが言わずにおれるか?」
ため息を盛大に吐く厳顔。
臣下たちは未だに劉璋への不平不満を述べ、厳顔たちは不毛なこの場から去ろうとしたその時、部屋の扉が勢い良く開かれる。
「ただいまー、と。無能な君主さまですよー」
「劉璋さま!?こ、これは違うのです」
いきなり現れた劉璋にいままで不平不満を漏らしていた臣下たちが慌てる。
「そ、その先ほどの話は………」
「うん?話?あぁ、金平糖だかなんだかのこと?まだ話してたの?だからテキトーにやっといてって言ったのに……」
「………へ?金平?」
「あ、はい!そうなので今我々で黄巾党について対策を練っていたところでして!」
どうやら劉璋には先程までの陰口は聞かれていないのだと判断し、安堵する臣下たち。
「そうですかー。まぁ『いつも通り』でお願いしますよー」
劉璋はヒラヒラと手を振り、臣下たちを下がらせる。
「あ。そうだ、誰かこの娘のお母さん知らな―――――」
「璃々!?」
「あ!お母さんだー!」
璃々が母親を見つけると劉璋の手を放し、母親――――黄忠の方へと駆けていく。
「あ、そっか。黄忠さんの娘さんだったのかー。どうりでどこかで見たことがあると思ったんですよー」
「璃々?どうしてここに?」
「お母さんにお弁当を持ってきたんだよ!ほら、お母さんの好きな木の実も!!」
「あらあら、嬉しいわ。よく迷子にならなかったわね?」
「うん。柳々お兄ちゃんにここまで案内してもらったの!」
「柳々?」
璃々が嬉しそうに話すのでつい聞き返してしまった黄忠。
「はーい、柳々お兄ちゃんですよぉー」
手をひらひらと振る劉璋を見て黄忠の顔は一気に青ざめる。『柳々』というのが劉璋の真名だと気が付いたのだった。
「りゅ、劉璋さま!?申し訳ありません!私、劉璋さまの真名を…………」
「うん?別にいいですよー」
しかし、当の本人は全く気にしていなかった。
「幼女以外から何と呼ばれようと気にしませんからー」
ニシシシッ、と笑う劉璋だった。
「では僕はもう寝ますので後はヨロシクー。璃々ちゃん、またね。いつでも遊びに来ていいからね?」
「うん!バイバイ~!」
ご意見、ご感想お待ちしています。




